15 よし。メカクレちゃんのお家を探そう
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あの日から三日。
ベルが目を合わせてくれない。
というか、めっちゃ逃げられている。
怒っている、というわけじゃないんだけど、近づくと数印【Ⅸ】の超加速で離脱していくのだ。
図らずも廊下で追い込んでしまった時なんて、壁と天井を蹴る立体軌道で逃走したのだからよっぽどだ。
「はあ」
「溜息を吐くな。空気が悪くなる」
「すみません」
今日もジュニアは刺々しいな。
この前、ヌイに釘を刺されたせいか直截的な言い方は減ったような気がするけど、僕への当たりがきついのは相変わらず。
素直に謝っても舌打ちされるとか、僕にどうしろと?
と考えてわかるならこんな関係になっていないか。
できる事と言えば、さっさと僕の仕事のノルマをクリアして、同室から脱出するぐらいか。
「はい。終わりました」
というわけで、五日前と同じように仕事を片付けて、村長に提出。
村の資材の数を数えて、村の人口やいろんな事情を勘案して何日分になるか計算するだけだから簡単なものだ。
例年より余裕のある健全な貯蓄ができていて二重丸です。
何やら数日分の余剰が計算に入っているみたいだけど、お客さんの予定だろう。
前にジュニアがチラッと口にしていたから何かあるんだと思う。
後ろでジュニアの歯ぎしりの音がするけど、僕と競争でもしていたの?
そんな微妙な空気をまるっと無視して村長は書類に目を通して頷いた。
「よし。もう帰っていい」
「はい。お疲れ様です」
早上がり万歳。
僕がいても空気が悪くなるだけだから逃げ出してしまおう。
どうして僕を敵視するかわからないけど、ジュニアの刺激になるなら悪い事でもないんだろう。
絡まれるのは面倒だけど、そんなの零印の僕にとっては日常だからそんなに気にならないしね。
「さて、と」
村長の屋敷から出て僕は辺りを見回す。
謎の光事件から三日も経てば、当初の緊張感はもう薄れていた。
もう村の中を見回る人はいないし、開拓も通常運転になっている。
ヌイの話だと現場は少しだけピリピリしているらしいけど、森の見回りは通常運転に戻ったとか。
家から持ってきていた包みを確認する。
ベルからもらったお古をリメイクした一品だ。
言うても素人の手作りだけど、僕の精一杯の謝意を込めて作らせていただきました。
「後はどうやって会うかだ」
ただ大森林に入っても会えないと思う。
いや、前は呼びかけたら出てきてくれたけれども。
あんなことをしでかしたんだから、普通に避けられるに決まっている。
「となると、もう少し奥まで探しに行かないとな」
今までメカクレちゃんの目撃例はなかった。
つまり、彼女の生活圏は大森林のもっと奥にあるんだろう。
そこは精霊族の集落とは違うんじゃないかな。
出て行けと言われているらしいからそうだと思う。
果たして精霊族とはいえ、子供が一人で大森林を生きていけるのか。
そこが疑問だ。
何やら普通の子供じゃない雰囲気は持っていたけど、魔獣が生息する危険地帯である大森林で野宿しながら生きる。
それはないだろう。
最低限、生活する拠点があるはず。
夜に安心して寝られる環境は必須だ。
できれば、それに大人の庇護があるといいんだけど……。
「よし。メカクレちゃんのお家を探そう」
と決めてからまた三日。
「きっつい……」
大森林の中。
大きめの木の根っこに腰かけて、僕は額の汗をぬぐった。
当てもなく大森林をさまよい続ける毎日。
日帰りで行き来できる範囲とはいえ、魔獣の出てくる大森林を探索するのは肉体的にも精神的にもきつかった。
朝早くに出かけて、開拓地を迂回して大森林に突入。
