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遺跡散策


彼の名はユート。

しかし、今はイクスと偽名を名乗っている。


そんな彼は、光も届かぬ湖ーー遺跡の底へ潜水し続けていた。


普通ならば、ある程度進んだ所で息が続かなくなる。

それがなくとも、暗闇の所為で進めなくなる。


しかし、彼には関係のない事。


彼の身体は半分が機械である。

右腕内にある、普段は動いた際に発せられる熱を貯めておく高圧縮タンクをエアタンクとして利用して息を繋ぐ。


眼帯のように巻いていた包帯を取り、右眼の代わりとして入れた魔石ーー擬似魔眼を使用して暗闇を見通し、深く深く潜って行く。


彼の身体は半分が機械である。

だが、言葉を返せば、半分は人間である。


ある程度潜った所で身体が水圧に耐えきれなくなってきて悲鳴を上げ始めたが、彼は痛みを全くと言っていい程に感じない。


しかし、彼は身体が軋み、限界を伝えている事を音で知った。

そして、彼が行ったのはーー。


魔法陣を体に刻む、であった。


前まで使っていた体の一部であった機械の脚。そこに応急として使用していたミーシャの短剣。それを使用して、左腕に魔法陣を切り刻む。


腕から大量の血が水に流れて行くのが感じ取れるが、彼は全く気にしない。


出来上がった魔法陣を右手で押さえつけ、右手内の魔石を利用して魔法陣を発動させる。

刹那、彼の身体の周囲が淡い緑色に包まれた。


イクスが使用した魔法陣。それは、風の魔術である。身体の周囲に薄い空気の膜を作り出して、水圧から逃れたのだ。

ついでに、追加で書き足した魔法陣の効果により、出血も止まった。


そうする事で、彼はより深くへと進む事が可能となり、暗闇に怯む事なく、永遠にも思える深い穴の底へと潜り続ける。



〜〜〜



遺跡内に入ってから、約一時間。

そろそろエアタンクのエアも切れかけてきた頃に、ようやくソレは見えた。


水が放出される巨大なパイプ。の隣にある固く閉ざされた鋼鉄の扉だ。

水の中にあると言うのにも関わらず、壁同様に錆一つない、今尚、綺麗なままを保った両開きの扉があった。


イクスは、その扉へと近付いて力一杯押して開けようとする。が、さすがは鉄の扉と言ったものか。それとも、水圧の所為か。

扉は微動だにしない。


押しても、引いても、全く動く気配はない。


しかし、それは彼には想定済みの出来事である。

左手を出して、再度。手のひらにミーシャの短剣を使用して魔法陣を彫り描く。


そして、出来上がった魔法陣を扉に接触させる。

刹那。扉が勢いよく開かれ、流れ出す水と共にイクスも扉の奥へと流された。


彼が扉を潜った瞬間、扉は勢い良く閉まった。

同時に、水の排出が止まる。


水に流されていたイクスは、流されるがままの状態でガタガタとした網目状の床に不時着した。

どうやら、先程の水は全て網目状の床に排水される仕組みのようだ。


