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第69話 縁を掴む



「怖い、んだ……」


 不甲斐ないことを言ってるとはわかってる。

 けれど、どうしようもない不安と恐怖に苛まれているのも事実だった。


「皆が俺のことを本気で想ってくれてるのは、わかるよ。でも……怖くて仕方ないんだ」


 互いにずっと支え合ってくれていると思っていたミリアが、勇者と逢瀬を交わしていた教会での光景がフラッシュバックする。

 怒りや悲しみ……そんなものより、目の前の光景が信じられないし、わからなかった。

 ただ……足元が、自分自身が、ガラガラと崩れ落ちていく感覚。

 あんなのは二度と、経験したくない。


「――また人を好きになるのが……愛するのが、怖いんだ……」


 エルミーたちは昔からの馴染みだし、レイナーレは勇者パーティーを助けてくれた。

 恩だってあるし、あれだけまっすぐ想いをぶつけられたら、その……好意だって、ある。

 けどそれを自覚するたびにあの夜の光景が、今度はエルミーたちの姿になって想起される。


「皆を好きになっても、離れていくんじゃないかって、また捨てられるんじゃって……考えるんだ。そんなことしないって、思ってるのに」

「不安になるのは、わかるよ……。でも」

「オレたちは違うぞ。絶対に、お前を裏切らない」


 二人は真剣な顔で訴えてくる。

 それぞれ俺の服を掴む手にもぎゅっと力が込められて、思いの丈が見える。でも――


「その言葉を誓いにしたものすら、裏切られたんだ……」

「「……っ!」」


 二人が、息を飲む。

『結魂の誓い』……それが脳裏をよぎったんだろう。

 何人もの相手と結ばれることができるこの世界において「たった一人としか結ばれない」という誓いはそれこそ、最上級の愛の証明。

 死ぬまで、そして死してなお魂まで結ばれるように愛し合おう、というものなんだから。


 破れば罰もある。けれど、そんなもの必要ないってくらいに互いを愛する者同士が立てるものだ。

 婚約とも、結婚とも違う。

 全く別物の、神に立てる誓約……だったのに。


「そんな誓いを立てておきながら、俺はミリアに、彼女に――浮気をさせたんだ、そうしたいって思わせたんだ」

「それは……ッ、あの女が悪いんだろう! お前は悪くない!」


 レイナーレはそう言ってくれるけれど、首を振る。

 原因がすべてミリアにある……とも言い切れない。俺が悪かったところだって、きっとあったんだ。だって――


「エルミーならわかるだろ? 昔は俺たちが、愛し合ってたって……」

「……うん、そう、だね。なんでこんなことになったんだろうって、今でも思うくらいだよ」


 それでも浮気させてしまったんだから、俺が致命的に間違えていたんだろう。ダメだったんだろう。

 そうとしか思えない。最初から……ミリアがそんな人だったなんて、思いたくないから。


「俺が間違えたんだよ、だから……ッ、浮気なんてされて……! エルミーたちを好きになっても、また間違えるのが……怖いんだ」


 二人に抑えられて、顔を隠すことすらままならないのに涙が流れる。

 また人を好きになっても。

 また、間違えるのが……離れられるのが、怖い。

 だから彼女たちの好意を受け止められなかった。


「だから……っ、嬉しい、けどっ! 駄目で、怖くてっ……! なんで俺が、こんな――」

「――アベル」


 なにを言っているかもわからないほど、口をついて言葉が漏れていく最中……エルミーに、呼ばれた。

 瞬間――


 唇に、熱く柔らかい感触が触れた。


「――っ!?」


 驚いて目を開ける。すると、ぼやけた視界に広がるエルミーの瞳。

 甘い匂いが鼻腔に広がる。

 柔らかいソレが蕩けるような甘さと、甘く痺れるような熱い感覚。

 そんな心地良さは、ゆっくりと離れていき。


「ずっと傍にいるよ……! ずっと好きでいるから……ボクたちのこと、好きになって、いいんだよ……?」


 泣き笑いのような、けれど優しいエルミーの表情と一緒に、俺に染み込んできた。


「エル、ミー……」

「――そうだ、離れない。傍にいてやるから……離すなよ」


 エルミーと見つめ合っていると、頬に手を添えられ無理やり別の方向を向かされる。

 レイナーレが空いた片手で、無理やり視線を合わさせてきた。


「捕まえて、抱き締め続けて、離れるなんてオレたちに考えさせなければいい。お前の大きな愛なら、できるだろう?」


 そうしてゆっくりと顔を近づける。


「"セカンド"は譲ったんだ。これくらい、いいよな……んぁ――」


 彼女の美しい顔が迫り、柔らかな唇が重なると……長い舌が、口内に忍び込んできた。


「っ、っ――!?」

「ん、ぁむ――」


 まるで蛇のように互いの舌が絡みつく――全部を包んで触れ合うように、彼女の熱くて柔らかいモノが俺の中を這い回る。

 やがてねっとりと絡み合うのに満足したようなソレは、舌の先まで舐め上げるように帰っていった。


「――っぷぁ……っは。……こんなキスは初めてか? 深いキスの初めてはオレが貰ったな……♪」

「っは、ぁ――レ、レイナーレ……!」


 そ、そりゃこんなの、初めてだ。ミリアとだってこんなの、したことない……!


