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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第二章 違和感

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第十話 理解という違和感

庭園の奥は、いつもと変わらない静けさに包まれていた。

風の流れも、光の落ち方も昨日と同じだ。

セレスティナはその中で、いつも通り葉を選び、状態を確かめている。

指先の動きに迷いはなく、思考も一定の速度で流れていた。


変わらない――はずだった。


「それは使うのか」


背後から声が落ちる。

レオニスだった。セレスティナは振り向かず、「条件次第では」と短く答える。


それだけのやり取りのはずが、レオニスはわずかに間を置き、「どういう条件だ」と続けた。

押しつけるのではなく、探るような声音だった。


その一瞬、セレスティナの手がわずかに止まる。


「加熱処理です」


すぐに動きは戻る。

「このままでは成分が残りますので」と続ける声音は、いつも通りだった。

だがレオニスは気づいていた。

今のわずかな“間”に。


「……なるほど」


小さく落とす。

その声音には、わずかな満足が混じる。

セレスティナは視線を上げないまま、「理解が早いですね」とぽつりと言った。

それは感情ではなく、評価としての言葉だった。

それでも、これまでにはなかった反応だった。


「当然だ」


レオニスは短く返すが、その声音はほんのわずかに軽い。

空気が、ほんの少しだけ変わる。


その変化を、別の視線が捉えていた。


「……陛下」


ディオンが静かに歩み寄る。

形式通りに頭を下げながらも、その視線は一瞬だけセレスティナに留まり、すぐにレオニスへ戻る。

何も言わないまま、すべてを測っている。


「何だ」


「報告がございます」


簡潔なやり取りのあと、レオニスは即座に「後にしろ」と切り捨てた。

ディオンの眉がわずかに動く。

「……承知しました」と引き下がるが、その視線には明確な警戒が残る。


その時、軽い足音が近づいた。


「おや、珍しい光景だな」


明るい声が割り込む。

セレスティナの手が、今度ははっきりと止まった。


「……アシュレイ」


レオニスの声音が低くなる。

現れたのは、余裕の笑みを浮かべたアシュレイだった。

「たまたま用があってね。許可も取っている」と軽く肩をすくめながら、視線をセレスティナへ向ける。


「君が例の令嬢か」


距離を詰める動きは自然だった。

「植物を見ているのか?」という問いに、セレスティナは「はい」と短く答える。

アシュレイはそのまま隣に立ち、「それは食用に?」と続けた。


「条件次第では」


同じ答え。

それでも今度は、「加熱が必要です」と先に言葉を足す。

ほんのわずかな違いだった。


アシュレイはすぐに頷いた。

「なるほど。理にかなっている」


迷いのない理解。


セレスティナの指先が、再び止まる。

今度はほんの少しだけ長く。


「……そうですね」


自然に、肯定が返る。


そのやり取りを、レオニスは黙って見ていた。

ディオンもまた動かない。空気の質が、わずかに変わっている。

理解が成立している。

それは、これまでになかったものだった。


レオニスの内側が、静かに動く。


(……面白くない)


初めての感情だった。

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