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入港


海の大悪魔”クラーケン”を撃退してから早十日。


色んなトラブルがあり、到着予定日時よりも遅れたが、ようやく望遠鏡越しだが陸が見える距離まで来た。


クリムに『そろそろ陸が見えるのっ』と教えてもらったエリオスは、貸してもらった望遠鏡を艦橋から覗いている。


「おぉー、見える見える」


言われた通り、陸が見える。

エリオスの知る限り、”ハラサラ”と言う名の街で間違いなさそうだ。


「おーい!陸が見えたぞー!ハラサラの街だ!!」


取り敢えずの報告を甲板に居るユースに伝える。

それを聴いたユースは嬉しそうに船内へと走って行った。


「ユートが造った道具はホント便利だな。どうやったらこんな道具が作れるんだか…」


まぁ、俺達みたいな普通の人間が考えても仕方ねぇか。と心の中で呟きながら、望遠鏡を覗いて見える街の港を観察する。


既に昼過ぎの時刻。そんな微妙な時間帯の為か人影は少ない。

漁師達は沖へと出ているだろうし、その場に残っているのは雑用をしている人か、もしくは漁に出てない人達だろう。


そんな事を考えながら望遠鏡を覗いていると、久々に艦内放送が鳴った。


『ピンポンパンポーン。クリムなのっ!あと30分で港に着くのっ!降りる準備をしといて下さいなのっ!』


それを聴いたエリオスからすれば、そんな短時間でこの距離を移動するのか。と思わせたが、この船を作ったのは、あの装甲車を造ったユートだ。あり得ない話ではない。と納得するしかできない。


「さてっと、俺も準備するか」


呟き終えると艦橋から飛び降りて体を伸ばす。

これで海ともおさらばだと思うと、少し寂しい気持ちになる。


例え、船内で迷子になって2日も彷徨った挙句にリョーガに海に投げ捨てられようと、クラーケンの下敷きになろうと、釣った魚に食われそうになろうと、船酔いで体調を崩して例の酔い止めを使用して丸一日も腹痛で苦しもうと、寂しくなるものだ。


ただ、一言言えるのは、海に出てから碌な目に遭ってない。トラウマ級だ。


だが、エリオスのメンタルは強かった。これっきしで心が折れる事はなかったのだ。


「そういや、釣った魚はどうすんだ?」


などと、他の事を考えながら船内へと入って行った。



ーーー



センカン一号は大きい。その巨大さ故、人に見られれば騒ぎになるし、港に船をつけることが出来ない。だから、仕方なしで船には隠密効果が付けられ、陸が見える位置で停まる。


