ユートの生活
今日は事前に書き置きしていた物です。
実は、次がまだ書き終えていないんです…。
「よしっ、完成!」
両手を大きく広げて喜びを露わにする。
ユートの目の前には、周囲の家々とは一風変わった家がある。
周囲の家々は粘土を固めたような壁に、木の屋根をしている。なのに、この家は殆どが木によって造られており、屋根は瓦である。おまけに庭まで付いており、石垣によって家と庭を囲っている。日本の由緒正しき木造建築だ。
白い小石と小池が造られた庭には二羽ニワトリの様な生き物が放し飼いで飼われており、何かを狙っているようにしか見えない。
ちなみに、小池には何も住んでいない。綺麗な水に枯れた茶色の落ち葉が一枚置いてあるだけだ。
「本当にこれだけで良かったのかのぉ?」
「おんっ!住む所くれただけでも有り難いよ。ありがとさんっ」
話かけてきた人はこの村の村長であるナータルだ。筋肉質な体型で見た目は四〇代後半程に見えるが、本人が言うには七〇を超えているらしい。
「だが、あそこまでして貰ったのに、それだけとは…」
ナータルは申し訳なさげに言うが、ユートはニコニコと笑いながら感謝の言葉を口にする。
「ええねん、ええねん。土地くれたし、家造んのも手伝って貰ったし、俺にとって嬉しい事この上ないからさ」
と、言っても、リョーガを探さなければならない為、ここに住むのはそれ程長くないだろう。
だけど、少しだけの休憩として、この村に居座っても良いだろう。と、考えたのだ。
「だがのぉ…」
ユートの言葉にナータルは納得してなさそうだ。なにせ、壊れた壁を直すどころか、より頑丈な鋼鉄を利用した壁を作り、手押し車を便利な車へと変身させ、この村を襲った盗賊を退治し、攫われた人達を救い出し、なにか困っていると助けてくれる。
そんな優しい彼には感謝してもしきれない。物で感謝を表そうにも、彼は何も欲しがらず、問い詰めてようやく『土地が欲しい』と言っただけだった。
だが、それだけでナータルは納得できない。感謝を伝えきれていない気持ちしかない。
なのだが、ユートからしてみれば感謝の気持ちだけで十分なのだ。この世界に自分の欲しい物を要求しても手に入らない物が多い。それに、本当に欲しければスキル〈ガレージ〉で手に入るし、作れる。
ユートは案外しつこいナータルに呆れながら、思考を巡らせて「それなら」とナータルが納得いくか分からないが、提案を持ちかけてみる。
「食料が欲しいな。できれば、調味料」
〈ガレージ〉では手に入れる事が出来ない物。それは、生き物に関する物だ。
彼の数多くある趣味の一つが料理なのだが、材料を揃えようにも、この世界の食材など全く知らない。
「うぅむ…分かった。どうにか手に入れてみよう!」
ナータルは少し困った表情をしたが、どうしても恩を返しいたいと思って了承した。
「あ、別に無理やったらええで。みんなから貰ったもんだけで十分から」
なんだか、使命に燃えるナータルを見ていると、お金とか大丈夫なのかと、心配になってきたユートは一言付け足した。
だが、ナータルは首を横に振って答えた。
「いや、大丈夫じゃ。安心せいっ」
ドンッと立派な胸板を叩いて胸を張る。それを見て、ユートは余計心配を覚えた。
〜〜〜
ナータルが意気揚々と家に帰っていくのを手を振りながら見送ったユートは、出来たばかりの家へと足を踏み入れる。
出来たばかりとは言え、作り始めてから三日が経っている。そんな短時間で造り上げたのはユートの技術力と村人達の手伝いがあってこそだ。
全てが真新しい感じで、中に入ると木の香りが鼻腔をくすぐる。それが好きで、何度も深呼吸を繰り返す。
玄関で靴を脱いで、綺麗に揃えてから縁側へと向かう。
縁側に胡座をかいて座り込み、タバコをポケットから取り出して吸い始める。ついでにガラス製の灰皿も置いておくのも忘れない。
空を見上げながらタバコを吸う姿は、まるで、お爺さんが縁側で煙管を吹かせているみたいに見える。
「ここにお茶が…」
あれば良いんやけどなぁ〜、と言おうとした途端。
「すみませーん!」
玄関から甲高く元気そうな女性の呼び声が聞こえた。その声にユートは聞き覚えがある。
迷宮から脱出して、初めて会った村人一号だ。
「はいよ〜。今行くからちょい待ってな〜」
普段出さない、少し大きめの声で返事に答え、タバコを灰皿で揉み消してから、玄関へと向かう。
ユートは、いつも通りにニコニコとしながら来客者の前に姿を表すと同時に要件を訪ねた。
「どないしたん?」
玄関の所で待っていたのはエミルだ。玄関内から物珍しそうに周囲を見渡している。そこからはまるで、ホケェーと声が漏れて来そうだ。
