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次は、どの県を食べようか?  作者: 落川翔太
13/13

12.鹿児島県②

帰宅をしたのは、午後十一時半を過ぎていた。

「ただいま」と晴斗は言って玄関を開けると、リビングの明かりが点いていた。今朝消し忘れて出て行ったのだろうかと晴斗は思ったが、その後すぐにこの家に彩乃と自分の娘が帰って来ていることを思い出した。

 リビングの扉を開け、「ただいま」と言うと、「しーっ」と、彩乃が口に指をあてて言った。隣の部屋で、娘がすやすやと寝ていた。

「ゴメンゴメン」と、晴斗は手を合わせて小さな声で言った。

「あなた、お疲れ様。お風呂もご飯もできてるよ」

「先、風呂入るよ」

「分かった」

「今日の晩御飯は?」

それから晴斗がそう訊くと、「買い物に行けなかったから、家にある食材でチャーハンを作ったんだ」と、彼女は言った。

 家にある食材だけで料理をするとは、さすが料理人の妻だなと晴斗は思った。

「チャーハンね。分かった」

「私、もう眠いから先寝るね~」

 彼女はそう言って、あくびをした。

「うん。おやすみ」

 晴斗はそう言って、風呂場へ行こうとした時、「ねえ、そう言えば」と、彼女が何かを思い出して言った。

「何?」

 晴斗は立ち止まり、彼女の方を向いた。

「そう言えば、あなた、あの子の名前考えてくれた?」

 それから、彼女がそう訊いた。

「ああ、一応」

 晴斗がそう言うと、「そう。私も考えたよ」と、彼女はにやりと笑った。

「そっか」

「てか、一応って何?」

「考えたんだよ。ただ、何個か名前の候補があるんだけど、どれか一つって決められなかったんだ」

 晴斗が素直にそう言うと、「私も!」と、彼女が言った。

「じゃあさ、どんな名前か紙に書いて発表しようよ。その中で、二人が気に入った名前にするのはどう?」

 それから、晴斗がそう言うと、「いいね」と、彼女は頷いた。

 晴斗は早速、カバンから手帳を取り出した。そこから白紙のページを二枚破り、一枚彼女に渡した。二人はすぐにその紙に自分たちが考えた名前を書いた。

それからしばらくして、「書いた?」と、彼女が訊いた。

「うん、書いたよ」

 晴斗が言うと、「じゃあ、せーので見せ合おう」と彼女が言った。

「せーの!」

 彼女の掛け声で、二人はその紙を見せ合った。

 晴斗の紙には、真帆まほ好乃よしの杏香きょうか、あかり、千歳ちとせと名前が書いてあった。

 彩乃の紙には、ひな春香はるか千遥ちはる果林かりん由妃ゆきと名前が書かれていた。

 二人はお互いの紙に書かれた名前を見た。

「千遥とか春香っていいね」

 晴斗は彩乃の紙を見てそう言った。

「でしょ? でもあなたのその杏香とか、千歳も可愛いね」

 それから、彼女が晴斗の紙を見てそう言った。

「いいでしょ?」

「うん。てか、私たちの考えた名前ってなんか似てるね」

「確かに」

「あ、この好乃よしのって名前すごくいい!」

 それから、彼女がそう言った。

「ああ、これでしょ?」

 晴斗もこの名前は気に入った名前であった。

って字、私の字と一緒じゃん」

「そうだね」

「好乃……あの子にピッタリだと思う」

 それから、彼女が目を輝かせて言った。

「そう?」

「うん。私、この名前でいいと思う」

「本当かい? 俺もいいと思っていたんだ。彩乃がそう言うなら、その名前でいいと思う」

 晴斗がそう言うと、「私は賛成!」と、彼女は手を挙げて言った。

「じゃあ、好乃で。今日からあの子は『好乃』だ」

「好乃、素敵じゃない!」

「じゃあ、お風呂入って来る。おやすみ」

 それから、晴斗はそう言って立ち上がり、お風呂場へ直行した。

「ああ、あなたゴメン。おやすみ」

 彩乃も立ち上がり、好乃の様子を見に行った。好乃はすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。それを見た彩乃は安心した。その後、彩乃は寝室へ向かった。


