仲間入り
吐くか、泣くか、どちらかだ。
胃の中の物は食道をせり上がり、すぐそこまで迫っている。涙は瞳を潤してもなお余りある。
どうせならその両方をやって見せようか? そうすれば間違いなくこの空間から抜け出せる。
けれど、私には何もできなかった。無駄に高すぎるプライドが、それを許さなかったのだ。
吐きそうになりながら、泣きそうになりながら、私は考えた。どうしてこんな所にいるのか、どうしてこんなことになったのか、と……――。
初めのうち、私の行動に間違いはなかったはずだ。
目立たぬように、邪魔にならぬように人の輪から外れた。そうするうちに、聞こえていた皆の会話が意識から失せた。それと共に私の存在感も消え、私に目を向ける者もいなくなったはずだった。
私がいなくても、その場が成り立っていたのだから。
それなのに。
私はその会の主催者に名前を呼ばれた。跡形もないほどに、存在を消していたはずなのに。
呼ばれたからには、前に出なければならぬ。主催者の隣の席を勧められたからには、そこに座らなければならぬ。輪の中に入るのだから、場の空気に合わせて表情を作らねばならぬ――。
すべてが苦痛だった。気が付けば、吐き気と涙が込み上げていた。
私以外の参加者は、揃いも揃って満面の笑みだ。
はたと思う。
この病は、とうの昔に克服したのではなかっただろうか、と。
……現に症状が出ているのだから、治っていなかったのだろう。
――社会不適合者は所詮、社会不適合者でしかないのだ。
私は嘲笑を込めた笑顔を、輪の中心にいる主催者に向けた。