そして、クリムが小さな箱に船を収納した後、センカン一号まで移動した時に使用したイカダを使って港へ向かう事に。


ちなみに、小さな箱の名前は『クエスチョン・ボックス』。どんな大きさでも収納が可能だが、使い捨ての収納箱だ。

名付けの理由は、箱だけだと何が出てくるか分からないから付けられた。


ちなみに、初期の段階で付けられた名前であり、今は分かりやすいように中に入っている物が透けて見えるようになっている。所謂、小さな箱に入った模型だ。


それは兎も角、リョーガ達は遂に陸へと足を付けた。

危険な海を渡ったと言う偉業を成し遂げた事になるのだが、それを知る者は数少ない。


「さて、ほな、ここからユートの所まで一直線で向かうで」


「おうよ!」


「えっ!?休んで行かないんですか!?」


「休むのなら次の街がオススメよ。私達、税関を通らずに国を渡っちゃったから」


「そうですか…」


リリィの言いたい事は『違法入国をした』と言う事だ。ユースはそれを理解したが、リョーガとエリオスは話を聴いていない。


そんな会話をしている間にイカダをリサイクルボックスに収納し終えたクリムが戻って来た。


「リョーガさんに手紙があるのっ!海を渡ったら渡すように言われてたのっ」


そう言って、ポケットからクチャクチャになった手紙を取り出してリョーガに渡す。

それをリョーガは無言でエリオスに、エリオスは無言でユースに、そして、ユースは無言でリリィにーー。


「何よコレ…?」


グルリと回って来た手紙を不思議そうに見つめて疑問の声を出すリリィ。だが、誰も声を出さない。

無言でリリィが手紙を開けるのを待つ。


それは、ユートからの手紙の場合、だいたいイタズラが仕掛けられているからだ。


だが、リリィはそんな事は知らない。疑問を浮かべながらも、なんの恐れも抱かずに手紙を開け始める。

それを見ているリョーガ達の足は自然と後退り。


何事もなく手紙を開け終えたリリィは、中に入っていた一枚の紙を広げる。そうしてようやくリョーガ達の警戒は解けた。


「……ユート、どこかで私達の事を見てるのかしら?」


手紙の内容を読み終えたリリィは一言呟いて手紙をリョーガに渡す。

手渡された手紙に目を通すリョーガ。手紙の内容は、


『やっと帝国に入ったんやな。お疲れさん。

リョーガは相変わらずアホやってたんちゃうん?あの、海の悪魔と戦ったりとかさ。

多分やけど、殺し損ねたやろ?