 それから、翌週の月曜日の午後。

 晴斗は彩乃と二人でお昼ご飯の肉じゃがを食べていた。二人がご飯を済ませた後、彼女は好乃にミルクをあげた。好乃はそれを飲むと、すぐに眠ってしまった。

「ねえ、彩乃」

 好乃をベビーベッドに寝かせる彩乃を見て、晴斗が言った。

「何、あなた?」

 彼女は晴斗の方を振り返って言った。

「今度、外食しないか?」

 それから、晴斗がそう言うと、「外食?」と、彼女が不思議な顔で訊いた。

「そう」

「いいけど。あなた、どこか行きたい所でもあるの?」

 彼女にそう訊かれて、晴斗は口を開いた。

「ほら、アレだよ。県の料理を食べるってやつ。最近食べに行けてないからさ」

 晴斗がそう言うと、「ああ、確かにそうね」と、彼女が頷いた。

「それはいいわね。それで、次はどこへ食べに行くの?」

「まだ食べていない県が二つあるんだ。宮城県と鹿児島県だよ」

「宮城と鹿児島か……。」

「そう。どっちか食べに行かない?」

 それから、晴斗がそう訊くと、「いいわね」と、彼女が言った。

「で、あなたはどっちがいいの?」

 彼女にそう訊かれて、「うーん」と晴斗は悩む。悩んだ末、「どっちでもいいよ」と、晴斗は答えた。

「どっちもか。あたしもどっちでもいいけど、強いて言うなら鹿児島かな」

「鹿児島ね」

「うん」

「じゃあ、そっちにしようか」

 晴斗がそう言うと、「分かったわ」と、彼女は言って微笑んだ。

「いつ行く? 今日?」

 それから、彼女がそう訊いた。

「今日でもいいし、明日でもいいよ」

 晴斗がそう言うと、「じゃあ、今晩行こうよ」と、彼女が言って笑った。

「うん、いいよ。ちょっと調べてみるね」

 夜六時を回った頃、晴斗は彩乃と好乃の二人を車に乗せて、新橋にある鹿児島料理の店へ向かった。

 店の近くにある駐車場に車を停めて、彩乃が好乃を抱っこして二人でお店まで歩いた。

 店内に入ると、晴斗たちは女性の店員に奥の座敷のテーブルに案内してもらえた。早速座ると、晴斗はメニューを開いた。

 さつま揚げに鳥刺し、きびなごの刺身や鯖節さばぶし、らっきょうや黒豚餃子などと様々な料理の写真がそこにはあった。どれも美味しそうだなと晴斗は思った。

「どれにする?」

 晴斗が彩乃にメニューを見せて言った。

「うーんと、やっぱりさつま揚げでしょ?」

「うん。それと鳥刺しときびなごの刺身と鯖節は食べてみたい!」

「いいよ」

「あなたは?」

「らっきょうと、後は……黒豚餃子もうまそう」

「いいね!」

「飲み物は?」

「久々にビール飲んじゃおうかな」

 彼女はそう言って、ニコニコした。

「いいよ」

「あなたは?」

「俺も飲むよ」

 晴斗はそう言って、にやりと笑った。

 それから、晴斗は店員を呼び、二人があげた食べたい料理と生ビールを二つ注文した。

 それからすぐに生ビールが二つやって来た。すぐに二人は乾杯をした。

 晴斗は一気にビールを飲んだ。彼女は好乃を一度、座敷の自分の隣に寝転ばせた後、ビールをを一口飲んだ。

「はあ、うまい」と、晴斗が一息吐く。彼女もビールを飲んで、「ふう」と息を吐いた。

 それから、しばらくして、さつま揚げとらっきょうがやって来た。

「おいしそう!」

 さつま揚げを見た彼女が嬉しそうに言った。

「うまそうだね」

 晴斗がそう言って微笑むと、彼女はいただきますと言って、さつま揚げを箸でつかんだ。早速、彼女はそのさつま揚げを一口頬張る。

「おいしい」

 彼女は笑顔で言った。

 それから、晴斗もそのさつま揚げを箸で掴み、それを一口食べた。

 噛むと、さつま揚げの独自の甘さが口に広がった。そして、後から魚の旨みも感じられた。

「うん。旨いね」

 晴斗がそう言うと、「ね」と、彼女が言って笑った。

 その後、彼女がらっきょうに手を伸ばした。彼女はポリポリと音を立てながら食べている。

「おいしい。なんかこの食感がいいね」

 それから、晴斗もそのらっきょうを一つ、つまんでみた。噛むと、シャキシャキした食感が気持ちいいのが分かった。その後、独特の味が口に広がった。塩味も感じられた。

「うん、うまいね」

