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海に還る   作者: 澄川あや


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3/3

立花 2

更新が遅くなってすみません。

今回も前回に引き続き、怖いことは全くありせん。

 乗船が終了したのだろう。階段を上るざわめきが聞こえなくなり、ガンガンと大きな音を立てて出航準備が始まった。

 腕の中の彼はジタバタもがいた。

「いっくん、外見る?」

 そう言って恵美は柵ぎりぎりまで寄った。眼下には車両デッキで忙しそうに出航準備をしている船員たちが見える。

「このフェリーすごいのよ。両頭船なのよ。私が本当に小さい頃は船の横側からしか海が見られなかったの。

 解放的だし、風が気持ち良いでしょう?

 で、さっき座っていたイスは船酔いした人、しやすい人が座るの。

 昔ほど揺れがひどくないとはいえ、やっぱり揺れるからね。もしもの時は掃除もし易いし。

 出航すると歩くのも少し危ないし、客室の扉も重い気がするの。だから、最初からいる人も多いよ」

 恵美の腕から背伸びでもするように客室を見、足下の床を見比べた。

 イスが客室の壁に固定されているだけで、他にはなにもない。雨はもちろん、波が入る事も想定されているからか、水を流せばすぐにきれいになる想像が出来た。

「昔のフェリーは、揺れがひどくて、私、何度も座敷席で端から端までコロコロ転がったのよ。だから子どもと老人は座敷席って暗黙のルールがあったんだと思うのよ。

 でも、もう少ししたら、本土と橋がかかるの。自由に行き来出来るってすごくない? 嬉しいけど、少し不安。

 橋が開通したら、まずは家の鍵をかけなきゃだね」

 それ基本だろと腕の中の彼が鋭く突っ込む。


『少し残念だな。タイムスリップしたような時間の流れというか、静かで穏やかでのどかで、ひと気がないのに一人じゃない感じが良いのに』

 恵美は穏やかに笑って言った。

「いっくんは都会の人なんだね。

 言葉の訛りがなさそうだから、多分、東京とか、埼玉とか、神奈川とかそこら辺の人。だけど、広島にいる」

 恵美は強い口調で言い切った。

「あの女を本気でなんとかしたければ、近い東北地方に行くはず。なのにここにいる。

 それを思い出すことがいっくんの記憶を取り戻す手掛かりになるはず。

 あの女は最凶に良くないモノだから、いっくんが落ち着くまで待ってあげたいけど、多分、時間がないと思う。だから、おばあちゃんを頼ろうと思う。

 おばあちゃんを紹介する前に立花について話そうと思う」

 恵美がどこから話すか思案しているとき、出航を知らせるアナウンスが流れ、ボォーと汽笛が聞こえた。恵美は彼の頭を撫で、柵から離れ、イスに座った。船が動き始めると客室から外に出てくる人がチラホラ現れた。


「立花って、昔は橘って書いてたらしいの」

 人目をはばかってか、恵美の声は低く抑えられていた。先を促すように彼が尻尾をピンと張った。


「昔、天皇の命を受けた田道間守たじまもりが、常世国から今で言う橘の実を持って帰ったんだって。

 だけど命令を出した天皇はすでに亡くなっていた。彼は天皇の墓前に持ち帰った橘を献上して、その場で死に、彼が献上した木の実から、一年中青々としている橘の木が生まれ、橘は二つの国を繋げて立つ(絶つ)神秘の力があると信じられてきたの。

 だから橘は神聖な魔除け、長寿の象徴とされた。

 で、飛鳥時代になんの因果か、その橘を食べた女性がいたの。それが橘氏の始まり。

 本来なら食べてはいけないものを口にしてしまったせいで彼女は存在自体が魔除け。血は浄化作用を持ったと言われているわ。

 恐らく、天皇の身代わりになり難を祓った功績として橘の姓を戴いたのね、これが源平藤橘の始まり。


 つまりね、橘家は難を引き受ける憑依系と身体強化して難を絶つ破邪の系統があるの。憑依系は希少なの。

 憑依系筆頭が橘家直系になるんだけど、薄家すすきの断絶の前に途切れ、破邪の分家だけが各地に残った」

『だから、そんなに脳筋なんだね』

 納得したと言いながら、彼は思わず溢した。恵美は少し拗ねた顔をした。


「失礼ね、家訓を守ってるだけなのに」

『……ちなみにどんな家訓……』

「恐れるな。慈悲をかけるな。

 何事も力でゴリ押せ」


 予想通りの家訓に彼は前足で顔を掻く。

「それはいいとして、脳筋集団の中でもたまに憑依系が生まれることがあるのよ。それがおばあちゃん。憑依系はいわゆるスピリチュアル的にすごい人なのよ。

 まぁ、そういう事でびっくりしないでね」

 ちなみに私は脳筋系! と恵美は右手で拳を作り、左手にパンパンと打ち込んだ。

『それはなんとなく知ってた』

お読み下さってありがとうございます。

もっと早くに更新する予定だったのですが、遅くなって申し訳ありません。

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