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サンクチュアリ

 翌々日、土建屋さんから連絡があった。


 投げ銭の人の所在が特定できたそうな。


 実際に動いてくれたのは、以前にもお世話になった彼と仲良しだという興信所。今回は土建屋さんや普光院さんも出資してくれたので、懐には余裕がある。お金に物を言わせて超特急で仕事に当たってもらったそうな。


 連絡を受けたのは朝方。


 すぐに二人と合流して現場へ向かうことに。


 待ち合わせ場所は、普光院さんの自宅の近くにある馴染みの公園とした。そこで彼女と合流の上、土建屋さんに拾ってもらった。移動はこれまでも度々お世話になってきた、彼所有の高級セダンである。


 自身が助手席、後部座席に普光院さんといった配置。


「名前しか手がかりがない状況でしたのに、かなり仕事が早かったですわね」


「ネット上に本名が出ていたそうで、職場から個人が特定できたらしい」


 ハンドルを握りながら、こちらの問いに応じてくれる土建屋さん。


 その発言を耳にして、普光院さんからも疑問の声が上げられる。


「あの、有名人ってことですか?」


「アンタたちと比べたら社会的な知名度は低いが、界隈ではかなり有名な人物らしい。然るべき場所でちょっと名前を出したら、すぐに反応があったそうな。まぁ、自分も今回の件で初めて耳にした訳だけれど」


「それで今はどうしているんでしょうか?」


 繰り返して続けられた質問。


 彼女も投げ銭マンが心配なのだろう。


「入院先の病院までは特定してもらったよ」


「そ、そうなんですね!」


「ニート予備軍さん、別に配信のときと同じ口調で構わないよ?」


「いえ、だってその、私は子供でモフモフ星人さんは大人で……」


 自動車が向かった先は、都内の大学病院だった。


 自身でも名前を知っているような大病院である。


 自動車を駐車場に止めて受付に向かう。


 祈るような気持ちで面会希望を申し出た。


 すると、返ってきたお返事はといえば――


「そちらの患者さんは面会を致しかねておりまして」


「……とても仲良しなのです。駄目ですか?」


「恐れ入りますが、お引き取りを願えませんか?」


「…………」


 女児による泣き落としも効果がなかった。


 愕然としつつ受付から距離を取る。


 そんなまさかという気持ちが胸に溢れる。


 ただ、直後にも土建屋さんから声がかかった。


「アグダさん、恐らくまだ彼は亡くなってない」


「そ、そうなのですの?」


「死亡が確認された仏さんの扱いだけど、病院に寝かせておけるのは精々半日から一日くらいなんだよ。昨日、今日に亡くなったのでなければ、彼はまだ病院のどこかで生きているんじゃないかと思うんだが」


 メッセージが届いたのは一昨日。


 送信のトリガーがノートパソコンやスマホなど、身の回りの端末の放置時間から決定されると仮定した場合、死亡したその日にメッセージが送信されるような設定は、流石に仕掛けないような気がする。


 ちょっとした体調不良で寝込んだだけでも、遺書がスッ飛んで行きかねない。だとすると、彼が前後不覚になってからは数日の経過が想像される。その上で身柄が今も病院にあるとなれば、なるほど。


「それでも面会を断られるということは、ご家族が一律で断っているか、もしくは重篤な状況にあって面会を行えないかのどっちかだと思う。いずれにせよ面会が困難なのは変わりないだろうけど」


「ドラマなんかだと、集中治療室に寝かされて面会謝絶とかよく見かけるよね」


 土建屋さんの説明を耳にして、普光院さんが呟いた。


 たしかにそんな気がする。


 本人が意識不明なら配信にだって来れないだろうし。


「普光院さん、集中治療室の場所を特定しますわよ」


「了解だよ、アグダちゃん!」


 こんなこともあろうかと、本日はフード付きのパーカーを装備の上、マスクを着用してきた。顔の大半は隠れているし、やたらと目立つブロンドの頭髪も衣類の下に収まっている。下半身も長ズボンなので肌の露出はほとんどない。


