表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアクタ  作者: いくさや
第二章 魔王
59/154

56 ドラゴン……いや、あれは

 56


 白い少女。

 それが第一印象だった。


 長い白髪。

 白い肌。

 色素の薄い瞳。

 そして、白い翼と首回りや腕の一部を覆う羽毛。

 おそらく、鳥系の獣人族なのだろう。


 かなり小柄で、手足も細く、肉付きの薄さは気の毒に思えるぐらい。

 体格から年齢は測りづらいけど、幼い顔立ちからして僕らより年下だろうか?


「助け、て……」


 絞り出すような声で呟いて、そのまま崩れ落ちる。


「っと」


 幼気な少女が地面に激突するのを見ているわけにはいかない。

 咄嗟に抱きとめると、その軽さに驚く。


「……どうしようか。かなり普通じゃないよね」

「そう」


 みすぼらしいボロボロの貫頭衣に、素足のままという格好も尋常じゃあない。

 どんな場所でもおかしい格好だろうけど、大森林の最奥ともなるとあり得ないレベルだった。

 こんな装備で歩こうものなら一時間と待たずに手足がボロボロになる。

 実際、少女の足は傷だらけだった。


 鳥の獣人だから飛んでいたんじゃないかって?

 それこそ、まさかだ。

 大森林の空は魔獣の領域。

 翼持つ魔獣に襲われてしまうから、長時間の空の移動はリスクが高いのだ。

 それでも強行するなら大人数など、十分な戦力を用意するしかない。

 魔王様? あんな例外中の例外は忘れてくれ。


 そう考えると、この少女の身に起きた事は……。


「クロエ、この子を連れて先に戻っててくれる? ラフルとか他にも人を呼んで」

「アクタは?」


 いつもみたいに「そう」って返してくれないか。


「この子が来た場所を見てくる」

「そう……」

「お願い。二手に分かれた方がいいんだ。大丈夫。ここらへんの魔獣はもう片付いているから危険なんてないよ」

「そう………」


 納得してくれないなあ。

 まあ、大森林で別行動なんて賢い選択じゃないんだけど、一刻を争う事態かもしれないんだ。

 クロエだって口に出さないだけで、状況はわかっているんだろうけどなあ。


「頼むよ。頼みを聞いてくれたらクロエの言う事をなんでも一つ聞いてあげるから」

「そう」


 クロエさん、急に素直になりましたね!

 僕から少女を受け取ると、名残惜しそうに手を放して、緩やかな動きながらも大きなストライドで走り出す。

 クロエの足なら街まで数分。

 応援が来るまで、一時間弱かな?


「それまでに状況の把握はしないとな」


 莫大な魔力を湯水のように使った身体強化をかけて、僕は白い少女が出てきた茂みの奥へと走り出した。


 茂み、枝、木々、岩、そんな障害物は文字通りに蹴散らす。

 体に当たる感触はない。

 空気の壁を破る音が連続して背後に流れていく。

 僕の全力の身体強化はそういうものだ。

 油断すれば踏み切った勢いで空高くに飛んでいきそうな体を、低く、前に、突き進ませていく。


 一直線。

 ただ一直線に突き進む。

 何度か進路確認に足を止めつつも、大森林に新しい道を作りながら進むこと数分。

 思っていたよりも少女は長い距離を逃げてきたらしい。


「ここか」


 ようやく目的の場所に辿り着いた。

 できれば、想像が外れていてほしかったんだけどな。

 残念な結果が目の前に広がっている。


 森の一角にできた不自然な広場。

 何か巨大なモノが暴れたのだろう。

 木々が倒れて、折り重なってできた空間。


 そのどこもかしくもに血と肉と臓物が散らばっていた。


 こみあげてくる吐き気をこらえて、辺りを観察する。

 元、人の痕跡。

 さっきの少女と同じ鳥系の獣人だ。

 数が多い。

 あまりに酷い光景で正確な数はわからないけど、数十人はいたんじゃないか?

 そんな大勢が今はもう物言わぬ姿をさらしていた。


「何か理由があって空を大勢で移動して、そこを襲われたのか」


 あんな少女もいたんだから、全てが戦力ではなかったとしてもこの人数を相手にする魔獣なんて多くはない。

 戦いの痕跡もあるけど、かなり一方的な展開だったんじゃないか?


「せめて、埋葬してあげないとな」


 放っておけば森の魔獣に食い荒らされてしまう。

 深めの穴を掘って、埋めるぐらいしかできないだろうけど、何もしないよりは……。


「だ、れか、いる……のか?」


 黙祷を捧げていると、ふと声が聞こえた。

 森のさざめきに飲み込まれそうな微かな弱い声だけど、確かに聞こえた。

 身体強化を掛けたままだったから聞き取れた声。

 生存者がいる?

 この地獄の様な中に?


「だれか、いるな、ら……」


 今度は確かに。

 足早に声の方に向かえば、倒れた木々に胴体を圧し潰された壮年の男がいた。


 やはり、翼を持つ獣人。

 空を見上げる目は虚ろで、何も映していない。


「いま助けます」


 慎重に、素早く倒木を持ち上げる。

 男を引っ張り出そうとして止めた。

 木の下の胴体は本当に潰れていた。

 今も命を繋いでいるのが奇跡なのだろう。

 無理に動かせばそれだけで命の灯が消えてしまいそうだ。


 僕が知る限り、この世界の魔法に回復手段は、ない。


「白い羽の子供は保護しました。何か伝える事は?」


 覚悟を決めて、できる事を言う。

 あまりにも無力で唇を嚙みしめそうになるのをこらえる。

 悔しがって聞き逃したら取り返しがつかない。


 壮年の男に僕の声は届いたのか。

 目を見開いて、持ち上がらない腕を振るわせて、声を振り絞った。


「娘を、助けて、くれ。あれは、化け物――」


 最後まで言えなかった。

 男の目から光が消える。

 震えも止まり、息もなくなっていた。


 今度こそ木の下から引っ張り出してあげて、黙祷を贈ろうとしたところで地響きが起きた。

 地震、ではない。

 この断続的な重低音を伴う揺れ方は、巨大な何かが歩く時のそれだ。

 大森林ではたまに起きる現象。

 音の方を見れば、巨体が森を破壊しながら近づいてくるのが見えた。


「ドラゴン……いや、あれは」


 呟く。

 大森林に生息するという脅威。

 生物の頂点ともいわれる最強生命、ドラゴン。 


 ただ、その体からは腐臭がしていた。


「ドラゴンゾンビ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