要件を尋ねたが、少し待っても反応がなかった為、もう一度要件を尋ねる。
「……どないしたん?」
「え?あっ、す、凄いね!」
「お、おん。ありがと」
取り敢えず感想を言ったみたいな反応で家を褒められ、『あれ?家造ってる時、良く来てたくね?』と思いつつ感謝を口にして、要件を再度尋ねる。
「で、どないしたんよ?」
顎に指を置いて、首を傾げ「んーーっ」と考えるエミル。
「えっとね、えーっと…なんだっけ?」
どうやら、この家の玄関によって記憶が一時的に飛んでしまったようだ。
エミルが何をしに来たか分からないのに、それが何かを問われても、ユートが知るはずもなく、否応なく苦笑いになってしまう。
「いや、俺に聴かれても困るんやけど…」
苦笑いをしながら困ったような表情をして、頬をポリポリと指先で掻く。
エミルは少しの間、思い出そうと思考を巡らすが、全く思い出せない。だが、別の案が浮かび上がった。
あの時のボロボロの服とは違い、少し汚れた使い古した簡素な服の裾をギュッと握り締め、勇気を出して言ってみる。
「……と、取り敢えず、散歩しよっ」
「ええよ」
「ホント!?」
「おん。別にする事ないし、頼まれてる事もないしな」
「やった!」
ユートの返答は素っ気ないが、エミルは飛び跳ねるんじゃないかって程に喜びを露わにして、ユートの手を引いて家を飛び出そうとする。が、ユートからの待ったが掛かった。
「ちょい待ち。靴履くのぐらい待ってや」
ユートの家は、土足で入っても良い たたき と屋内を隔てる上がり框からは土足禁止である。
なので、今のユートは裸足である。ちなみに、靴下は良く破れるから履いていない。
ユートが靴を履き終え、エミルと共に村の中へと繰り出す。
村人達はユートを見つけると、手を振って挨拶してくるか、何やら色んな食材を渡してくれる。時には木彫りの人形やら、薪なども渡される。
それらの好意は、これからの事を考えれば嬉しいのだが、物を渡されると両手が塞がってしまう。
そして、その物は思ったよりも多い。両手では足りない程に。
その為、なぜかエミルまで荷物を持つ事になってしまい、少し村を歩いただけで家に戻る事になってしまった。
「「………」」
無言で玄関に置かれている貰い物へと目を向ける二人。
これは、二人にとって想定外の事だった。
「いっぱいあるな…」
「あるね…」
「「………」」
玄関を埋め尽くす程の量。途中からは、両手じゃ済まなくなり、近くにあった壊れかけの手押し車を使用した。
その結果がこれだ。果物や野菜や生肉などの食料の他、薪や鍋などの料理道具、はたまた小物なども。
村人の好意は素直に嬉しい。嬉しいのだが、エミルからすれば余り良い顔をしなかった。だから、ユートは考えた。どこでなら散歩ができるか、と。
そして、思い付いた事を口に出して尋ねる。
「…そうやな、散歩するんなら村の外の方が良さそうやねんけど、どないする?」
「…うん」
エミルは少し迷ったようだが、頷いて答えた。
そして、村の外へと向かった。までは良かったのだが、村の外は森だ。
木や草の所為で見通しが悪く、足の踏み場もそこまで良くない。
散歩には不向きな場所である。
「う〜ん…」
さすがのユートも、笑みを消して困った表情で考え込んでしまった。
エミルは、急に散歩など言い出したからユートを困らせてしまった。と、申し訳なさそうにしている。
「せや、ちょっと目と耳塞いでてや」
そんな時、何かを思いついたユート。最近余り使う機会がなかったな。と、心の中で呟きながら、エミルが目と耳を塞ぐのを確認してから行動する。
右腕の裾を肘まで上げて、空へと掲げる。
「スキャン」
一言呟くと、カシュンッと音を鳴らして腕から四つの長細い羽が飛び出した。
どこか虫に思わせる大きな羽が宙にフワフワと浮いて腕を中心に回転し、徐々に空へと上がっていく。
それが手を超えた辺りで、回転が止まり、羽が勢いよく振動し始める。
刹那、あちこちから魔物の悲痛な叫び声が聴こえてきた。
それは、彼の右腕に組み込まれた〈スキャン〉と名付けられた周囲の地形や索敵などを行う機能である。
人の耳では聞き取れない超音波を発して、周囲の状況を知る事が出来る代物だ。所謂、ソナーと同じような仕組みである。
それだけを聴くと、とても使い勝手が良く感じれる。だが、〈スキャン〉には途轍もない欠点があるのだ。
〈スキャン〉を利用した際に発せられる超音波は魔物にとって黒板を引っ掻いたような音に聞こえる。その為、頭にまで響き渡る不快な音を聴かされた全ての魔物は怒り狂い、発生源に襲い掛かるのだ。