それは、まるで、彼には馴染み深い溝蓋(グレーチング)のようであった。

しかし、彼は全く興味を示さない。


なぜなら、その仕組みを彼は知っているから。

いや、少し語弊がある。

この遺跡の仕組みを彼は知っているのだ。


「あそこで見たのと変わらんな」


迷宮の途中にあった古代遺跡ーー”忘却の遺跡”。

それは、この世界に存在する全ての遺跡が押し込められたような曖昧な所であった。

その場に居ると、まるで、自分までもが曖昧な存在となっているような気がしてくる。

そんな場所であった。


だが、ここは、イクスの知っている忘却の遺跡とは少し違う。


生気を吸い取られる事もなければ、意識が混濁する事もない。

錆とか崩れた様子はなく、全てが古くて所々に白骨化した魔物の死骸がある。


忘却の遺跡には、魔物が居て当たり前。罠が作動して当たり前。古代人の造ったロボットが居て当たり前だった。


それらを考慮すると、この遺跡の難易度は彼にとってかなり低い。


イクスは、その辺に落ちている魔物の死骸の一部や、機械部品の一部などを拾い集めながら遺跡の先へと進み続ける。



ーーー



それは、決して関わってはいけない存在。

真っ黒な仮面を着けた化物。

魔物なんかよりも真っ赤な目をギラつかせ、目に入る物全てを跡形もなく破壊し尽くす死神なんかよりも末恐ろしい存在。

それを総じて(・・・)、こう呼ばれる。


ーー”デッド”。


どこからともなく風の噂で流れてきた話だ。

いつ聴いたかも、知ったかも覚えていない。


しかし、その噂は本当だと、少年はその目で確かめた。


「本当だって!黒い仮面を着けたドラゴンがこの街に向かって来てるんだって!信じてくれよっ!」


しかし、そんな話、誰も信用するはずがない。

いや、もし本当だとしても、信じたくもないだろう。


なにせ、その化物は、今しがた彼等のいる街のすぐ側にーー。


『キィィィィイィィィィッ!!!』


耳を劈く音。いや、声が街全体に響き渡る。

民達は余りにも大きく不快な声量に耳を塞ぎ、苦痛に顔を歪める。


しかし、それは悪手だった。


その存在を教えようとしていた少年のように、全てを投げ捨ててでも逃げていれば良かったのだ。


なにせ、ソレを視界に入れた者は、身体のカケラを一切残さずに綺麗に消し飛ばされたのだから。


壁などないかのように、ただ真っ直ぐに突き進む歪な存在。

人とドラゴンが変に掛け合わされたような姿形。所々肉がなく、そこから覗く体内には内臓もなく、あるのは常に回り続ける歯車だけ。


その姿を見て、生きて帰れる者はいない。


しかし、なぜか噂だけが広まり続ける。それも、なぜか正確な噂だけが広まる。


『深淵よりも深い仮面。

魔物よりも真っ赤な瞳。


関わるべからず。

近寄るべからず。

見るべからず。


ソレは、魔物ではない。

人でもない。

生物でもない。


ただの災害だ。


ソレは破壊と虐殺の使徒なり。


DEAD(デッド) OR(オア) ESCAPE(エスケープ)


