第九話 変わらない日常
皇城での生活は、表面上は何も変わらなかった。
与えられた部屋は静かで、必要なものは揃っている。朝は決まった時間に起き、軽く食事を取り、そのまま外へ出る。
庭園へ向かい、葉を選び、状態を確かめる。
必要なものだけを摘み取る。
その一連の動きは、すでに習慣として定着していた。
変わらない。
少なくとも、セレスティナにとっては。
だが――
周囲は違った。
「本日も、外へ出られるのですか」
控えめに声をかけてきたのは侍女だった。
言葉遣いは丁寧だが、どこか様子を窺うような色が混じっている。
セレスティナは手を止めることなく答えた。
「はい」
短く、それだけ。
侍女は一瞬だけ言葉を失う。
「……その、外出についてですが」
続けようとして、躊躇う。
「制限は受けていませんので」
先に結論を置く。
侍女の口が、閉じた。
否定できない。
実際に、誰からも明確な制止はされていない。
ただ――
「……同行の者を」
「必要ありません」
間を置かずに返す。
視線は向けない。
会話は、それで終わった。
セレスティナはそのまま部屋を出る。
廊下を進む足取りは変わらない。
迷いもなければ、躊躇いもない。
だが、背後の気配だけが違っていた。
一定の距離を保ってついてくる存在。
気配を消しているつもりだろうが、完全ではない。
「……非効率ですね」
小さく呟く。
誰に向けた言葉でもない。
ただの評価だった。
そのまま足を進める。
庭園へ。
昨日と同じ道を辿り、同じように視線を落とす。
葉の状態を確認し、必要なものを選び取る。
環境は変わらない。
だが――
「それで、問題はないのか」
すぐ後ろから、声が落ちる。
振り向く必要はなかった。
「ありません」
セレスティナは、葉を見たまま答える。
レオニスがそこにいる。
当然のように。
「監視されている状態だが」
続ける声音は低い。
だが、試すような色が混じっている。
セレスティナは、ようやく視線を上げた。
ほんの一瞬だけ、レオニスへ向ける。
「問題ありません」
同じ答えだった。
変わらない。
レオニスは、その様子を見ていた。
距離を詰める。
それでも、変わらない。
「……ならば」
低く落とす。
「このままでいいな」
確認ではない。
決定だった。
セレスティナは、その言葉を受け取る。
わずかに視線を落とし、すぐに戻した。
「合理的ですので」
肯定だった。
それだけ。
再び視線は葉へ戻る。
指先が動く。
いつもと同じ動作。
変わらない日常。
だが――
その中に、確実に別の存在が入り込んでいる。
レオニスは、そのままそこに立っていた。
動かない。
離れない。
ただ、同じ空間にいる。
それだけで。
何かが、確かに変わっていた。




