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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第二章 違和感

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第一話 踏み込む者

皇城の一室には、変わらない静けさがあった。


整えられた書類。

揺れない光。

乱れのない空間。


すべては、いつも通りのはずだった。


「……失礼いたします」


控えめな声とともに、扉が開く。


書類を抱えた側近が一歩踏み入った。


「ラディア公爵家についての資料をお持ちしました」


机の上に整然と並べられる紙束。


無駄のない動き。


それもまた、日常の一部だった。


レオニスは、椅子に座ったまま視線を落とす。


紙の上に並ぶ文字を、淡々と追う。


公爵、宰相。

家系。

領地。

実績。


どれも、既知の情報だ。


だが――


手が、止まる。


一枚の紙の上で。


「……セレスティナ・ラディア」


小さく、名をなぞる。


その瞬間、わずかに思考が引かれる。


側近は、その様子を見ていた。


何も言わずに。


ただ、待つ。


「研究……薬草、食、調合」


低く読み上げる。


令嬢としては、やや異質な記述。


だが、それだけではない。


「……社交参加、最低限」


視線が、そこで止まる。


自然に、記憶が重なる。


庭の光景。


揺れない視線。


変わらない距離。


レオニスは、紙から目を離した。


「……これで全てか」


問いは短い。


側近は、すぐに応じる。


「現時点で確認できるものは」


わずかに言葉を選びながら続ける。


「――はい」


レオニスは、しばらく何も言わなかった。


指先が、紙の端に触れたまま止まる。


「……少ないな」


ぽつりと落ちる。


それは、情報の量に対してではない。


もっと、別の何かに対する言葉だった。


側近は、それを理解しない。


だが、問い返しもしない。


「……行く」


レオニスが、唐突に言った。


側近の表情が、わずかに変わる。


「どちらへ」


間を置かずに返す。


レオニスは立ち上がった。


椅子がわずかに音を立てる。


「ラディア公爵邸だ」


迷いはない。


即断だった。


側近は一瞬だけ息を呑み、


すぐに頭を下げる。


「ご訪問のご準備を――」


「不要だ」


言葉を遮る。


短く、はっきりと。


「知らせるな」


その一言で、意味は決まる。


公式ではない。


訪問でもない。


「……かしこまりました」


側近はそれ以上何も言わない。


ただ、深く一礼する。


レオニスはそのまま歩き出した。


足取りは変わらない。


迷いもない。


だが――


これまでとは、明らかに違う方向へ向かっている。


---


ラディア公爵邸。


同じ頃。


庭の奥で、セレスティナは変わらず手を動かしていた。


葉を選び、土に触れ、香りを拾う。


風が抜ける。


光が揺れる。


世界は、静かに保たれている。


何も変わらない。


――はずだった。

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