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第65話 《紅血ノ王》 【レイナーレ Side】


【Side 両刀始祖】



「そぉーらよっと!」

「くっ……!」


 氷海の空の上。

 オレに向かって、爆発的な加速で龍が迫る。狂爪を紙一重で避けた……が、肌を炙られる。

 反撃に奴の背中に向けて左腕一本で糸を振り抜くが、容易く弾かれた。


「いい加減諦めたらー? そんなボロボロになっちゃってさぁ」

「チッ、やかましいぞ」


 親し気に話す火龍の鬱陶しさに舌打ちが出てしまった。

 右腕を消し飛ばされてからも戦いは続き、オレはあられもない姿になっていた。


「はぁ、まったく……お気に入りの服がボロボロだ」


 せっかくのアロハシャツとスキニーも焦げ付いて、所どころに穴が空いている。

 チラリズムによってひどく煽情的だ。どうせならアベルに見せたかった。


「いいカッコだけどさ、服だけじゃねーって。キミ自身もボロボロじゃん」


 そうだな。《変身》によって傷は消しているが右腕は無いし、身体の各所に火傷も負っていたか。


「キミじゃオレには勝てないよ? なーんも攻撃効かないじゃん。それにあっちの男も死にそうだし。弱くてダサい男より、オレに抱かれた方がいいぜ?」

「アベルを舐めるなよ、殺すぞ」

「それが無理だって」


 ワイヤーの斬撃も大剣の一撃も、火龍には効かなかった。痛がっていてもすぐに回復する始末だ。

 アベルの方も小娘が本気を出したようで苦戦しているらしいが……。


「これ以上レディちゃんを傷つけたくないんだけどなー。キミならお気に入りにしてあげるから、長~く可愛がってあげるよ?」

「心にもないことを宣うなよ。獲物をいたぶるのに興奮しているくせに」

「……えぇ? ハハッ、そんなことないよ~?」


 その割に、目が爛々とギラついているがな。女を抱こうものなら、興奮のあまり犯しながら(はらわた)を食い千切りそうだ。

 しかし、悔しいがこのままではコイツに致命打を与えられないのも事実。

 ――悔しいが、ここまでだ。

 

「――ハァ……仕方ない、か」


 ため息と共に、だらんと腕の力が抜け――オレは諦めた。


「お、その気になってくれた? ダイジョブダイジョブ! 壊すのはあとで、最初はすんごい天国見せてやっからさぁ」


 ニヤけて近づいてきた火龍が手を伸ばしてくる。

 肉を貪る捕食者のように、喜悦に顔を歪ませている。本当に――醜悪だな。


「そうそう、やっぱりメスは大人しく従順でなきゃ――」


「アベルがほとんどスキルを使わずに戦っていたからオレもやってみたかったんだが……やはり、ジョブ由来のスキル無しでは難しいな」


「……は?」


 この戦い、アベルと同じようにやってみたくてスキルを封印して戦ったんだが……やはり限界がある。

 惚けるバカトカゲに失った右腕を見せつけながら、オレはこの戦いで初めて……ユニークジョブ、《始祖》のスキルを行使した。


「いやいや、ナニ言ってんの――スキル? 使ってなかっ」

「――《紅血ノ王》」


 その瞬間。

 オレの右腕は、瞬時に元の姿を取り戻していた。


「腕が、生え――」

「歯を食いしばれ」


 再生した腕を振りかぶる。

 アベルにだけ見てもらいたいのに、ずっと不愉快な目で見てきたこのクソ男を……思い切りブン殴りたかったからなァ!


「死ね! 女の、敵がッ!」

「へぶっ――!?」


 色男を語る顔面を素手で殴られたクソトカゲは、はたき落とされた蟲のように吹き飛ばされ。

 ハンマーで殴りつけられた時よりも速く、分厚い氷すら突き破り、ヤツは氷海に墜ちていった。


「身の程を知れよ、クソガキが」


 龍? 炎? それで勝てると?

 何千年と生きてきた、吸血鬼の《始祖》に?

