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疫病神は死にたくない!  作者: よくぼーのごんげ!
第■章 『■■■■■■■■』
1/10

『鳴りやまない音』



 絶望の、音がした。――心が、痛い。


 失望の、音がした。――耳に、残る。


 怨望の、音がした。――目が、滲む。



 ずっと、ずっと、鳴っている。

 ドクンドクンと、一定のリズムで、脈を打つ。

 そのことに、疑問を抱くしかなかった。

 ――何で、お前なんかが…■■■なんかの音が、鳴っている。

 絶望を生み出し、失望を増やし、怨望を向けられることしかできないお前の音が、鳴っている。



 ―――うるさい。頼むから早く、止んでくれ。



△▼△▼△▼△▼△




「――――」


 それは、静かな夜だった。

 空は雲一つなく、満天の星空が広がっていた。夜空に散りばめられた星達が、自身の存在を主張している。

 そして、大きな満月が、地上を見下ろしていた。そして、月明かりが優しく照らす地上は、綺麗な夜空とはうって変わり、悲惨な状況だ。


「――――」


 一つの、大きな国。そこは、《《ある一帯を中心に》》、赤く染まっていた。その『赤』の正体は、今しがた流れたばかりの鮮血である。

 血が飛び散り、臓物が散らばり、数多の死体が地面に転がっていた。


「――――」


 そんな惨たらしい状況の中、一つの人影がただ、呆然と立ち尽くしていた。


「――――どう、して」


 悲痛、あるいは軽蔑に満ちた男の声が、夜空に響く。

 静寂が漂う夜に、声はよく響いた。しかし、その声を拾う者は誰もいない。それが分かっていながら、男は言葉を吐く。


「どうして」


 男はこの状況にもう一度、小さな声で問う。誰もいない、月明かりと惨状だけが広がるこの夜に問いを投げかける男は、滑稽とも言えた。

 もちろん、誰からもその問いの答えを得ることはなく、言葉は暗闇に溶けていく。

 そうして再び静寂が訪れた時、男は歩き出した。


「どうして……!」


 フラフラと、足元がおぼつかないながらも、歩を進めた。その時、再び発した無意味な問いには、少しの力がこもっているように感じられる。

 そしてその足元には、周りの死体にくらべ、まだ綺麗な状態の死体があった。他の死体はほとんど原型を留めていないにも関わらず、この死体だけは、体の前面を大きく斜めに斬られた傷だけが刻まれていた。


「どうしてなんだ……シーニャ……」


 男は誰かの名前を叫ぶ。それは、その死体の名前だろうか。はたまた、それを死体にした者の名前だろうか。


「どうしてなんだよぉ……」


 男はその場に座り込み、その死体を抱き上げる。

 なんとも冷たい体なのだろうか。

 その冷たさは、生命活動の完全な停止を物語っていた。かつてあった温もりをたぐり寄せるように、男は死体を抱きしめる。

 しかし、少しして温もりなど残っていないことに気付いたのか、抱きしめていた力を抜くと、男は天を仰ぎ何かに語りかける。


「なぁ、見てるんだろ? 頼む、聞いてくれよ」


 周りは死体しかない。生きている者など、誰一人としていない。それなのに、男は何かを期待しているかのように、今にも泣きそうな声で、語り掛ける。


「――――――――――――――で―――――――なのはわかってる。でも俺がシーニャを―――――――、――――――――――。だからその代わりに、――――――――――を、―――――――――――。だから神様、どうか俺を――――」


 男は神に向かって話しかけていた。

 そして、一瞬の躊躇いを挟み、縋るような望みを、願望を、天へと仰ぐ。


「――――俺を、殺してくれ」


 その狂気の沙汰ともとれる願いに、世界は少しの沈黙の後、男を中心に光が当たりを強く照らした。月明かりなんかよりずっと眩しい光が、視界を塗りつぶす。


 そして光が止むと、そこには―――、




 ――――そこには、再び静かになった夜が、ただ満ちていくばかりであった。




△▼△▼△▼△▼△




 絶望の、音がしない。 ――ようやくだ。


 失望の、音がしない。――もう大丈夫。


 怨望の、音がしない。――やっと終わる。



 ずっと、聞くことを強いられていた音が、やっと消えた。胸に手を当てれば、すぐに聞ける音が。

 それがようやく終わり、■■■の心は開放感に満ちていた。

 ■は気持ちがいいと、以前何処かで聞いたことがあるが、本当だったのかと■■■は思う。

 そうした開放感に包まれながら、■■■は意識を手放す―――、


『ダメだよ。そんなの、許さないから』


 意識を投げ出し、■を受け入れようとする■■■へ、そんな声が投げかけられた。

 その女性の声は、穏やかそうに聞こえても、芯が通っている、力強い声だ。――何度、この声を聞いただろうか。

 『彼女』がそういう声になるときは、必ず、■■■を叱っている時だ。

 無茶をするなと、そう叱ってる時の声だ。

 そんな声が聞こえ、■■■は溜息を吐いた。

 深く、深く、深く、息を吐いて――、


「――お前はいつもそうやって、俺の邪魔ばっかりする」


 忌々しげに、■■■はそう言う。

 だが、そんな言葉が聞こえてないかのように、目の前の女性は、『彼女』は、口元に笑みを浮かべて——、


『ごめんね。私はやっぱり、貴方に■んで欲しくないの。でも――』


「————」







『―――■■、■■■■■■』





 ―――そして今、始まりが、終わった。



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