表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第二章 違和感

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/35

第六話 温室の距離

温室の中は、外とは切り離されたような空気に包まれていた。


湿った温度と、濃い緑の匂い。整えられた環境の中で、植物だけが静かに息づいている。


その中に立つレオニスの存在は、本来ならば場のすべてを支配するはずだった。


だが――


「そうなのですか」


返ってきた言葉は、あまりにも淡々としていた。


セレスティナは振り向いたまま、それ以上動こうとしない。視線は向けられているが、そこに特別な意味はない。


レオニスは、その様子を見ていた。


変わらない。


どこにいても、変わらない。


「許可が必要だ」


短く告げる。


「では、必要でしょうか」


間を置かずに返る。


問いとして。


レオニスの眉が、わずかに動いた。


「……通常はな」


低く答える。


それに重ねるように、セレスティナは言葉を続けた。


「ですが、私は問題なく利用できています。損失も発生していません」


事実だけを並べる声音だった。そこに遠慮はない。


レオニスは一瞬だけ言葉を止める。


否定する理由が見当たらない。


それでも――


「……勝手に判断するな」


低く落とす。


だが、その声音には押しつける強さがない。


セレスティナはその言葉を受け取りながら、近くの葉へと手を伸ばした。指先で状態を確かめ、軽く持ち上げて光にかざす。


「では、判断基準をご提示ください」


視線を向けないまま、言う。


問いとして、正確に。


レオニスは言葉を失う。


想定していたやり取りではない。


「……お前は」


言いかけて、止まる。


その先が続かない。


セレスティナは、葉の状態を見極めながら小さく呟いた。


「こちらは少し弱いですね」


まるで別の流れで思考が進んでいるかのように。


レオニスの視線が、その動きを追う。


近い。


手を伸ばせば届く距離。


それでも――意識されていない。


「……話をしている」


低く言う。


「はい」


即答だった。


「聞いています」


その言葉に、レオニスの目がわずかに細められる。


「聞いていて、それか」


「問題はありませんので」


やはり同じ結論だった。


変わらない。


レオニスは、ゆっくりと一歩踏み込む。


距離が縮まる。


温室の湿った空気が、わずかに揺れた。


それでも――


セレスティナは動かない。


逃げない。


ただ、そこにいる。


レオニスは、その距離で立ち止まった。


視線が、初めてわずかに落ちる。


セレスティナの手元へ。


葉を扱う指先。


迷いのない動き。


無駄のない選別。


「……それは」


言葉が、自然に落ちた。


セレスティナの手が、ほんのわずかに止まる。


一瞬だけ。


視線が、レオニスへ向いた。


「興味深いですね」


小さく呟く。


それは、感情ではない。


ただの評価だった。


だが――


これまでにはなかった反応だった。


レオニスの目が、わずかに見開かれる。


ほんのわずかに。


すぐに戻る。


「……何がだ」


低く問う。


セレスティナは、すぐに答える。


「判断基準です」


簡潔に。


「効率的ではありませんが、統制としては機能しています」


分析としての言葉。


レオニスは、言葉を返さなかった。


返せなかった、の方が正確だった。


それは賞賛ではない。


否定でもない。


ただ――


正確だった。


温室の空気が、わずかに変わる。


先ほどまでとは違う、重みを帯びた静けさ。


レオニスは、そのままセレスティナを見ていた。


今までと同じはずの存在。


それでも――


何かが、引っかかっている。


初めて。


ほんのわずかに。


理解の外にあったものが、


輪郭を持ち始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