 ヤンチャをしていた強大な蒼い龍(クリムシャリオ)とも渡り合っていた存在が、千年も生きていない頭の弱いガキに負けるとでも思っていたのか。


「げほっ、ゴホッ! ごァ……ぁエ? なんで――」

「急にパワーアップしたか、か?」

「ッ!?」


 氷の下の冷水から這い上がってきた赤トカゲを出迎える。

 ついでだ。首を掴んで引き上げてやろう。


「ぐ、苦し……ッ!」

「オレのスキル《紅血ノ王》はな。強化、回復など、いくつかの効果を内包した複合スキルだ」


《紅血ノ王》。身体能力を強化し、腕の再生をも瞬時に行える《始祖》の基本スキル。


「ま、コストが魔力だけとはいかない……オレのスキルはどれも()()使()()がな」


 本来の吸血鬼は嗜好品として血を摂取する、が……オレの場合、さらに別の意味がある。

 血と、血に含まれた魔力を溜め込むスキルでチャージし、それを触媒にしてスキルを行使する。

 通常なら配分を考えるのだが……数日前から、()()()()()()()()()()()()を吸えていたからな。


「どれほどの効果かは……この通りだ。体感しているだろう?」

「はな……せっ、ぐあ――!」


 首を絞める手から逃れようとクソ男が暴れるが、オレの手はビクともしない。

 龍よりも強い膂力で吊り上げている。


「そしてこれは、魔法にも効果が及ぶ」


 ジタバタと暴れる火龍を放り投げる。


「《血糸鋼線(ワイヤーブラッド)》……!」

「いッ、ギャァアアア――――!?!?」


 振り抜いた両手から延びる、先ほどは軽く弾かれた糸が、容易く火龍の肉を裂く。

 どうだ? 手も足も出ないとは恐ろしいだろう。それが、食い物にされてきた、女たちの感情だ。


「なんっ、だよ! なんだよそれぇ! なんだよお前ェ!」

「ハハハハハッ! 淑女(レディ)に向かってお前とは! 口の利き方がなっちゃいないぞ青二才!」


 紅い糸が硬い皮膚を裂き、肉に食い込み、再生を阻害する。ついでに身体を絡めとって縛り付ける。

 飛びたくても逃げたくてもできないヤツの表情は、焦りと恐怖に染まっていた。


「ガァアッ――!」


 必死に逃げようとするヤツは大口を開けて炎を吐き出す。

 ブレス。右腕を焼き尽くした業火の光線。だが――


「それがどうした……!?」

「なっ……んで燃えないんだよぉ!?」


《紅血ノ王》で強化された肉体はそんなものでは崩れない。

 ブレスを受けても、燃えた端から再生していくからな。


「そろそろ自分の体にも目を向けたらどうだ? 今にもどんどん、失っているぞ?」

「ぐっ……なんだコレ、力が……まさか、オレの血を!?」

「ハハハ、龍の血は魔力も濃いなァ!」


 そのまさか。

 肉を斬り裂き、血が滴るオレの血糸。それを伝って魔力が(みなぎ)った血を吸い取っていく。

 戦いの最中であろうが、敵であろうが、その生き血を啜る。

 オレは全ての吸血鬼の祖なのだから。


「ところで火龍(おまえ)は火に耐性があるだろうが――傷口はどうだ?」


 しかも今は若干性能が落ちる人間態。熱には強かろうが生物……体内を焼かれてただで済むかな?