 多少監視カメラに映った程度では、個人の特定は不可能だろう。


「ちょっと待った。まさか忍び込むつもりか?」


「生きてさえいれば、どんな状態でも一発完治上等ですの」


「下手をしたら、アグダさんの声優人生が終わっちまうよ」


「それならそれで構いませんわ」


 受付の近くに見られた館内の見取り図に向かう。


 集中治療室はどこだろう。


 少なくともこのフロアには見られない。


 土建屋さんと普光院さんも後ろから付いてくる。


「とはいえ、普光院さんを巻き込むのは申し訳ないので、ここはわたくしにお任せあれですわ。サクッと癒やして参りますの。ここのところにカフェが営業しているそうなので、そちらで落ち合うとしましょう」


 見取り図の一角を指し示して伝えた。


 大手カフェチェーン店が入っている。


「アンタたち少しは落ち着いたらどうだ? もっと確実な方法を……」


 焦燥に駆られた我々を宥めるように口を開きかけた土建屋さん。


 その懐でスマホがブブブと震えた。


 筐体を手に取った彼は、画面を見つめて小さく笑みを浮かべる。


「アグダさん、アンタが知りたがっている情報が今まさに届いたよ」


「本当ですの?」


「興信所が彼の知り合いから、入院先の部屋を聞き出してくれた」


「興信所の人たち優秀過ぎでは?」


「先月も見舞いに訪れていたそうで、確度はそこそこ高いそうだ」


 土建屋さんから伝えられた情報に従い、場所を移動する。


 病棟は受付が収まっている建物の隣に建ったビルだった。


 出入り口は地上階で他棟と接続、開放されており自由に行き来が可能。


 入院患者さんと思しきパジャマ姿の方々も、好き勝手に往来している。


「それでは行って来ますの」


「できれば無茶は止めて欲しいんだけどな」


「アグダちゃん、やっぱり私も一緒に……」


「こういった状況でこそキラリと光る女児属性ですわ」


 ここから同行者二名とは別行動。


 病院関係者が見られないタイミングを狙ってエレベーターに乗り込む。


 閉めるボタンを連打。


 どうにか一人でカゴに収まった。


 どうか誰も乗ってくれるなと、祈るような思いで階数表示機を眺めていると、エレベータは途中で停止することなく目当てのフロアまで移動した。チン、という軽快な音と共にドアが開かれる。


 するとカゴから降りた直後、看護師さんとエンカウント。


 四十路ほどと思しき中年女性だ。


 彼女は一人でエレベータに乗ってきた女児を眺めて首を傾げる。


「お嬢ちゃん、こんなところでどうしたの?」


「トイレに行ってきたの」


「お見舞い?」


「うん」


「どこの病室か覚えてる?」


「大丈夫、覚えてる」


「それなら一人で戻れるかな?」


「大丈夫、お手を煩わせません」


「あら、難しい単語を知っているのね」


「どうもありがとうございました」


「いえいえ、どういたしまして」


 女児を装って看護師さんを見事に回避。


 中身のオッサンだったらこうはいくまいて。


 そそくさと廊下を過ぎて彼女より距離を取る。


 そこからはより慎重にスニーキングミッション。廊下を行き交っている病院スタッフの目を盗んで、目当ての病室を目指す。廊下に見られる部屋番号の並びから、土建屋さんから聞いた番号を探す。


 すると早々目当てのお部屋を発見。


 人目が捌けたタイミングで室内に入り込む。


 室内にはベッドが一つ。


 どうやら個室のようだ。


 それもかなり広々としている。


 ベッドスペースとリビング的な空間が床続き。


 合わせて二十畳以上ありそう。


 都内の大病院でこの規模の特別病棟となると、最低でも一泊うん万円。高級ホテルに宿泊するのと大差ない差額代金がかかってくる。伊達に高額の投げ銭を連発していなかった、ということなのだろう。


 部屋に足を踏み入れて、すぐ目に入ったのはカーテン。


 その先にベッドが配置されているのだろう。


 部屋の奥には大きな窓。


 レースのカーテン越しに陽光が差し込む。


 都心の騒々しさとは隔絶された穏やかさ。


 その只中、ピッ、ピッ、という電子音が規則的に聞こえてくる。


「お邪魔します……」


 小さく呟いて足を運ぶ。


 カーテンによって隠された先へ。


「…………」


 部屋の中程に配置された大きなベッド。


 そこに男性が寝かされていた。


 ガリガリに痩せたミイラのような人が。


 恐らく自身の力では立ち上がることも困難だろう。骨と皮だけになった人とは、こんなにも儚く映るものかと、目の当たりにしていること自体が申し訳なく感じる。頭髪もすべて抜け落ちている。


