第89話:吊り橋効果……だよね?
来たときとは違って、帰りは大集団になった。
私達の勇者パーティー、ラグルさんの冒険者チーム6人、ジスケルさんの輸送隊、そして元盗賊ロイさんが率いる兵士15名。
こんな大集団で動くと、1番に問題になってくるのは食料なわけなんだけど。
途中の避難して誰も居なくなった村で1泊することになった。
私達だけだったら、モフモフさんのスピードでトンネルまでは到達出来てたんだけどね。
全員が馬に乗ってる訳じゃないから、移動はどうしても遅くなるんだよね。
『ボス、野生の動物を狩ってきます』
「うん。必要な分だけね。乱獲はしちゃダメだからね」
『了解!』
馬車の連結から外されたモフモフさんが一直線に森の中に駆けていく。
魔物は人間以外は襲わないから、食料になる動物は結構居るんだよね。
「最初は俺達冒険者が見張りに立つ。輸送部隊は野営地の設営、サクヤちゃんとロイ達は食料調達を頼む」
ラグルさんの指示で、皆が素早く振り分けられた作業に取り掛かる。
ジスケルさんが1番身分が高いから指揮官じゃないの? って思ったけど、こういう遠征においては、身分よりも大事なのは遠征経験の豊富さらしい。
「嬢ちゃん、俺達は森で食料になる野草とか取ってくるぜ」
「あ、うん」
「よし、お前ら。3人1組で班を作り、1人は採集、2人は魔物を警戒しつつ、目標数に達した班は他の班を援護だ」
ロイさんの指示に敬礼して素早く班を作っていく。
ロイさんは小隊長って感じだね。
「クックさん。私達も行こう」
「はい」
「じゃ~えっと……クックさんは私の護衛。イザベラちゃんとリリーはラグルさんのサポートをお願い」
「はい! お姉様!」
「サクヤっち~。森の中で炎系の魔法を使っちゃダメだよ。辺り一面火事になっちゃうから」
「う……うん、大丈夫。ラグルさんに魔法は禁止されてるから」
と、言っておいたけど、魔法は禁止されたけど、スキルは禁止されてないもんね~。
クリエイトはスキルだし、スキルで魔法を作り出しちゃえばいいんだよ。
魔法を作り出すな、とは言われてないしね。ふっふっふ……。
日も沈みかけで薄暗くなってきた森の中で、私とクックさんは地面に生えている草を見ながら歩き回った。
うん。ただ見ながら歩き回ったんだよ。
「クックさん。これ食べれるのかな?」
アロエみたいな草を指差しながら聞いてみた。
形はアロエだから、果肉は食べられそうだけど。
「さぁ? どうでしょう? 私も野草に関する知識は無いですからね。クックック」
森に行くメンバーを完全に間違えた! 食料になる草とか薬草に詳しいのは、冒険者さん達のサポートに回ったイザベラちゃんとリリーなんだよね。
こうなったら人海戦術しかないね! 周りには私達2人しか居ないけど!
「クックさん! 手分けして手当たり次第にそれらしい草を取っていこうよ!」
「ですな。このままでは何の収穫も無く、リリーに笑われてしまいますしね」
ということで、二手に分かれることにした。
森の中を更に深く入り込んで行くと、少し開けた場所に出た。
その開けた場所の中央に、直径50センチくらいのリンゴみたいな果物が付いてる木を発見した。
リンゴみたいなのは1個しかなくて、高さは2メートルくらいありそうだけど、背伸びしたら届きそう? 食べれるのかな?
トコトコと、無警戒で近づいていってリンゴに手を伸ばそうとしたとき、そのリンゴが真ん中から割れて、鋭い歯が並んだ大きな口を開いた!
ガチン! と、噛み付いてきたのを尻餅をついて間一髪で避けるのに成功して、そのまま手足をバタつかせながら後退して距離を取った。
「ビックリした……て、うわわ!」
いつの間にか左足首にツルが巻き付いていて、リンゴの化け物のところに引き寄せられて行く。
ツルが巻きついた左脚は引き寄せられる力に完全に伸ばされて、背中とお尻は地面に擦られて、両手を使って地面を掴むように抵抗しても、力も無い私が抵抗できるわけが無かった。
リンゴの化け物は私を食べようと、鋭い歯が並んだ口を大きく開けた。
「あ……あ……クック……さん……クックさん! 助けてクックさん!」
ツルに左足ごと身体が持ち上げられた瞬間、風の刃が飛んできてブチッとツルを切断した。
一瞬の浮遊感の後、私はクックさんにお姫様抱っこされてた。
「すみません。サクヤ様から離れすぎていました」
リンゴの化け物から離れたところに私を降ろしながら謝ってきた。
そしてすぐにリンゴの化け物のほうに向いた。
「私は怒りでキレています。サクヤ様を襲ったあの魔物にも、サクヤ様を危険に晒した自分自身にも!」
全身から魔力が漏れ出している。
普段のふざけたような、おどけた雰囲気は今のクックさんには無かった。
「ウインドソード」
クックさんの魔法剣に風の魔法が宿り、風が舞った。
ツルが何本もクックさんに向かって飛んできたけど、クックさんは魔法剣を一振りしただけで、それを全て切り落とした。
「サクヤ様に危害を加えた罪、魔界の底で永遠に償え! エンドレス・エア・ロンド!」
リンゴの魔物の周囲に風が舞い踊り、切り刻んでいく。
それは激しさを増して、リンゴの実の部分も木も根も粉々にした。
魔物が光となって消えた後、クックさんがゆっくりと近づいてきて、目の前で片膝を付いて私の顔をじっと見詰めてきた。
クックさんは基本的にはイケメンだ。アイドルとしてキャーキャー騒がれても可笑しくないレベル。
普段の言動がそれを全部奪っている。
今はそれが無くて、片膝を付いてるから顔がすぐ近くにある。
それだけで胸がキュッと締め付けられるような感じになって、ドキドキと鼓動が早くなっていく。
クックさんの瞳をじっと見ていると、クックさんの右手が私の左頬にそっと触れて、顔を近づけてくる。
鼓動がより一層早くなる。
え? 何々? まさかキス!? キスされちゃうの? ……クックさんとだったら……。
「怖かったのによく泣かなかったでちゅね~。おこちゃまなのに偉いですね~。おや? どうして顔を真っ赤にしてるんでしょう? クックック」
私のドキドキを返せ~! キスしてもいいよって思っちゃった私の覚悟を返せ~!
「泣かないよ! 絶対にクックさんが助けに来てくれるって信じてたもん!」
「クックック。そうですね。さぁ、帰りましょう」
クックさんの左手で私の右手が優しく握られる。それだけで、凄く安心感が湧いてきた。
ドキドキが止まらないよ……。ラグルさんはお父さんのように好きって感じだけど、クックさんは……あ、そうだ! これはきっと吊り橋効果っていうのだと思う。恐怖のドキドキを恋愛感情と勘違いしちゃってるんだよ!
「マントも背中もお尻も泥だらけですね。クックック」
「うん。引きづられちゃたから」
「帰ったら着替えましょう。お手伝いしますよ」
「うん……って、1人で着替えられるよ! クックさんのエッチ! スケベ!」
「クックック」
本当に私のドキドキ返して!