死にたくなければ、逃げるがいい。

ソレの視界に入らぬ所へ』


【ガレージ】の最奥から解き放たれた彼等は、一週間の内に人間の街を二つ。獣人の村を一つ。魔族の街を四つ。跡形もなく消滅させた。



ーーー



「遅い…」


イクスが湖に飛び込んでから三十分が経った。

しかし、未だに彼は戻って来ない。


大トカゲは起きて早々に湖の周りを走り回り、二匹で戯れあっている。


「遅すぎる…」


「(まさか、溺れ死んでいるのではないか?)」

と、疑える程に遅い。


だが、彼女の勘が『アイツはそう簡単に死ぬ存在ではない』と訴えかけているのだ。


その勘に従い、彼女は思う。


「(もう少し待ってやろう)」



〜〜〜



一時間が経過した。

しかし、未だに彼は戻らない。


大トカゲは遊び疲れて、再度寝てしまった。


「(幾らなんでも遅すぎるだろ…)」


そう思いながら、湖の水面を眺め続ける。


若干、初めに見た時よりも水面が高くなっているような気もするが、ミーシャは気付いていない。


「(一体、いつまで待たせる気だ)」


中々戻ってこないイクスに苛立ちを覚えながらも水面を眺めていると、湖に変化が起きた。


突然、僅かだが、水面が勢いよく下がったのだ。


「イクスか…」


疑うまでもなく、それを行なった人物を言い当てたミーシャ。


イクスがどんな力を持っているかは定かではないが、この湖に入った者はイクスだけである。

それに、そんな事を笑いながら可能にできる人物は、彼しか思い付かない。


「一体、何をしてるのだ…」



〜〜〜



三時間が経った。

待ちに待ち続けたミーシャは、待ち疲れたのか、大トカゲと一緒に寝ていた。


そんな時、何かに勘付いた大トカゲが頭を持ち上げて辺りを見渡し始めた。


枕にしていた大トカゲが動いた所為で、大トカゲの背中から落っこちたミーシャ。

眠気眼を擦りながら何か起きたのかと思って辺りを見渡す。


そして、大トカゲの背から落ちたのだと気が付いた。


もう一度、大トカゲの背で寝ようと手を伸ばした刹那ーー大トカゲが猛スピードで駆け出した。


そして、湖にダイブ。


水飛沫が上がる。と、同時に、大地震が起きた。

とは言え、辺りは砂漠だ。崩れる物など何もありはしない。

砂漠の砂が激しく揺れ、湖の水が揺れながら飛び散るぐらいだ。


立ち上がる事はできずとも、地震が止むのを大人しく待っていれば良いだけだ。そう思った。


しかし、それは間違いだったと気が付かされた。


突如、砂漠にポッカリと大穴が空いたのだ。それも、一つだけではない。あちこちに沢山空いたのだ。


まるで蟻地獄のように周囲の砂を吸い取って行く多数の穴。馬車もミーシャも吞み込もうと迫い来る。


それを跳んで避けて、ミーシャも湖へと着水した。そして、溺れた。


「だ、だすげ、でっ!」


彼女は泳げないのだ。

必死に周囲に手を回し、ようやく何かに掴まる事が出来て一安心。


掴んだ物に目を向けると、それは大トカゲだった。


プカーンッと彼女の苦難も意に介せず、顔だけを水から出して優雅に浮いている。


「た、助かった…。危うく死ぬところだった…感謝するぞ」


大トカゲの背に跨って、トントンッと感謝の念を込めて背を叩き、空へと視線を向けて恨みがましく呟く。


「イクスめ…一体、何をしてるのだ…」



〜〜〜



夜になった。

地震は既に止んでおり、砂漠の穴も消えた。


しかし、未だにイクスは戻ってない。


「すまぬな。”ラキカ”、”ラクカ”。砂漠に馬車が呑まれた所為で飯がないんだ。恨むのならイクスを恨め」


ミーシャは両隣に寝転がる大トカゲの背を撫でながら謝罪を口にする。


どうやら、彼女は大トカゲに名前をつけたようだ。


「ったく。いつになったら戻って来るんだ…」


視線を背後に移せば、そこには神秘的とも言える程に美しく輝いた湖がある。

空に浮かぶ星々が反射して煌めいているのだ。


「はぁ…。我をここまで待たせるのだ。もし、死んでしまっていたら許さんぞ。ゾンビにしてでも説教してやる…」


溜息を吐きながらも、そこはかとなくイクスを心配するミーシャ。

彼女は根は優しい子なのだ。


湖で顔を洗い、空腹の腹を水で満たして、大トカゲの”ラキカ”と”ラクカ”と共に眠りについた。



〜〜〜



翌日。


ーーードンッ。


と言う何かが破裂したかのような鈍い音と共にミーシャは跳び起きた。


突然な事に驚きを隠せず、寝起きにも関わらずバクバクと脈打つ心臓の鼓動を感じながら視線を周囲へと巡らす。


先に視界に入ったのは湖だ。そこには、ラキカとラクカが怯えるような瞳でミーシャの方を見ていた。


いや、ミーシャではない。ミーシャのその奥を見ていた。


ゆっくりと視線を背後へと移すと、そこには二本足で立つ怪物がーー。


「お待たせ。って、またかいな…。そんな怖がらんといてぇな。ホンマに悲しくなるわ…」


イクスであった。


どこから出てきたのかと言う疑問が残るものの、彼が帰ってきた。


しかし、右眼の真っ赤な瞳や、不自然なくらいに大きくなった右腕を目の当たりにすると、否応なく恐怖を覚えてしまう。


「き、貴様、その腕は…どうした…?」


「腕?…あぁ、これか」


自分の身長程の大きさもある腕を見て、独りでに納得したイクス。


「ちょい待ちよ」


そう言って右腕を重たそうに持ち上げると、ガチャカシャと音を立てて巨大化した右腕が折り畳まれ始めた。


そして、時を待たずして彼の腕は元の大きさへと戻った。


「ほな、行こか」


ニッコリと笑ってミーシャに手を差し伸べるイクス。

彼は一体、どこへ向かうのか知っているのだろうか。

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