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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第二章 違和感

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第四話 決められる距離

応接室の空気は、まだ張り詰めたままだった。


沈黙は途切れていない。

誰も言葉を足さないまま、それぞれが相手を測っている。


その均衡を崩したのは、レオニスだった。


「ラディア公爵」


静かに名を呼ぶ。


アルベルトはすぐに応じた。


「はい、陛下」


「令嬢を借りる」


あまりにも簡潔な言葉だった。


意味を補足する余地がないほどに。


その一瞬、空気が明確に変わる。


ディオンの視線が鋭くなる。


アルベルトもまた、わずかに沈黙を置いた。


「……用途を、お伺いしてもよろしいでしょうか」


声音は丁寧だったが、その奥にあるものは明らかだった。


確認ではない。


牽制。


レオニスはそれを受け止めたまま、わずかに視線を動かす。


「観察だ」


短く答える。


「必要だと判断した」


それだけだった。


理屈としては成立している。


だが、納得とは別の話だった。


ディオンが一歩だけ踏み出しかける。


止めたのは、アルベルトだった。


わずかな動きで制する。


その上で、レオニスへ視線を向けた。


「……期間は」


最低限の条件提示。


レオニスは即答した。


「未定だ」


ディオンの目が、さらに鋭くなる。


「それは――」


言葉を継ごうとした瞬間。


「構わない」


アルベルトが、静かに遮った。


ディオンが視線を向ける。


だが、アルベルトは動じない。


「陛下のご判断であれば」


そう言いながらも、その目はわずかに細められている。


完全な了承ではない。


だが、拒否でもない。


場を読む選択だった。


レオニスは短く頷く。


それで話は終わった、というように。


そのまま視線がセレスティナへ移る。


「来い」


一言だった。


命令として、十分すぎるほどに。


セレスティナは、その言葉を受け取る。


考える時間は、ほとんど必要なかった。


「承知しました」


淡々と答える。


感情は乗らない。


ただ、事実として受け入れる。


ディオンの視線が一瞬だけ揺れる。


アルベルトは、何も言わない。


だが――


その沈黙は、明確に見送るものだった。


レオニスは立ち上がる。


動きに迷いはない。


そのまま扉へ向かう。


セレスティナも続く。


呼吸も、歩調も変わらないまま。


二人が並ぶ。


距離は近い。


だが――


やはり、揺れない。


扉が開かれる。


外の空気が、わずかに流れ込む。


そのまま、二人は応接室を後にした。


残された空間に、静けさが戻る。


ディオンは、すぐには動かなかった。


視線だけが扉へ向けられている。


やがて、小さく息を吐いた。


「……よろしかったのですか」


抑えた声。


アルベルトは、視線を外さないまま答える。


「拒めば、より強く来る」


短い言葉だった。


それで十分だった。


ディオンは沈黙する。


理解しているからこそ、何も言えない。


「……見ていろ」


アルベルトが続ける。


「動きは、これからだ」


その声は、静かだった。


だが――


確実に、先を見ている声音だった。

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