「さて、逃げよっ」
そう言って、両手で耳を塞ぎ、目を瞑っているエミルを抱き上げて走り出す。急に持ち上げられたエミルは「ひゃっ」と可愛らしい声を上げて驚き、閉じていた目を開けて、唐突にユートにお姫様抱っこされている今の状況を飲み込もうとしている。
まだ魔物の姿は見えないが、ユートの仄かに光る青い瞳には確かに魔物の姿が映っている。
木々を超え、茂みを超えた先には、数多くの魔物が徒党を組んで怒りに染まった形相で向かって来ているのだ。
「ちょい捕まっててな」
少しばかり焦りを覚えたユートは、未だに状況が理解できていないエミルに言うべき事を伝えてから、右脚で地面を強く蹴る。
それだけで、普通に走る速度の何倍ものスピードが出た。ついでにエミルは「きゃあぁぁぁっ!!」と、悲鳴を上げた。
だが、速さがあるだけでは簡単に森を進む事はできない。なにせ、突き進む先には生い茂る雑草や木々の群れ。
それらを避けて通る事を可能にしたのが、彼の柔軟に動く左脚。
ぶつかりそうになった大木を左脚の足場にして、方向を僅かにズラし、次の着地点にて右脚で強く地面蹴って突き進む。雑草の類は突撃あるのみだ。
ついでに、魔物も何体か跳ね飛ばしている。
地面を有り得ない程の脚力で駆けながらも木を使って縦横無尽に森を疾走する。
その速さは、並の動物では追い付けない程に速く、目で追い掛けるのもやっとの程だ。
すなわち、エミルの混乱していた脳を搔き乱し、余計に混乱させ、ついでに酔わすのには十分すぎた。
だから、事前に〈スキャン〉で見つけた見通しの良い丘まで辿り着いたのに、エミルはグロッキーとなって地面に四つん這いで立ち上がれずにいた。
それに対しては、ユートも申し訳なさ気である。
〜〜〜
「まぁ、散歩は無理やったけど、景色は綺麗やな」
丘から眺める景色は、赤く輝く夕陽によって若干赤みがかった木の葉がより紅く染め上げられているだけで、この世界に住む人達からすればいつも見るような光景だ。
だけど、ユートからすれば、とても綺麗な景色に観えた。
「……うん」
ユートの右側に居るエミルはギュッとユートの服の裾を握って夕焼けに染まる森を見つめる。
少し視線を右に逸らすと、彼女の暮らす村がある。ここから二キロの距離にあるのに、太陽の光が反射している鋼鉄の壁の存在感はとても大きい。
「まぁ、なんや。これからも宜しくな」
少し恥ずかしかったのか、頬を掻く為に右手を持ち上げようとして、エミルが掴んでいることに気が付き、諦めて、空へと視線を向ける。
「……うん」
エミルも少し恥ずかしさを覚えて顔を赤く染めながら地面に視線を落とした。
暫くの間、呆然と夕焼けを眺めていた時、唐突にエミルが声を発した。
「…あっ」
まるで何かを思い出した。と言わんばかりの表情で、ユートへと視線を向ける。
ユートは未だに空を見上げている。ついでにタバコまで吸っている。
「ねぇ、ユート」
「ん?どないしたん?」
エミルの呼び掛けに、ようやく視線を下ろした。そんなユートに、つい先程思い出した事を暗くなりつつある夕焼けに視線を移して話す。
「私ね、来年から学園に通う事になったの」
「へぇ、そうなんや」
ユートも視線を消えかけの夕焼けに向けて答えた。だが、それはエミルの求めていた答えではない。
暫く新たな返答を期待して待ったが、返ってこない為、ジトッとした瞳を向けて問い掛ける。
「…それだけ?」
「うん。まぁ、そうやな。今の俺には縁のない所やしな」
ユートはヘラヘラといつものように笑いながら何処か遠くを見つめて言った。
憂い表情で夕焼けを見つめるユートの姿は、笑っているのにも関わらず、なぜか寂し気に見えた。
「……バカ」
そう小さく呟いた。それはユートの耳を持ってすれば簡単に聴き取れたのだが、何も反応せず、どこか遠い、エミルの想像もつかない場所を想い、暗くなるまで見つめ続けた。
エミル「ユートって色んな事が出来るよね」
ユート「無駄に知識だけはあるからな」
エミル「でも、知識だけだとあんな事できないと思うよ」
ユート「あんな事?」
エミル「ほら、壁作り直したりとか、車?とか作ったり、家作ったり、それに、すっごく美味しい料理も食べさしてくれたでしょ?」
ユート「まぁ、俺、多趣味やからな。中途半端で終わってるのも有るけど、体動かす事なら殆ど出来るで」
エミル「す、すごいね…」
ユート「褒め言葉として受け取っとくわ」
エミル「でも、どこでそんなにも知識を手に入れたの?」
ユート「それは…」
エミル「それは?」
ユート「ひ・み・つ」
エミル「えぇー」