 口元には酸素マスク、腕からも沢山のチューブやコードが接続されている。掛け布団の下、ベッドサイドから伸びているのはカテーテルだろうか。各々が伸びた先には点滴の袋や医療機械などがズラリと並ぶ。


 あまりにも痛々しい光景。


 それでも自身にとっては不幸中の幸い。


「投げ銭の人、生きていてくれて、よかった……」


 ベッド脇のネームプレートにもしっかりと彼の名前が書かれている。


 心電図モニターの音が、黒瀬さんの肉体から発せられていると理解して、心底から安堵を覚えた。別人だったらどうしよう、そんな不安が霧散していく。土建屋さんの言葉通り、彼はまだ亡くなっていなかった。


 しかし、人心地ついたのも束の間のこと。


「トイレってどういうこと?」「だから、子供が入り込んだのよ! 特別病棟は病室内にトイレが付いてるから、他所に行く必要なんてないの。それなのにトイレって」「患者さんの知り合いじゃないんですか?」「この病室の患者は面会謝絶なの!」


 廊下が騒がしい。


 どうやら先程の嘘がバレたようだ。


 咄嗟にドアのカギを内からかける。


 施錠機能が付いていたのは不幸中の幸い。


 特別病棟だけあってセキュリティが行き届いている。


「これ見てよ、中からカギがかかってる!」「患者さんが自身でかけたのでは?」「できる訳ないでしょ! 重篤で明日も危ういっていうのに」「こら、開けなさい! ここを開けなさい!」「ナースステーションからキーを持ってきます」


 ドンドンとドアを叩く気配が届けられる。


 声色から察するに、先程の看護師さんで間違いない。


 これに構うことなく、女児は全力で回復魔法を行使。


「待っていて下さい。すぐに治しますんで」


 こういうときの為に、自分は回復魔法をゲットしたのだ。


 こんなにも早く出番がやってくるとは思わなかったけど。


「…………」


 異世界で逆ハーの姫から教えてもらった呪文を詠唱する。


 応じて黒瀬さんの肉体が淡い光に包まれる。


 腕にいくつも付いていた注射痕が、ほんの数秒ほどで癒えていく。その様子に効果を確信する。顔に刻まれていた痛々しいシワも段々と和らいできたぞ。体内で血流が改善されたからだろうか。


 なんならげっそりと痩せていた肉体までもが、ほんのりと膨らんできたような。以前、自宅で回復魔法を当てた枯れかけのカイワレ大根よろしく、干からびていた肉体に生気が宿っていくのを感じる。


 っていうか、頭髪まで芽吹いていないか。


 しばらくすると、まぶたがピクリと動いた。


「黒瀬さん、朝ですよ」


 ものの試しに語りかけてみる。


 すると更にピクリと動いた。


 ややあって、ゆっくりと目が開かれる。


 何度か瞬きをしたところで、その口が小さく開かれた。


「……アグダ、ちゃん?」


「お目覚めの気分はいかがですか?」


「あれ、おかしいな。なんだか体の具合がいいよ。まだ夢でも見てるのかな?」


「夢ではありませんわよ? どこか痛いところがあったら仰ってくださいまし」


「走馬灯ってやつ、なのかな? アグダちゃんの配信、もっと見ていたかった」


「これからいくらでも見て欲しいッス。そう大したものじゃありませんけれど」


「……アグダ、ちゃん?」


「ですから、そのように伝えておりますけれど」


 段々と意識がハッキリしてきたのだろう。


 はたと何かに気付いたようで、黒瀬さんの表情が強張った。


 しきりに瞬きを繰り返したり、目元を指先で擦ってみたり。


「ど、どうして君が、こんなところに……」


「土建屋さんや普光院さんと協力して、入院先を突き止めましたの」


「……失礼だけど、今って何月何日かな?」


「今日は十二月二十四日、クリスマスイブですわ」


「なんてこった、一ヶ月もワープしてしまったよ」


「急に容態が悪化したとか、そういう感じッスか?」


「まさにそんな感じだと思う。ナースコールを押したのは覚えてる」


 かなりの期間、意識を失っていたみたい。


 どおりで配信にも見られなかった訳だ。


「お体の具合はどうですか? 意識を失っている間も含めて、異世界の領主さんを治したときと同じくらいは光らせています。ただ、できれば本人の口から確認をさせてもらえたらありがたいです」