「――《イグニッション》」


 小さな炎上を起こす《火属性魔法》。

 それを奴に食い込んだ血を起点に、遠隔で魔法を放って火ダルマにする。


「アッツ熱、あつ、ギャァアアア!!!」


 世界でも稀有な火龍の丸焼きだ。

 傷口を焦がし、再生もできずに悶え苦しむ赤トカゲを玩具のように振り回し……思い切り氷海へと叩きつけてやった。


「アベルほど沸き立ちもしない……つまらないな」


 アベルとの夜は本当に、血沸き肉躍るいい夜だった。口ほどにもない相手と戦うと、今だに思い返してしまう。

 この思い出もいいが、アベルとの『別の戦い』で上書きしてみたいところなのだが……。


「クソが……クソアマがぁあああああ!!! ぶっ殺す! 殺す! 焼いて潰して噛み砕いて、灰になるまで燃やしてやるよこのクソメスがぁ!」

「まだお預けだよな」


 怒りに燃える火龍が、氷を溶かして歩いてくる。

 いくら龍の逆鱗に触れたからと言って、一方的に蹂躙されたのに萎えない戦意は……大方、「本来の姿に戻れば」なんて考えているのだろうが。


「元の姿に戻るのは勧めないぞ」

「アア!? 何言ってやがる! いつものオレならお前なんか瞬殺――」

「戻ったら、糸に裂かれて死ぬからな」


 ヤツの体には、糸を絡めている。

 龍は軒並み巨体を誇る。今の小さな体に巻き付けられているのは、龍のパワーでも千切れない鋼線。

 少し糸を引き、皮膚を裂いて血が噴き出ることを思い出させてやる。


「――……あ」


 その感触に、茹っていた頭が急速に冷めていく。考えなしに体を膨らませれば、待っているのは死、のみだと。

 それを今更になって自覚したのか。


「な、なぁ……れ、レディ、さん。オレを殺さない方が、殺すより、もっといいことある、かもよ……?」


 ハッ、ヒュウ――そんな、途切れ途切れの拙く浅い呼吸を繰り返す口から出たのは。

 おそらく、生まれて初めての命乞い。


「ほう。例えばどんな風にだ?」

「レディ、さんはさ、すっげぇ……強くて……オレがいたら、もっと強いんじゃな~い? ほら、きっと、その、なんだっけ……そう、Sランク? とかいう人間の奴らよりも、オレらがコンビを組めば強かったり……あっ、ほら! あそこの男!」


 不格好な命乞いだ。「奪う側」でいたために、「乞う」ことに慣れていない。

 だからこそ……コイツはアベルを引き合いに出した。


「そんなに強いなら、あんなのに惚れてることもねぇって! オレと一緒にさ、暴れるとか……人間支配してやんのもいいじゃん! オレの方が男としてもいいって! あんな、カリナちゃんに殺されそうなヤツより、オレの方が――」

「確かに」


 命からがらと言うのが相応しい無様な言葉を断ち切って、オレは口を挟んだ。


「確かに、オレは不死性――『負けない力』においては世界でも五指に入る。それも半数のSランクを置き去りにして」


 極まった存在、というのは往々にして一芸以外も高水準に至っていることが多いものだ。

 例えばアベル。《強化魔法》により防御力は高く、ほとんどの攻撃は耐え、《回復魔法》で瞬時に癒してしまう。

 高い魔力量と魔力操作だからこそ織りなせる絶技ではあるのだが、致命傷を負えば死んでしまう。

 その点であれば、首を刎ねても体を貫いても、()()()()()()()()オレは圧倒的なステータスを誇る。


「さらにオレはパワーもある。速度もエルミー並みには速い。だが一点において、オレは彼らに及ばない。それこそ、オレがアベルと引き分けた理由であり、あいつをSランク足らしめるものだ」

「……は? 引き分け……アンタと? ……あり得ねぇ、そんなこと……なんで、どうやって」

「さァな? 死ぬお前に伝えても意味がない。――何が言いたいのかといえば」


 ヤツの首にかかる糸に指をかける。

 惚れた男を下げる言葉など……女として、聞いていられないからな。


「――あまりオレと、オレの惚れた男をナメるな。くたばれクソ野郎」


 その場に響いたのは、鮮血と、息絶えた生首が落ちる音だけだった。


「……ふぅー」


 張りつめた気を抜きながら、天候が変わり始めた空……その方向を見て呟く。


「こっちは片付いたが、そっちはまだかな――アベル」



 ・ ・ ・ ・ ・



 ――朝の快晴はどこへやら。

 晴れ晴れしさとはかけ離れ、吹雪き始める海の上。


『――フン。しぶとい』


 この荒れ模様の元凶である龍――カリナが見下ろす視線の先には。


「はぁー……ぜひゅ……かはっ……」


 血を流し。

 左腕が落ち。

 眼球まで傷つき、剣を落とした《四剣》が。

 冷たい氷に、倒れていた。


どうも、赤月ソラです。

激戦の最中ですが、皆様にお願いを。

「面白い」「性癖に刺さる」「続きが読みたい」そう思った方々はどうか、♡や☆(応援やコメント、レビュー)等をお願いします。

作者のやる気が倍々になります。



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お手に取っていただけると幸いです!


KADOKAWAオフィシャルサイト

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エルミーたちが可愛いので、ぜひご覧ください!

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