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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第二章 違和感

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第十一話 残る感覚

庭園の空気は、変わらず穏やかだった。


風は同じように流れ、光も同じ角度で落ちる。

セレスティナはその中で、いつも通り葉を選び、状態を確かめていた。

指先の動きも、思考の流れも、乱れることはない。


変わらない。


そう認識していたはずだった。


だが――


わずかに、引っかかる。


手が止まる。


ほんの一瞬だけ。


理由は明確ではない。


ただ、思考の流れに、わずかな遅れが生じる。


「……非効率ですね」


小さく呟く。


誰に向けたものでもない。


そのまま、手を動かす。


元に戻る。

問題はない。


だが、そのわずかな“遅れ”は、完全には消えなかった。


背後に気配がある。

昨日と同じ。


距離も、位置も、ほとんど変わらない。


「問題はありません」


振り向かずに、先に言う。


レオニスは、答えなかった。


その代わりに、ゆっくりと距離を詰める。


足音はほとんどしない。

だが、確実に近づいてくる。


セレスティナの指先が、また一瞬だけ止まる。


「……近いですね」


淡々と告げる。


レオニスは止まらない。

そのまま、手を伸ばす。


葉ではない。

セレスティナの手元へ。


指先に触れる直前で、止まる。

距離は、ほとんどない。


「問題か」


低く問う。

セレスティナは、わずかに視線を動かす。

手元へ。


そして、その先へ。


「問題ありません」


同じ答え。

だが――


完全に同じではなかった。

わずかに、間がある。


レオニスの目が細められる。

見逃さない。


「……そうか」


短く落とす。


だが、手は引かない。

距離も変えない。


そのまま、そこにいる。


セレスティナは、再び葉へ視線を戻す。


作業を続ける。


だが、ほんのわずかに、思考の速度が変わる。


同じ動き。

同じ判断。

それでも――


完全には一致しない。


「……影響は、出ていますね」


小さく呟く。

レオニスの視線が動く。


「何のだ」


「距離です」


簡潔に答える。

それ以上は続けない。


レオニスは、その言葉を受け止める。


「ならば、慣れろ」


即答だった。

命令ではない。


当然のように置かれた言葉。


セレスティナは、わずかに考える。

ほんの短い時間。


「合理的ですね」


やはり同じ結論に至る。

肯定だった。


だが――


その声音には、わずかに遅れが残る。


レオニスは、それを見ていた。


確実に、変化がある。


小さい。

だが、無視できない。


「……ならば」


一歩、さらに踏み込む。

距離は、完全に詰まる。


「このままでいいな」


確認ではない。

決定だった。


セレスティナは、その距離で、視線をわずかに上げる。


レオニスを見る。


ほんの一瞬だけ。


「はい」


短く答える。

それだけ。

だが――


その一瞬の視線は、確かに残った。


少し離れた位置で、それを見ている者がいた。


ディオンだった。

表情は変わらない。

だが、目は細くなる。


「……変化が出ていますね」


誰にも聞こえない声で呟く。


視線は、セレスティナからレオニスへ。


そして、再び戻る。


測るように。

確かめるように。


「……これは」


続きは言わない。

だが、理解している。


状況が動き始めていることを。


庭園の空気は、変わらない。

それでも――


確実に、何かが変わっていた。

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