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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第一章 効かない令嬢

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第十話 揺れない距離

庭の空気は、わずかに変わっていた。


風は同じように吹き抜けているのに、どこか、重さを帯びている。


セレスティナは、変わらずそこにいた。


足元の葉へ視線を落とし、

必要なものを選び取る。


その動きは、先ほどと何一つ変わらない。


だが――


その周囲だけが、わずかに歪んでいた。


ノエルは、セレスティナの隣に立つ。


距離は近い。


それが自然であるかのように。


「それ、どう使うんだ?」


葉を覗き込みながら、軽く問う。


セレスティナは、手にしたまま答える。


「加熱処理が前提です」


簡潔に。


それだけで足りる。


「なるほどな」


ノエルは小さく頷く。


そのまま、もう少しだけ身を寄せた。


距離が、ほんのわずかに縮まる。


だが――


セレスティナは動かない。

視線も、呼吸も変わらない。


レオニスは、それを見ていた。


一歩離れた位置から。

何も言わずに。

ただ、見ている。


「……近いな」


ぽつりと落とす。

低く、静かな声。


ノエルの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。

だが、すぐに元に戻る。


振り向く。

その動きは、ゆっくりと。


「恐れながら」


一度、言葉を置く。

そのまま、わずかに微笑んだ。


「幼い頃より、この距離で過ごしておりますので」


声音は柔らかい。

だが、引く気配はない。


レオニスは、視線を動かさない。

ノエルを、まっすぐに捉えたまま。


「そうか」


短く返す。


それ以上は続かない。

沈黙が落ちる。


だが、先ほどとは違う。

わずかに、鋭い。


ノエルは、再びセレスティナへ視線を戻した。


自然に。


まるで、それ以外に意味がないかのように。


「それ、少しもらっていいか?」


軽く言う。


セレスティナは、葉を見てから、一枚だけ差し出した。


ノエルはそれを受け取る。

指先が、わずかに触れる。


一瞬。

それだけだった。


「……苦いな」


軽く顔をしかめる。


セレスティナは、わずかに視線を動かした。


「火を通せば和らぎます」


淡々とした説明。

感情はない。


ノエルは小さく笑った。


「じゃあ今度、作ってくれ」


軽く言う。

当然のように。


セレスティナは、一拍だけ考え、「時間が合えば」と答える。


それだけ。

約束でも、拒絶でもない。

ただの条件。


レオニスは、それを聞いていた。


何も言わずに。

ただ――

見ている。


そのやり取りを。

その距離を。

その自然さを。


(……なぜだ)


内側で、何かが動く。

形にはならない。

だが、確かにそこにある。


「……用件は終わりだ」



唐突に、レオニスが言う。

だが、不自然ではない。


そのまま、踵を返す。

動きに迷いはない。


だが――


一度だけ、視線が戻る。

ほんの一瞬。

それだけ。


すぐに前を向き、歩き出す。

足音が、遠ざかる。


庭に、再び静けさが戻る。


ノエルは、しばらく何も言わずにその背を見送っていた。


やがて、小さく息を吐く。


「……怖いな」


ぽつりとこぼす。

だが、その口元はわずかに緩んでいた。


セレスティナは、何も答えない。


ただ、再び葉へと視線を落とす。


世界は、元に戻る。

何も変わらない。


ただ――

空気の奥にだけ、わずかな揺れが残っていた。

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