9 ここなら他の人もいないから話せるよ
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もちろん、中世ぐらいの文明のこの世界にインスタント食品どころか缶詰だってないし、こんな夜中に用意できる食事なんてあんまりない。
ないけど、そこはまあぜいたくをいわなければなんとかできる。
当然、ラーメンは無理だけど。
僕はやっとどいてくれた謎の子供――仮称メカクレちゃんを連れて台所までやってきた。
今のところ無言でついて来てくれている。
ちょっと不用心すぎて心配になるけど、ありがたい。
台所に到着した僕は棚から黒パンをゲット。
村の窯でまとめて焼かれて五日分が各家に配られたものだ。
五日目にもなると硬くてそのまま食べられなくなってしまうけど、まだ二日目のこれは大丈夫。
それから家の裏手に僕が作った家庭菜園から葉野菜を適当に千切って、明日の朝食用に塩抜き中の豚肉を少しだけ拝借して水洗い。
パンにナイフで切れ目を入れて、そこに野菜と肉を雑に挟んで、さらに僕特製のソースを掛ければ手抜きサンドの完成だ。
健康志向を追及するうちに手に入れた料理スキル、というには寂しい。
本当なら軽くパンを温めたり、野菜のバランスも整えたりしたいけど、食べられないほどじゃない。
「どうぞ」
差し出すけどメカクレちゃんは黙って見つめたままだ。
こんな粗食は口にできないとか、皿にも乗せないとかじゃないよね。
もう一度目の前に突き出してみる。
「いいの?」
「いいよ。ほら」
ちょっと強引に手渡す。
よかった。受け取ってくれた。
「そう」
メカクレちゃんはしばらく後に呟くと、小さな口で手抜きサンドを食べ始めた。
すぐに食べる勢いが早くなっていく。
警戒が解けたのか、それとも空腹が我慢できなくなったのか。
あっという間に食べてしまった。
空っぽになった手を見つめて、それから僕をジッと見つめてくる。
これは、おかわりを催促しているのかな?
僕の適当な手抜き料理でも口に合ったのは光栄だけど、僕が用意できるのはこれだけなんだ。
「ごめんね。それしかないんだ」
「そう」
「お腹、少しはふくれた?」
メカクレちゃんがこくんと頷く。
明日はおばさんにつまみ食いしちゃってごめんなさい。朝ご飯はいらないですって謝らないとな。
メカクレちゃんが満足してもらえたならオッケーだ。
「ちょっと外で話そうか」
家の中だと誰か起こしてしまうかもしれない。
特にベルとヌイは高い数印を持っているせいか、五感まで普通の人よりずっと鋭い。
僕らの声を聞いて起きてくるかもしれない。
うん。ヌイはともかく、ベルに見られたらと思うと寒気がし始めた。
音を立てないように気をつけながら家を出る。
村の人は普通起きていないし、唯一起きている見張りは外を見ているものだ。
提案には無言だけど、僕が歩き始めるとメカクレちゃんはついてきてくれた。
月明かりだけを頼りに少し歩く。
伸ばした手の先も見えない暗闇の中でも、メカクレちゃんは迷う様子もなくついてくるのが足音でわかった。
まるで見えているみたい、っていうか見えているのかも?
考えてみればこの夜の闇の中で僕の居場所を探し当てたんだから、すごい夜目が利くとかあっても不思議じゃない。
三分ぐらい歩いただろうか。
家に戻れるか不安になってきた辺りで足を止めると、後ろの足音もぴったし止まる。
なんだか怪談じみたシチュエーションだな。
さて、少しは落ち着いて話せる状態になったかな?
あんまり自信はないけど、さっきよりは僕も落ち着けた。
とりあえず、この子の事を知りたいんだけど今までの様子を考えるとあまりコミュニケーションが得意ではないみたいだ。
人と話すのに慣れてないというか、天然気味のマイペースというか。
あれこれ聞いても答えてくれないなら、向こうの興味のある話を振ってみよう。
「君、僕に用事があるんだよね?」
「そう」
よし。
こんな夜中にやってきておいて用がないわけないけど、意思疎通ができただけで嬉しくなるな。
「ここなら他の人もいないから話せるよ」
昼間に村の人が近づいてきたら逃げていったし、人目を避けているんだろう。
家の中で誰かが来るかもしれない状態だと話づかった事も、ここでなら口にするかもしれない。
気長に待つ覚悟でメカクレちゃんが口を開くのを待つ。
待つ。
待つ。
……待つ。
……待つ。
…………待つ。
…………――待つ、けど。
話さないかあ。
もう十分ぐらい過ぎたかな?
暗くてはっきりしなけど、メカクレちゃんは僕をじっと見つめたままフリーズしてしまっている。
本当に僕の顔をよく見る子だ。
何が見えているんだろう?
自分で言うのもなんだけど、特別なところなんて全然ないよ。
僕に一目ぼれした、なんてうぬぼれるほど馬鹿じゃないつもりだ。
そんな僕にメカクレちゃんの興味を引き付ける何かがあるんだろうか?
僕だけの特別なんて……。
「零印?」
右手を持ち上げる。
暗い中だと赤い印がほんのりと浮かんで見える。
いつでも、いつまでも変わらない『〇』の形。
メカクレちゃんの視線が手に向いた、気がする。
けど、それも少しだけ。
すぐに僕の顔に戻ってしまった。
違ったか。
っていうか、メカクレちゃんが精霊族なら数印を持っていないんだから、僕の零印に至っては意味不明だろう。
そうなると本当に心当たりがない。
親がいない子供、というならこの村にだって他にいるしなあ。
「ねえ」
いきなり持ち上げていた右手を掴まれた。
ひんやりと冷たくも柔らかい感触。
メカクレちゃんは僕の腕をつかんでグイっと引っ張ってくる。
細い腕からは想像もできないぐらい強い力。
これはベルに腕を引かれた時と似た感覚だ。
ひ弱な僕は抵抗もできずに前のめりになってしまう。
「力、弱い」
「は、はい!?」
初めてメカクレちゃんから話しかけてくれた? やったー!
いきなりディスられたのに、ちょっと嬉しくなってしまうんだから僕はどうかしているかもしれない。
思わず声も裏がえってしまった。
声を掛けたメカクレちゃんはそれから少し沈黙してしまう。
何を話すか考えている、っぽい。
それでも一分ぐらいで次の言葉がやってきた。
淡々と。
当たり前の事を当たり前に言うように。
「あなた、どうしてそんなに魔力があるのに、使わないの?」
そんな爆弾発言を投げ込んできたのだった。