「うん、とても楽だよ。こんなに気分がいいのは何ヶ月ぶりだろう」


「こんなことになる前に、さっさと言ってくれればよかったですの」


「助けを求めるにしても、あのタイミングで声をかけたりしたら、なんだか違法モペットの彼と同じような感じがしない? だからもう少し様子を見てから切り出そうかなとか、ズルいこと考えていたらご覧の有様だよ」


「全然同じじゃないッスよ」


 こんな状況であっても謙虚な物言いから、誠実な内面が透けて感じられる。配信では下ネタ担当みたいな雰囲気があったのでギャップも甚だしい。もっとチャラチャラした人物だと思っていたよ。


「なにより僕の病気は本来、治るようなものじゃないんだ」


「そうは言ってくれますが、恐らく治ってしまいましたの」


「アグダちゃんに迷惑をかけることになるかもだし……」


「そんなこと気にしても仕方がないッスよ」


 さて、こんなもんだろうか。


 両腕を下げて回復魔法を終える。


 患者を照らしていた淡い輝きも収まりを見せる。


「いきなり遺書が飛んできて、それはもうビックリしたんですから」


「あぁ、そんな仕掛けを秋頃に仕込んだような気がするよ」


「おかげで我々も、黒瀬さんの危篤を知ることができましたの」


「アレのおかげで僕は助かったのか……」


「回復魔法の加減はどうでしょうか?」


「ちょっと立ってみようかな」


「無理はしないで下さいね」


 頷いて上半身を起こした黒瀬さん。


 掛け布団の下から見られた肉体は、長期間の入院生活でほっそりと痩せていた。それでもベッドの縁に手をかけつつ、ご自身の足で病室の床に立つ。やがては手を離しても二本の足で直立してみせた。


「またこうして立てる日が来るなんて、夢を見ているみたいだ」


「とはいえ、歩き回るにはリハビリが必要かもしれませんわね」


 ただ立っているだけでも、小刻みに震えている黒瀬さんの足。それでも意を決したように一歩を踏み出すと、前に歩くことができた。寝たきりの患者さんが初手ここまで動けたのなら、すぐに復帰することだろう。


「ははっ、たしかにこれだとお年寄りみたいだ」


 ご自身の足を眺めて、恥ずかしそうに語る。


 ただ、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「こんなに嬉しいクリスマスのプレゼントはないよ、アグダちゃん」


「せっかくならサンタクロースの格好をしてくればよかったですわぁ」


「それはちょっと見てみたかったかも。是非とも配信でやって欲しいな」


 ただ、そうして穏やかに言葉を交わしていたのも束の間のこと。


 病室の外が騒々しくなり始めた。


「遅くなってすみません、病室のキーを持ってきました!」「それと念の為、男の人たちにも来てもらいました」「子供が入り込んで遊んでるんですかね?」「苦情が入る前にさっさと対処しないと」「ったく、保護者は何をやってるんだか」


 一時しのぎの施錠も、これ以上は持ちそうにない。


 話したいことは色々とあるけれど、本日のところは時間切れのようだ。


「アグダちゃん、一体何をしたの?」


「後のことはお任せしてしまってよろしいかしら?」


「それは構わないけど……」


「こちらの布をお借りしますわ」


 ベッドスペースに接する形で配置されたリビングっぽい空間。ソファーの背もたれに掛けられていたベッドスカーフを手に取る。広げて頭から被ったのなら、小柄な女児の肉体など大半を隠すことができる。


「えっ、それどうするつもり?」


「防犯カメラ対策ですの」


 病室の出入り口とは反対側に進路を取る。


 幸いこちらの部屋の窓は引き違い戸。


 カギを開けて片側をオープンしたのなら、すり抜けることが可能。地上までは階数にして十階以上ある。けれど、真下はスタッフ用の通路を思わせるスペースとなり人の往来は皆無。アグダ氏の肉体なら余裕で飛び降りられる。


「アグダちゃん、まさかとは思うけど……」


「次の配信でお待ちしておりますの」


 窓枠を蹴ってバイバイ。


 病室から飛び出した。


 高所からの落下は異世界トライアスロンで幾度となく経験している。頭から被ったベッドスカーフを腰回りで固定しつつ、両足は着地に備える。ほんの数秒ほどで、足の裏にコンクリートの感触が。