晴斗はすぐにビールを手に取り、ジョッキに口を付けた。ついビールが飲みたくなるような味わいだった。

「ふー、最高! ビールとも合うね」

晴斗がそう言うと、「あー、それは分かる」と言って、彼女もビールを飲んだ。

 それから少しして、鳥刺しときびなごの刺身と黒豚餃子がやって来た。

「うわー、美味しそう!」

 彼女が目を輝かせて言った。

「うまそうだね」と、晴斗も相槌を打つ。

「鳥刺し、食べてみよう」

 彼女はそう言って、鳥刺しを箸で掴み、醤油にそれを付けて口に入れた。

「なにこれ、おいしい!」

 彼女はそのおいしさに驚いていた。

 その後、晴斗もその鳥刺しを一つ醤油に付けて食べてみた。噛むと歯ごたえがあり、噛めば噛むほど鶏肉のうま味が口に広がった。少し炙ってあるらしく香ばしさも感じられた。

「ホントだ! うまいね!」

 晴斗も思わず笑顔になる。

「こっちは砂肝かな?」

 それから、彼女が残りの鳥刺しのうちの一つを指して言った。

「そう見えるね。で、これはレバーじゃない?」

 晴斗はもう一つの鳥刺しを指して言った。

「多分。食べてみれば分かるよ」

「そうよね」

 彼女はそう言って、それを食べた。「うん、砂肝だね」と、彼女は言って笑った。

「こっちはレバーだね」

 もう一つの方の鳥刺しを食べた晴斗がそう言った。レバーの鳥刺しも美味しかった。

 その後、晴斗はきびなごの刺身を酢味噌に付けて食べてみた。

 銀色に光ったそのきびなごの刺身は、噛むとプリッとした弾力で、味は淡泊ながらその魚の旨みを感じられた。その酢味噌にも合った。

「どう? 美味しい?」

 彼女にそう訊かれて、「うん、うまいよ」と、晴斗は顔をほころばした。

 その後、彼女もそのきびなごの刺身を酢味噌に付けて食べた。

「うん、美味しい。上品な味だね」

 彼女はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。

 それから、最後に彼女が黒豚餃子を一つ箸でつまんだ。醤油に付けてそれを一口がぶりと齧った。

「うーん、この餃子も美味しい!」

 それから、彼女がそう言った。そして、すぐに彼女はビールを一口飲んだ。

「はー、最高!」

 餃子とビールを堪能した彼女が嬉しそうに声を上げた。

 その後、晴斗もその黒豚餃子を一口で頬張った。噛むと、パリッとした皮の食感とジューシーな肉汁が口の中に溢れ出てきた。黒豚という鹿児島の豚肉を使っていることもあり醤油や肉の脂の甘味がより感じられた。

「うまいね! これはビール行きたくなる」

 晴斗はそう言って、ビールを一気に飲み干した。それから、晴斗はビールをもう一杯注文した。

 その後も、晴斗たちは鳥刺しやきびなごの刺身、黒豚餃子を食べながら、ビールを飲んだ。それから、ビールを飲み終えると、今度、晴斗は鹿児島の地酒を頼んだ。

「ねえ、あなた。そう言えば、今日、帰り車じゃないの?」

 それから、彼女がそう訊いた。

「いや、今日は車を置いて、タクシーで帰るつもりだよ」

 晴斗がそう言うと、「車はどうするの?」と、彼女が訊いた。

「明日、取りに戻ろうと思ってるから平気だよ」

 晴斗がそう言うと、「あー、分かったわ」と、彼女は納得したように言った。

 少しして、日本酒が届いた。晴斗はそれを一口飲んだ。

しばらくすると、好乃がぐずり始めた。彩乃はそれに気付くと、「お腹空いたのね」と言って、カバンから哺乳瓶とミルクの粉を出し、ミルクを作ろうとした。その後、彼女は「すみません」と女性の店員を呼び、お湯を貰えないか訊いた。

 いいですよとその女性の店員は言って、その瓶にお湯を入れてくれた。

「はい、どうぞ」

 その女性店員はにこにこして言った。

「ありがとうございます」

 彩乃はそう言って、お湯の入った哺乳瓶を受け取り、それを少し冷ました。一分くらい冷ました後、彼女は哺乳瓶のふたを閉め、好乃にそれを飲ませた。

 しばらくして泣き止んだ好乃は勢いよくミルクを飲む。彼女はおいしそうにそれを飲んでいた。それからすぐに好乃はそのミルクを飲み干した。お腹いっぱいになったのか、好乃はすぐに眠ってしまう。

