第56話:お遊びはダメ! 絶対!
戦闘訓練が失敗に終わって、私達は夕闇に包まれる頃、王都に戻ってきた。
失敗といっても、負けたわけじゃないけどね。
戦力に余裕がありすぎて、突撃指示だけで勝っちゃうっていうね……。
そして問題はこれだけじゃないんだよね。
「師匠、俺の指示は間違っていたのでしょうかね?」
「うん。いろいろとツッコみたいところ満載だね」
なぜかあの戦闘の後、我に返ったジスケルさんが私のことを師匠と呼ぶようになっちゃったよ。
クックさん達を従える私に恐怖したとか、まぁ、そんなところだとは思うけど。
「まさかね、指示まで脳筋だとは思わなかったよ」
「脳筋とはどういう意味で?」
あ~。この言葉は、こっちの世界にはないのかな?
「脳まで筋肉で出来てる人達のことを脳筋っていうんだよ」
「おお! 師匠に認めてもらえるとは!」
と、感激しながら何故か鎧を脱ぎ捨てて、腕を体の前で組んで、胸の筋肉をビクンビクンと動かしはじめちゃった。
「あのね! 褒めてないからね! なんでも力技だけで解決しようとすることを注意してるんだからね!」
「すみません……。力以外のことは、兄上が専門なので……」
兄って、あのヘラヘラ笑ってるちょっとキショイ人だよね……。
武の弟に智の兄って感じで分かれたってことかな?
フェルド王国の行く末を心配してたけど、常識と知識のある人が次期国王になってくれたら、ちょっとは安心できるかな。
「まぁ、兄上の学力は下の中といったところですけど」
「全然ダメじゃん!」
私も学力はないけど、本当にこの一族はなんとかしないと!
翌日、宿でクックさん達と作戦を考えて、闘技場に集合した。
作戦ていうのは、単純な話、相手が弱いからダメなんであって、それなら敵役にクックさんを配置しちゃおうっていう……。
こっちのパーティーメンバーのクックさんが抜けたポジションには、剣士タイプの召喚騎士さんを呼び出してもらったよ。
「ジスケルさんいい? 突撃だけじゃ絶対勝てないからね?」
「わ……わかっていますとも!」
着込んでいる鎧が、カチャカチャと音を鳴らして細かく揺れている。
足も震えてるし……。
クックさんの強さを見ちゃったらそうなるよね。
ここはビビッてるんじゃなくて、武者震いってことにしといてあげよう。
「クックさん。準備はいい?」
闘技場の中心に立っているクックさんに声をかけると、クックさんが手を上げてOKだと合図してくる。
「じゃ~、戦闘開始!」
「よし! 打ち合わせの配置についてくれ!」
ジスケルさんの掛け声と共に、皆が駆け出して行く。
剣士さんには盾を装備させていて、今回はみんなの壁役で正面から切り込んでいって、モフモフさんは疾走でクックさんの後ろに回りこんで、距離を置いて待機。
イザベラちゃんとリリーは、後方で左右に展開。剣士さんを頂点とした三角形の陣形で、剣士さんをサポートする陣形だね。
今回は私は打ち合わせに参加してなくて、私とクックさん以外のみんなで作戦を考えた。
さてさて、どうなるかな。
剣士さんがクックさんに斬り込む。
キイィィィンと金属がぶつかり合う音がして、力比べみたいな鍔迫り合いになった。
「イザベラ! 今だ!」
「ファイアボール!」
動きを止めてからの、魔法攻撃。
着弾の寸前に剣士さんが後方に跳んだ。
クックさんも予想していたみたいで、すぐに後方に跳んだけど……。
『光の疾風!』
ここだと言わんばかりに、背後で待機してたモフモフさんが、体が浮いてるクックさん目掛けて突進する。
「まだまだですねぇ」
余裕で体を捻ってモフモフさんを避けちゃった。
『闘技場が狭いのでな。まだ本気じゃ――て、あっつ!』
攻撃を避けられて止まったモフモフさんに、イザベラちゃんのファイアボールが直撃!
「クックック。同時攻撃を交差させたらこうなりますね」
「だよね~。ファイボールが着弾して、クックさんが着地した瞬間をねらうべきだったのかな?」
「ですね。着地した瞬間なら、体が多少は硬直しているので。クックック」
『そんなの関係ない! ファイアボールの弾速が予想より遅かったのだ!』
「まぁ! 私のせいだとでも言いますの! タイミングが早すぎて攻撃を避けられたモフモフさんが悪いのですわ!」
仲間同士で言い合いになっちゃったよ。
作戦はよかったんだけど、少しのタイミングのズレでどっちが悪いとか言い争われてもね……。
「ジスケルさん、この事態をなんとかしなくちゃ」
「ふっふっふ……あ~はっはっは!」
右手で顔を覆って、仰け反りながら大笑いを始めちゃったよ。
「あなた達の争いを俺が止められるとでも? 俺も高く評価されたもんだ! あ~ははは」
「誰も高く評価してないけどね」
「……すみません。俺には無理です」
うん。分かってたけどね。
「クックック。言い争ってる場合ですか?」
そう言ってリリーに向けて右手を突き出した瞬間。
「わきゃ!」
悲鳴と共にリリーが後ろに吹き飛んで、壁に叩きつけられて気絶しちゃった。
魔法じゃなくて、衝撃波っていうのかな? ただそれだけで、レベルが高いはずのリリーが簡単にやられちゃった。
「クックック。訓練と言えども、戦いの最中ですよ? 貴重なヒーラーのリリーを無防備にしておくなんて、何をしてるんでしょうね?」
「く! デオドール! 行け!」
あ、召喚騎士さんはデオドールっていうんだ。初めて知ったよ。
ていうか名前あったんだね。
デオドールがクックさんに向かっていって、剣を振り下ろしたと思ったら、その場に崩れ落ちて、クックさんは膝蹴りの体勢でピタッと止まってた。
「隙だらけで剣を振り上げてどうするんですか。あなた達も真剣さが足りませんね。これはお遊びですか? 私は怒りましたよ?」
クックさんがフルフェイスの兜を装着したマジモードになって、赤い魔力が立ち昇って、一瞬で重い空気が張り詰めた。
「はふ~……」
ジスケルさんが変な断末魔を上げて、白目をむいて倒れちゃった。
クックさんの本気の魔力を見ただけで失神……。
これ……クックさん本気でキレてる?




