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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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体調不良で弱っているハーヴァンには申し訳ないが、こういう時こそ足枷を付ける好機だ。

薫はジョイスへ質問を始める前に、ハーヴァンに今がどういう状況なのかを話した。これからジョイスが薫の質問に答えるのは本来ならば主を支えるべき従者の体を思い遣ったからこそだと。


それだけではない。ジョイスがこの滞在に対し支払わなくてはならない額も話したのだった。こういう時は金額がストレートに響く。しかも、薫は既に伝えてある、ハーヴァンがこの後労働で自分の滞在費を賄うのだと。

ここまで話せばハーヴァンの足枷には重石も付けられたことだろう。


本物のスカーレットだったら、こんな追い込み方はしなかったかもしれない。しかし薫がスカーレットから受け継いだのは、容姿や知識など。残念ながらその中に崇高な精神はない。

あるのは会社で散々こき使われながらもその中で立場を確立し、いつしか自分が居なくなればどうなるのか知らしめるよう立ち回ってきた強さだ。自力でベースアップを勝ち取り、社内でのポジションを掴み取った程の。

それには、狡さや誰かを陥れる策も時には必要。

見方を変えれば、スカーレットには無かったこういう部分を持つ薫だからこそ選ばれたのかもしれない。


そしてハーヴァンは薫の狙い通り、優しくはない現状に視線を落としている。肝心な時に意識が朦朧とし、何も出来なかったどころか主であるジョイスのお荷物になってしまったことを悔いているのだろう。そしてそれは言葉になる。


「申し訳ございません、ジョイス様」

「俺がしたくてしただけだ。気にするな、ハーヴァン」

「ですが…」

「その先は、二人の時にゆっくり話して。それと、ジョイさん、質問がキャストール侯爵家かスカーレットに関係なければ答えなくていい。わたしにはそれ以外のことはどうでもいいもの。ずっとここで暮らすわたしには」

「配慮してくれてありがとう」


配慮ではなく、本音。しかし、悪く取られたのでなければ、そのままにしておいた方が好都合。あとは無駄な駆け引きなどせずに、単刀直入に薫は質問すればいいだけだ。


「じゃあ、早速。どこへ何をしに行っていたの?」

この質問に尽きると薫は思っていた。ジョイスが隣国へ出向いた理由がキャストール侯爵家にもスカーレットにも関係なければ、この話はここでお仕舞になる。


「お亡くなりになったキャストール侯爵夫人のご実家を訪問していた。今回が二度目だ」

残念なことに、ジョイスは質問に答えてしまった。だから薫はこの質問を更に掘り下げなければならない、その理由と原因を。


「隣国の公爵家を訪問、それをジョイさんが密かに急いでしなければならなかった理由と原因を教えて」

「理由は…」


ジョイスが話した内容、それは薫にしてみれば『そうなるよなぁ』というものだった。

しかし、もしもスカーレットが創造主の設定通りだったら、誰もが婚約破棄されてもおかしくないと思うような令嬢だったらどうなっていたのだろうか。

イービルは『その時』が過ぎれば、後はその中の人物達が未来を作ると言っていた。でも、イービルは設定通りに進むことが明るい未来につながるとは言っていない。ただ筋書き通りに進むだけだ、何が待ち受けているか分からない未来へ向かって。


仮に設定通りに進んだとしても、スカーレットの血筋を考えれば隣国から何らかのアクションがあった可能性は否めない。それ以前にスカーレットを心から愛する侯爵が、反旗を翻すことだって考えられた。

創造主にとっては誤算だったスカーレット。けれど長い目で見れば、家族、領民、国を愛したスカーレットはこの国を救ったように薫には思える。


そしてこの国は、今度は悪天候に助けられたようだ。ジョイスがここへやって来て、全てを話す状況に陥ったのは悪天候が招いたことなのだから。

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