表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒く淀むもの  作者: 牧田紗矢乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

仲間入り

 吐くか、泣くか、どちらかだ。

 胃の中の物は食道をせり上がり、すぐそこまで迫っている。涙は瞳を潤してもなお余りある。

 どうせならその両方をやって見せようか? そうすれば間違いなくこの空間から抜け出せる。


 けれど、私には何もできなかった。無駄に高すぎるプライドが、それを許さなかったのだ。

 吐きそうになりながら、泣きそうになりながら、私は考えた。どうしてこんな所にいるのか、どうしてこんなことになったのか、と……――。




 初めのうち、私の行動に間違いはなかったはずだ。

 目立たぬように、邪魔にならぬように人の輪から外れた。そうするうちに、聞こえていた皆の会話が意識から失せた。それと共に私の存在感も消え、私に目を向ける者もいなくなったはずだった。

 私がいなくても、その場が成り立っていたのだから。




 それなのに。

 私はその会の主催者ホストに名前を呼ばれた。跡形もないほどに、存在を消していたはずなのに。

 呼ばれたからには、前に出なければならぬ。主催者の隣の席を勧められたからには、そこに座らなければならぬ。輪の中に入るのだから、場の空気に合わせて表情を作らねばならぬ――。

 すべてが苦痛だった。気が付けば、吐き気と涙が込み上げていた。

 私以外の参加者は、揃いも揃って満面の笑みだ。


 はたと思う。

 この病は、とうの昔に克服したのではなかっただろうか、と。

 ……現に症状が出ているのだから、治っていなかったのだろう。


 ――社会不適合者は所詮、社会不適合者でしかないのだ。


 私は嘲笑を込めた笑顔を、輪の中心にいる主催者に向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