「ずっと傍にいるからね。だから好きになっていいんだよ! ボクたちもたくさんアベルのこと、好きになるから!」

「お前の愛なら捕まえられるのも悪くない。きっと渇くなんて、無いだろうからな……♪」


 二人が包み込むように愛を囁いてくるけど、ちょっと待って、ちょっと待って――!

 待って、いきなりキス!? なんで!? 凄く良かった! そういうことじゃなくて!

 突然襲ってきた快楽に、頭が全然回らない。


「で、でも、俺――」

「チッ、まだゴネるか」


 頭が茹だって何も考えられないだけなのに、レイナーレは舌打ちして目を細めた。

 俺に半ば押し付けていた豊満な胸を離して、上体を起こした。


「それでも信じられない、不安というのなら――」


 彼女に倣ってエルミーも離れると、レイナーレは指を鳴らした。

 その次の瞬間には――二人の身体には、一糸たりとも纏われていなかった。


「――身体に直接教えてやる」

「なっ……なぁ……!?」


 はっ、はだ肌はだか――――!?!?

 視界に広がる白い肌に、目が白黒する。


「《変身》で作った服だったんでな。デザインもオンオフもオレの自在だ」


 そんなこともできるのか……!?

 スキルの悪用によって曝け出された二人の裸体は、容赦なく俺の理性に突き刺さる。


「最初っからこうする予定だったのさ。女による傷は女で癒すのが一番だからな。あぁ……お前を愛している女で、な……♡」


 レイナーレが唇を舐める様は、元は男だったのがどうでもよくなるほど、艶めかしかった。

 多量の唾液で色っぽく光る唇から目を離す。


「恥ずかしい、っけど! やっと……!」


 いつもだったら真っ赤になっているのに今は情欲に染まった顔をしたエルミーの表情を見て、ゾクゾクと湧き上がってくる衝動を必死に抑える。


「いやっ……でも俺、ほとんど経験ないし……! ミリアとの初めてだって、途中で中途半端に中断するくらいダメだったみたいだし……」


 そうだ。俺ってミリアとの初夜は失敗してるし……浮気された原因も、あの初体験で失敗したからかもしれないのに……!


「ボクも初めてだよ……っ! 大丈夫! が、頑張るからっ!」

「なぁに、オレに任せておけ。ヘタでも処女でも、手取り足取り仕込んでやるぞ? 初物から育てるのはいつだって楽しいからな……!」


 エルミーは意気込むし、レイナーレは舌舐めずりしながら意地悪い笑みを浮かべる。

 二人の白魚のように細い指が滑らかに、艶めかしく俺の胸板を滑り――逃げられないと悟った。


「――ん? ハハッ、お前もその気になったか」

「そんなことされて、そんなの見せられたら……そりゃ、そうなるよ……っ!」

「いいさ……むしろ、嬉しいぞ? お前にやっと、そう見られた……!」

「ボ、ボクも……! だから、アベル――」


 顔を手で覆いながらも、ソワソワと体を密着させ始めるエルミー。

 喜悦をにじませて猛獣のような眼光で這い寄るレイナーレ。

 二人に覆い被さられながら――俺は、二人の背中に腕を回した。

 

「|愛し合おう……?《「愛し合おうか……!」》」


 その日は、長い夜になった。






【Side 扉の前】



(――ドアの前でスタンバってたら……! なぁに、これぇ……!)

(わぁ……すっっっ、ごい音ぉ……これ……! ああぁあぁ……!)

(声も……え? これ声でいいのよね? ……こんなの獣の断末魔じゃない……っ!)

(すっごい……二人ともずっと名前呼んでる……ていうかアベル君いつまで……!?)

(凄い……凄い……こんなの、わたしたちがしてるのなんてただのおままごと……! これが本気の男女の……!)

(レイナーレさんあんなに経験豊富そうだったのに……!)


((きゃあああ〜〜〜〜!!!!!!))



怖くて出せなかった部分と二次創作()は、あっち行きに…。

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