 彼女はそれを見て笑った。晴斗も好乃を見て笑う。好乃は可愛かった。

「ねえ、あなた」

 ややあって、彼女が口を開いた。

「何?」

「あのね、お店を守ってくれてありがとう」

 それから、彼女がそう言った。

「ああ、いや、いいんだ」

 晴斗はそう言われて、嬉しくなった。

「私、あなたにいっぱい迷惑を掛けたと思う。本当にゴメンね」

 それから彼女がそう言うので、「謝る必要はないよ」と、晴斗は言った。

「ううん、本当に助かったの。私、本当にあなたと出会えてよかったって思ってるし、結婚もできて良かったって思うの」

 彼女にそう言われて、晴斗は少し気恥ずかしくなった。

 晴斗も彩乃に出会えて良かったと思っていた。それに、彼女と結婚できて良かったとも思っていたのだ。

 彼女は話を続けた。

「好乃がいるから、私、まだまだあなたにお店を任せてしまうことになりそうなの」

「うん、分かってる」

「あなた、それでも平気?」

「うん、僕は全然それでも平気だよ」

「そう。それなら良かった。うーん、そうだな……。」

 彼女が考えるように言った。

「ねえ、私、土日とかは仕事に復帰しようと思うの」

 それから、彼女がそう言った。

「土日? 本当に言ってるの?」

「うん」

「好乃は? どうするの?」

 それから、晴斗は好乃の方を見て言った。彼女も娘の顔を見てから口を開いた。

「好乃をお店に連れて行こうと思ってる。うるさくなるかもしれないし、邪魔になるかもしれないことは分かってる。だけど、私は多分、好乃につきっきりになるとは思うけど、時々仕事のお手伝いが出来ればと思っているの。あなた、それでどうかしら?」

 彼女がそう言った。

 それから、晴斗は考える。彼女のその店にまだ小さな自分たちの娘を連れて来るのは、どうかとも思うが、彩乃がお店にいてくれるだけでも晴斗は助かると思った。彼女がいればお店の雰囲気が明るくなるだけでなく、心強いからだ。そう考えると、土日だけでも彼女がお店にいるというのは、いい考えではないだろうかと晴斗は思った。

「いいと思うよ」

 晴斗がそう言うと、「本当?」と、彼女が目を輝かせて言った。

「もちろん。ただ無理はするなよ」

「分かってる」

「もしあれなら、先に帰ってもいいから」

晴斗がそう言うと、「ええ、そうするわ」と、彼女が笑って言った。

その後、しばらくして好乃が泣き声を上げた。どうやら起きたらしい。

すぐに彩乃は好乃を抱き、背中をぽんぽんと優しく叩いて泣き止ます。すっかり彼女は母親みたいだなと晴斗は思った。

晴斗は腕時計をちらりと見た。気が付けば、午後八時になっていた。

「そろそろ、帰ろうか」

 それから、晴斗がそう言った。うん、と彼女が頷いた。

 すぐに晴斗は会計を済ませ、三人はそのお店を出た。

お店を出て、晴斗はポケットからスマホを取り出し、電話でタクシーを呼んだ。しばらくして、タクシーがそのお店の前で止まった。晴斗たちはそのタクシーに乗った。

「どちらまで?」

運転手にそう訊かれ、晴斗は高田馬場にある自宅の住所を告げた。それからすぐに運転手はゆっくりとタクシーを発進させた。

お読み頂き、どうもありがとうございました!!

いかがでしたでしょうか? 楽しんでいただけたでしょうか?


世界には様々な料理があるように、日本にも様々な食材(魚や肉や野菜など)やおいしい料理がたくさんあるんですよね。北海道や沖縄、大阪、福岡など様々で、県によっても様々な料理がでてきましたね。私も書きながら、ジンギスカン(北海道)や串カツ(大阪)が食べたくなりましたね笑

本作を読みながら、それらの料理を堪能して頂けたのなら嬉しいです。また、食べたくなったら、ぜひ食べに行ってみて下さい!

また、前作「次は、どの国を食べようか?」をまだお読み頂いてない方は、ぜひそちらのほうもどうぞ。


ここで創作の秘話をしますと、

この作品を書こうと思ったのは、前作からの評判で、「続編も読みたい」というお声からでした。私もこの作品は続編は書けるなと思ってはいました。他の世界の料理を食べ歩く作品にするつもりでしたが、むしろそうではなく別の作品になりました。

前作で「世界の国」を書いたので、今度は「日本の県」を食べ歩くことを思いつき、それを前作同様の物語にしてみました。登場人物だけでなく、前回出てきたキャラクターも思い切り動いてもらうことで、個人的にはよりリアルでドラマティックな作品になった気がします……。

それと、もしこの作品をドラマ化(映画化)するなら、「藤本さん」をぜひ俳優の松重豊さんに演じていただきたいと思いつきました笑 某グルメドラマのイメージからピッタリだと思いました。(主人公の山崎晴斗や彩乃、杉下さんらは、若い俳優・女優ならどなたでもいいと思いますけどね。)


長くなりましたが、ここまでお読み頂いた皆様、改めてどうもありがとうございました。

感想や評価等頂けると嬉しく思います。

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