まぁ、それは置いといて、前に渡したTYPE-2の説明の続きな。どのみち最後まで読んでないんやろうし。


マテリアルメーター…ガソリンメーターが空になったら、給油口の所から魔力供給して。

そしたら動くわ。


けど、注意が一つ。

魔力が大量にある奴…リョーガぐらいやな。それ以外がやったら干からびて死ぬから。


ほな、また会う日まで〜』


殴り書きのような汚ったない字で書かれた手紙は、文字や言葉遣いからして間違いなくユートからのものだ。


手紙を読み終えたリョーガは視線を周囲に巡らす。それは、ユートがどこからか見ているのではないか。と思ったからだ。

だけど、ユートは見つけれない。この場に存在しない者を見つけるなんて不可能だ。


だがしかし、リョーガは見つけた。

ユートの目となり口となり身体となる存在を。


「ハハッ、ちゃんと見てるんやな」


陽の光が良く当たる建物の屋根の上に堂々と立ってリョーガ達を見ているネモだ。

黒い外套を着てフードを深々と被っているが、目立つ白い仮面は隠せない。


軽くネモに手を振ってから、手紙に書かれていた内容とTYPE-1を使用して移動する事を皆に伝えて今後の方針を決めに入る。


「…そうか。さすが、と言うべきだな。それじゃあ……出発か?」


「僕、魚は食べ飽きました。他の物が食べたいです。なので、先に食料の購入を希望します」


「それなら、釣った魚を売ったお金で買った方が良いわね。リョーガの『アイテムボックス』に詰めたんでしょ?」


「クリムが売るのっ!任せてなのっ!」


「私も付いて行くわ」


クリムとリリィは釣った魚を売りに行く事に。

早速とばかりに、クリムは『クエスチョン・ボックス』を取り出して使用する。


どうやら、クリムが持っている『クエスチョン・ボックス』はリョーガ達が使った物と違い、悪戯など仕掛けられておらず、普通に物が出現するようだ。


『クエスチョン・ボックス』から出てきた馬三匹で引くような大きなリアカーも普通に出てきた。


その荷台に『アイテムボックス』から取り出した魚を積み重ね、クリム一人で巨大な魚が山積みにされたリアカーを押し、リリィはそれに付いて行った。


「なんて力だよ…」


エリオスがクリムの馬鹿力に驚くのも無理はない。

そんな普通の感性を持っているエリオスを置いて、感性のズレたリョーガとユースは移動しながら会話する。


「俺達は買い出しけ?」


「そうですね。できれば、お肉が欲しいです。それと、果実絞りのジュースが欲しいです。あっ、リリィさんはミルクです」


「そか。なら、行こか」


今後の方針がなんやかんやで決まり、後で追いかけて来たエリオスと共に買い出しに向かったリョーガ達であった。



ーーー



場所は変わり、マーリンの街から北へ行った所にある活火山の(ふもと)付近。


何もない。ゴツゴツとした岩ばかりが転がる辺ぴな所に二人の人影がある。


「本当にやるのか?」


「ええ。でないと私達は捨てられちゃうわ」


二人共が同じ黒ローブを着ているが、声からして男性と女性だと分かる。


「それは分かってんだけどよ、こんな事したら俺達生きて帰れねぇんじゃねぇのかよ」


「”俺達”じゃなくて、”私”じゃないの?」


「………」


「なんの為に貴方を連れて来たと思ってるの?組織の中で一番強力な障壁を張れるのは貴方だけなのよ?」


「で、でもよぉ…」


「やるのよ。でなきゃ、私はここで死んで、貴方は組織に殺されるわよ」


「分かったよ…」


節々と言った風に男は了承し、二人は山を登って行く。



ーーー



ユートが魔力を全て吸い尽くした街。

花や雑草と言える生き物は全てが枯れ果て、家は全てが崩れ落ち、岩や鉄などで作られた物でさえ形を保っていない。


まるで荒れた荒野を思わせる風景。


そんな廃街の中央には、辛うじて形を保った巨大な施設ーー鋼鉄でできた半球状の建物がある。


その地下には明るい雰囲気の部屋があり、その部屋の中央にある円状の机を赤いローブを着た者達が囲んで着席している。

席の数は全部で10席。だが、着席しているのは七人のみ。


「皆に集まってもらったのは他でもない。どうやら我々の邪魔をしている者がいるらしい。なので、近状報告をしてもらおうと思ったのだ」


一人の男が声を掛けると、即座に子供ぐらいの身長の少女が挙手しながら声を挙げる。


「ナナが先!ナナが先に話す!いいでしょ一番!」


始めに声を発した男性に尋ねながら主張する少女。全員の視線が彼女へと向けられ、次に一番へと視線が向く。

一番は全員を見回してから、自分の事をナナと呼ぶ彼女へ視線を向け、話せと目で伝える。


「ナナはね!魔国で暴動を起こさせたよ!今頃は戦争してるよ!」


まだ幼げな声。なのに、発っせられた言葉は物騒な事。

だが、咎める人は居ない。それが当たり前のように皆が満足気に頷く。


「そうか。よくやった七番」


七番と呼ばれた少女は褒められてキャッキャッと喜ぶ。

それを横目に、一番は睨みつけるような瞳でブツブツと何やら呟いている細長い身体付きの男へと視線を向ける。


「で、六番は何をしていた?」


六番と呼ばれた細長い身体付きの男は視線を彷徨わせ、覚悟を決めて答える。


「わ、(わたくし)はここで魔人兵の研究をしていました…ですが、数日前に何者かが私の街に侵入し、どうやったか定かではありませんが、全ての魔力を奪われました……」


「この失態、どうするつもりだ?」


「この命に代えてでも、魔力を奪った者を殺してみます」


「そうか」


一番は六番の発言に迷いなく頷き、一拍置いて口を開く。


「四番。付いて行ってやれ」


「御意」


四番と呼ばれた男性はローブの上に刀を携えたは、座りながら仰々しく頭を深々と下げる。

それを確認した一番は視線を一番近くに座る胸の豊かな女性へと向ける。


「最後に、二番。あの件はどうなってる?」


「はい。一番様が扇動した甲斐もあり、上々でございます。準備に暫くの時間が掛かるそうですが、現在はアークノート学園を標的にしております」


「そうか。アークノートか…。確かあそこには…」


「はい。王国に召喚された勇者が通っております」


「ふふっ、ふははははっ、面白い。勇者か!」


大きな声で笑った一番はニヤリと口元を歪めて、視線を残された二人。順番で言うと、三番と五番の人物へと向ける。


「三番。五番。お前達も行って手伝ってこい」


「分かったよー!」


「…ああ」


三番は元気そうな雰囲気の女性で、五番は物静かな男性だ。

それぞれが返答し、一番は満足気に何度か頷き、小さな声で呟く。


「クククッ、これは面白くなりそうだ…」


廃墟と化した街の中央に存在する研究所の建物の地下。

明るい雰囲気の一室に謎の七人は密かに笑う。


これから起きる事を想像して笑みを隠しきれない七人は一斉に立ち上がる。


「さて、悲劇を始めようか」


ニヤリと笑みを浮かべる一番。

彼等は知らない。敵に回してはならない相手を標的にした事を。そして、悲劇を与える筈の彼等が逆に悲劇に遭う事など知る由もなかった。


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