地獄という名の。
春が終わりそうな今日は曇り空。そして紅く眩しく、熱い。数分前まで、あの大きな木は緑が覆い、すぐ側で横たわってるばあさんは暇そうに雑誌を読んでいた。振り返ると魚屋のじいさんは、それこそ死んだ魚のような目で倒れてはいなかった。
死んだ人間も魚も結局は同じって事か。逃げろやら、早く行けやら、どこから出ているのかわからないような叫び声、泣き声。そんな周りとは裏腹に、1人この状況を理解し、その上で膝をついて動かなかった。
「おい!そこのガキ早く逃げーーーーーー」
俺に向けられたであろう声は鋭い鉄によって途切れた。あぁ、今死んだのはあの人か。それにしてもそろそろ火の手がこちらにも来たようだ。
ようやくこの世界から解放される
身体が熱い。痛い。焼ける。どうせこのまま生きていたって親も、妹も、友達も、親戚も誰しもが死んでしまうだろう。それならいっそ、皆と一緒に死にたい。
ーーーーーー地獄でもどこでもいいから早く……
どうやら、今まで願いなんて叶えてくれないと思っていた神様はようやくここで叶えてくれるようだ。もう感覚はない。身体も動かない。意識だけが微かに残っている。でも、まだ死なない。こういう時、意識だけは少しの間残るとは聞いたことはあるがこんなに長かっただろうか。
「おい、こいつ生きてるんじゃないか?」
黒い布で身を包み、村を火の海にしたヤツらが生き残りを探しているんだろう。どうやら黒焦げになってもなお動き続ける心臓の音を聞きつけてやって来たようだ。
「どうせほっといても勝手に死ぬだろうが、貴様らに罪はない。今、楽にしてやろう」
罪なき人間を殺すんじゃねぇよ!!と叫びたかったが、まぁ無理だ。17年間しかなかった人生も、悪くはなかっーーーーーーーーーーーー。こいつ、首に剣刺しやがったな。感覚はないけど、なんとなくわかる。ほら、心臓の音だってようやく止まった。周りの音も何も聞こえない。完全に死んだ。
ーーーートト・ディーナ17歳。趣味も夢も特にない。そんなちっぽけな俺の人生は今日で終わったーーーー
はずだった。が、目覚めるとそこには火は消え去りあちらこちら血まみれの家や瓦礫、死体が転がる無残な村だった。
神様は確かに願いを叶えてくれた。いつの間にか雨が降り、雨粒は目に、そして頬へと流れ落ちる。
あの世の地獄より、こっちの方がよっぽど地獄ってわけか……




