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生を謳う一閃、そして傲慢なる招待状

「私の憂鬱を、焼き尽くす……? 傲慢なことを言わないで。生きとし生けるものは、皆この虚無に還るのよ!」

ルナールが悲痛な叫びを上げると、周囲の灰色の霧が限界まで濃縮され、カノンたちを囲む巨大な『虚無の結界』へと変貌した。

物理攻撃をすり抜け、触れるだけで生きる気力を奪う絶対防御の檻。


だが、命の悦びを取り戻した五人の乙女たちに、もう迷いはなかった。


「……対象の結界、魔力密度の偏りを検知。突破口の座標、共有完了。……行きます、マスター!」

ノアが銀色の瞳を光らせ、無数に展開した演算陣で結界の最も脆い「特異点」を完璧に特定する。

「光よ、私たちの道を照らしなさいッ!」

すかさずセラフィが高潔な白と黒の翼を羽ばたかせ、特異点に向けて神聖なる光のレーザーを放つ。その純粋な光が、灰色の霧をジュッと浄化し、僅かな『穴』を穿った。


「その穴、あたしがこじ開けるアル!」

リンが特級の歩法で瞬時に跳躍し、愛用の中華包丁に闘気を極限まで圧縮させる。

「『特級奥義・空間千切り』ッ!」

刃が霧の壁を空間ごと切り裂き、カノンが通るための巨大な道が十字に開かれた。


「させないわよ……っ!」

ルナールが焦って霧を再構成しようと動くが、すでに彼女の影からはミアが姿を現していた。

「逃がさないわよ、引きこもり神! あんたの影は、あたしが全部縫い付けたわ!」

ミアの双剣がルナールの足元の影を完全にピン留めし、その動きを完全に封じ込める。


「カノン様ぁぁぁッ!! 行けぇぇぇぇっ!!」

最後にレヴィアが、部分竜化させた頑強な両腕で、崩れ落ちようとする霧の道の両壁をガシィッ!と掴み、強引にこじ開け続けた。小さな身体から竜の咆哮を上げ、主のための花道を命懸けで維持する。


「ええ、ありがとう。……私の、愛する家族たち!」

カノンは、みんなが作ってくれた道を、漆黒の翼を羽ばたかせて神速で駆け抜けた。

真紅と黄金のオーラを纏ったカノンの姿は、まるで絶望の森を切り裂く一筋の希望の光。


「こ、来ないで……っ! 私に、その熱を近づけないで……ッ!!」

ルナールが恐怖に顔を歪めるが、もはやカノンを止めるものは何もない。


カノンは手にした真紅の大鎌に、吸血鬼としての「生への強い執着」と、神としての「絶対的な肯定」を込めて、高く振り上げた。

「ルナール。……生きることは、虚しいだけじゃないわ。こんなにも熱くて、美しいのよ!」


ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!!


物理をすり抜けるはずの憂鬱の神の実体が、命の熱を帯びたカノンの神格の一撃によって、真っ二つに両断された。


「……あ、あぁ……」

ルナールの身体が、灰色の霧から、キラキラと輝く光の粒子へと変わっていく。

真っ二つにされながらも、彼女の顔に浮かんでいたのは苦痛ではなく、どこか安堵したような微笑みだった。

「……そう、ね。あなたの熱……少しだけ、温かかった、わ……」

憂鬱の美少女は最後にそっと目を閉じ、霧の森ごと、完全に消滅した。


ドサッ。

森を覆っていた絶望の霧が晴れ、ルミナスの街に本来の温かい陽の光が差し込む。

「……終わった……」

カノンが大鎌を消し去ると、限界を迎えた眷属たちが、安堵の涙を浮かべながら次々とカノンの元へ駆け寄ってきた。五人とカノンは、互いの生と温もりを確かめ合うように、力強く抱きしめ合う。


しかし、その幸福な余韻は、突如として無残に引き裂かれた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!


「な、何アルか……っ!?」

「空が……割れてる!?」


ルミナスの街の上空。澄み渡っていたはずの青空が、まるでガラスのようにバリンッと砕け散った。

その亀裂の奥から溢れ出したのは、先ほどの憂鬱の神など比較にならないほどの、次元の違う『威圧感』。

カノンたちですら、立っていることすら困難になり、その場に膝をつきそうになるほどの圧倒的なプレッシャー。


『――見事だ、我が娘よ』


空の亀裂から、低く、重く、世界そのものを支配するような男の声が響き渡った。


「……ッ、この声は……」

カノンが真紅の瞳を鋭く細め、割れた空を睨みつける。


『強欲、憤怒、そして憂鬱。強大なる神々を屠り、よくぞ真の神格へと至った。お前のその力、純粋に称賛に値する。やはりお前は、私の最高傑作だ』

その声の主こそ、すべての元凶であり、カノンの実の父親――『傲慢の神』。

『さあ、遊びは終わりだ。我らが神の座『天上の神殿』へ来るがいい。……お前が選び取った吸血鬼という種の可能性、それは見事なものだ。だが、お前に群がるその有象無象の下等種族どもは頂けないな。ひ弱で、目障りだ』


傲慢の神の言葉は、怒りでも憎しみでもなく、ただ純粋な『神としての絶対的な見下し』を含んでいた。


『さあ、そのガラクタ共ごと連れてこい。私が、お前を真に完璧な神として再誕させてやろう』


空間の亀裂がゆっくりと広がり、カノンたちを天上の神殿へと誘う『光の階段』が、大空から地上へと真っ直ぐに降りてきた。


『待っているぞ、カノン。……私に逆らうことがどれほど傲慢なことか、教えてやろう』


絶対的な力を持つ父親からの、死の招待状。

ついに姿を現した最大の敵を前に、カノンは漆黒の翼を広げ、愛する家族たちを背に庇うように光の階段を見据えていた――。

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