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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第二章 違和感

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第五話 慣れない場所で

皇城に来て、数日が経っていた。


与えられた部屋は静かで、必要なものは一通り揃っている。

特に不自由はなく、日々は驚くほど整った形で流れていた。


朝は決まった時間に起き、軽く食事を取り、そのまま外へ出る。

そうした動きも、いつの間にか自然な習慣になっている。


庭園へ向かう足取りに迷いはない。

最初の数日は案内がついていたが、今はもう必要なかった。

どこに何があるか、どの辺りにどの種類が植えられているか、歩くたびに頭の中で整理されていく。


視線は自然と足元へ落ちる。

草の間に混じる葉を見つけると、その場に屈み、指先で状態を確かめる。

厚み、色、わずかな傷み具合を見極め、必要なものだけを摘み取る。


「……こちらの方が状態がいいですね」


小さく漏れた声は、誰に向けるでもない。


許可は取っていないが、止められることもなかった。少し離れた位置で控える侍女たちは声をかけることもできず、ただ距離を保ったまま様子を見ている。

皇帝の命で滞在している令嬢という立場が、判断を鈍らせていた。


当の本人は、そうした視線に気づいていないのか、あるいは気づいても意味を見出していないのか、特に反応を示すことはない。


今日もまた庭園を抜け、そのまま奥へと足を進める。木々の間を通り抜けると、視界が開けた。


温室だった。


外とは違う湿度を帯びた空気が、扉の隙間からわずかに流れ出ている。

迷うことなく手をかけ、そのまま押し開けた。


中へ入ると、空気が変わる。湿った温度と、濃い緑の匂い。

整然と並べられた鉢の中に、見慣れたものと見慣れないものが混ざっている。


セレスティナの視線が、ゆっくりと巡る。


一歩踏み出し、近くの葉に触れる。

指先で状態を確かめ、光にかざす。


「……面白いですね」


そのまま奥へと進む。

意識はすでに植物へと向けられ、周囲への関心は薄れていく。


だから、気づくのが少し遅れた。


「……勝手に入るものではない」


低く落ちた声に、空気がわずかに揺れる。


セレスティナは振り向いた。


そこにいたのは、レオニス・ヴァルカだった。


視線はまっすぐに向けられている。

逃がさないように。


それでも、セレスティナの表情は変わらない。


「そうなのですか。では、後ほど確認しておきます」


ただ、それだけを返した。

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