初めてメカクレちゃんと出会った場所から森の奥へと向かい、木に矢印をつけながら昼過ぎまで黙々と歩いて、来た道を帰るという作業を三度繰り返したけど成果は何もない。
メカクレちゃん本人も、その痕跡も見つかっていない。
そもそも子供の僕が歩いて行ける距離なんて、村の大人が定期的に見回っているだろうから、その内側にいる間は成果なんて得られるわけがないんだけど。
「これじゃ何日かかるかわからないな」
大人の見回りの外に出るまで数日。
そこから更にメカクレちゃんを探すとか無理ゲーが過ぎる。
それに魔獣の問題。
この三日で一度も遭遇しなかったのは開拓村の近くだからだ。
奥地に行けば魔獣の縄張りに踏み込む事になって、当然襲われるに決まっている。
ちっとも魔力を操れないままの僕がエンカウントしたら一発でアウト。
「距離も稼げないし、生き残れないし」
やる前からわかっていたけど、メカクレちゃんと再会する前に遭難するか、魔獣に食い殺されてしまうだろう。
日帰りと戦力の問題。
その解決が先だな。
となると、僕に必要なのは協力者か。
「ヌイか、ベル……はダメだな」
一番に思い浮かべるのは兄妹。
村一番の数印を持つ二人が手伝ってくれるなら心強い。
とはいえ、二人とも子供だ。
子供だけで大森林を探検なんてさせてもらえるはずがない。
じゃあ、大人について来てもらうのは?
狩人のおじさんたちなら大森林の浅い場所で野営する事もあるって話だ。
それにヌイやベル程じゃなくても、数印【Ⅴ】も十分に強い。
そこらの魔獣が出ても撃退できるはず。
「けど、僕を連れていってはくれないよなあ」
零印の僕は足手まとい以外の何者でもない。
しかも、メカクレちゃんの事を話さないのだから、連れていく理由がどこにもない。
僕がお願いしたって、子供のわがままと思われるだろう。
いや、実際その通りなのだけど。
「となると、村の人は全滅だな」
唯一事情を聞かないでも手伝ってくれそう大人は叔父叔母夫婦だけど、僕の身を案じて反対するだろうし。
村の外部で、十分な戦力を持っていて、事情も聞かずに手伝ってくれる人。
「いないわぁ。そんな都合のいい人」
そんな提案のってくれる人がいたら絶対詐欺師だよ、そいつ。
協力者なしで大森林の探索。
やっぱり難しい。
そうでなくても、数日間家を空けるのだって納得してもらう算段もないのに。
絶対、反対するだろうなあ。
特にベル。
顔を真っ赤にして怒るところが目に浮かぶもん。
「問題が山積みだなあ」
メカクレちゃんとの仲直り。
そのための方法。
零印と僕の魔力の謎。
ジュニアとの確執。
考える事が多くて、どれから手をつければいいのやら。
「とにかく、今は少しずつでも進もう」
休憩終了と立ち上がり、大森林の奥に向かって歩き始める。
手には拾った尖った石と、杖替わりの木の枝。
足元は草が伸びて、むき出しの木の根や岩が見えづらくなってきた。
高低差も大きい。
崖に道を塞がれるなんて当たり前。
枝葉やツタが視界を塞いで、バラバラに生えた木の間を歩いているとまっすぐ進んでいるか自信がなくなっていく。
濃い、緑の匂い。
ひんやりとした空気。
静かな、でも、騒がしい命の音をどこかから運んでくる風。
大森林。
大陸の中央を覆う自然の領域。
魔境と呼ばれるのも納得だ。
この三日で随分と慣れてきた。
そんなふうに思ったのがいけなかったのか。
「あ……」
ゆるやかな丘を登りきったところで、僕は足を滑らせた。
岩の上に生えた苔を踏んだら、あっさりとはがれて滑ったのだ。
それだけなら転んで、少しけがをしただけで終わったかもしれない。
ただ、運が悪かったのは緩やかな丘の向こう側が、崖のようになっていた事。
「うわっ、あああああいいいいいいえええええええええええええあああっ!?」
僕の悲鳴は深い森に飲み込まれて、どこにも届かずに消えていくのだった。