 着地後はすぐさま周囲を確認。


 ひと目は皆無。


 右見て、左見て、よし。


「撤収ですわぁ」


 土建屋さんや普光院さんには後程、電話でもすればいいだろう。


 そのように判断して、闖入者は脱兎の如く敷地内から逃げ出した。




◇◆◇




 その日の夜、投げ銭の彼からメッセージが送られてきた。


 アグダ氏を追いかけて病室を訪れた病院のスタッフたちは、自身の足で立って歩いた彼を目の当たりにして、それはもう驚いたそうだ。それこそ病室に入り込んだ子供の存在を忘れるくらいには。


 以降、同日は日が暮れるまで様々な検査が行われたとのこと。すぐに結果が出てこない一部の検査はさておいて、CTやMRIなどの画像診断では、以前まで見られた病変が一つ残らず消えていたそうな。


 これには大病院のお偉い先生方も我が目を疑っていたとのこと。ただ、当の本人がベッドを脱して歩き回っているのだから、検査結果を信じる他になかったようだ。近日中にもリハビリを開始するらしい。


 その辺りを夜間、メン限配信で土建屋さんと普光院さんにも伝えた。


「……といった感じですの」



:無事に助かったようでなによりだね!

:アグダさんの判断がよかったと思う



「お二人の協力あっての賜物だと思いますわ」


 取り分け、興信所の有能っぷりには驚かされる。


 下手に警察を頼るよりも便利に使えるような。


 土建屋さんの知り合いが優秀なだけかもだけど。


「興信所の方にもよろしくお伝え下さいな」



:彼らは仕事でやってるから気にしなくて大丈夫

:ところで費用はどれくらいかかったのかな??

:そんな大した額じゃないからこっちで払っとくよ

:えっ、それはちょっと申し訳ないっていうか……

:張り込みなしで期間も一日半だから十万強くらい

:十万って結構な金額だと思うんだけど

:今回は自分だけ何もしてなかったからね

:だとしたら、私だって何もしてないです

:君が最初に声を上げてくれたからこその成果だよ



「そうですわね。普光院さんのおかげで一歩を踏み出せましたし」


 想像した以上に割安で助かった。


 前回は百万円以上かかったから。


 しかも土建屋さんが払ってくれるという。



:ただ、もっと早めにSOSしてくれてたらなぁ

:それは私も思った!

:回復魔法のことは彼も把握してたんだよね?

:時期的に考えて、配信は見てたと思うんだけど



「本人曰く、声をかけるタイミングを見計らっていたら、急に具合が悪くなってしまったそうですの。ナースコールを押したところでダウンして、気付いたら一ヶ月が経過していたそうですわ」


 躊躇している間に症状が悪化して、意識を失ってしまったのだろう。我々が足を運ばなければ、そのまま亡くなっていたものと思われる。受付で面会謝絶を伝えられたのも、その辺りが理由なんだろうな。



:普段は好き勝手コメントしてるのに変なところでお行儀がいい!

:まぁ、ご自身の病気となるとデリケートな話題ではあるけれど……



「本人も申し訳なさそうにしていたので、なるべく咎めないでもらえると嬉しいですの。以前、わたくしが他所の病院に入り込んで、回復魔法を連発していた配信とか、そこでの言動に色々と思うところもあったようですし」



:あぁ、違法モペットの人が入院してた……

:アグダちゃん、割とはっちゃけてたもんね

:それのせいで遠慮が働いちゃったのかな?

:悪い人じゃないということは理解したよ



「わたくしもそう思いますわ」


 それからしばらく雑談を交わして過ごす。


 もしかしたら投げ銭の人がやってくるかも、などと考えていたのだけれど、流石に本日はその余裕もなかったようだ。既に夜も遅い時間帯。何ヶ月も寝たきりであったところ、検査で動き回って疲弊したことだろう。


 小一時間ほど配信を行った後、土建屋さんのお風呂のタイミングで解散となった。

本作はカクヨムで「先行連載」を行っております。


「アグダちゃん」で検索、もしくは以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/2912051596661307013

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病院の窓はこの手の飛翔が起こらないように大きくは開かないとかの対策がされてることが多いらし(例外:古い病院)
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