第一九三話 Result Final B
(=ↀωↀ=)<SP3は2月28日発売予定
(=ↀωↀ=)<ほぼ書き下ろしなのでよろしくお願いします
□日本国・東京都内マンション
ベヘモットとの戦いの後、シュウ……椋鳥修一は自室のベッドで身を起こした。
「…………」
黙したまま、自分の戦いを振り返る。
改めて思うのは、『やりすぎたか』という一事だ。
自らの望む可能性を掴むために手を尽くすのが椋鳥修一という男であるが、今回仕組んだ策はかなりのグレーゾーンだったのは彼も自覚している。
段取りにはアルティミアも巻き込んでいたが、それとて彼女に伏した情報や思惑も多いので騙くらかしたようなものだ。
(ミリオタとの一戦でリエラを盾にしたときよりも悪いか)
一応は全て明かした上で本人の了承を取っていたあのときとは違う。
また、今回はベヘモットの動き次第ではティアンが死んでいた。
ベヘモットはそうしないだろうと性格を読み切って決行した策ではあるものの、人の考えなど短期間で変わることもある。
そうしたリスクを知りながら、ベヘモットに勝つという目的のために今回の策に踏み切ったのは彼だ。
望む可能性を掴むために、手段を選ばない。
倫理もリスクも度外視して、不可能にも思える目的の達成手段を構築してしまう。
感情より先に可否の計算がある。
椋鳥修一は自分のこの性質を『強さ』とも『悪さ』とも認識している。
少なくとも、彼を見て育った弟が持つ性質とは似て非なるもの。弟は彼よりも欲張りだし、善良だ。
そして誰の何を見て自分がこれに至ったのか、修一自身も把握していない。
姉? あれは一つしかない手段であらゆる問題をぶち抜くので全く別系統である。
「ふぅ……」
振り返れば、今回の一連の行動において自らの感情的に『良し』と判断できるのは、ベヘモットに顔を晒したことくらいだろう。
あれは勝敗とは無縁の、彼自身の心による行動だ。
「……さてと」
【γ】の反動でデスペナルティが明けるのは十日後。内部時間では一ヶ月後だ。
その間、デンドロで何があろうと彼は干渉できない。
色々な情報や連絡がメールで伝わってはくるものの、それは暫くは修一と無縁のこと。
ゆえに修一は少し考えた後、ネットでとある情報を検索する。
探すと、その場所の情報はすぐに見つかった。
「ま、当分はやることもない。行くか」
そう言って立ち上がった彼の端末には、手配したばかりの航空チケットが表示されていた。
◇◆◇
□■合衆国・西海岸某所
ベヘモット……エリザベス・ウォーカーはずっと自室のベッドに伏していた。
シュウに敗れてリアルに戻ってから、かれこれ二〇時間近くこうしている。
夕食を摂るような時間に目覚めてから、翌日の昼食を摂る時間を過ぎてもこうしている。
その間やったことと言えば、端末でデンドロの状況を調べたことくらいだ。
トライ・フラッグスは内部での一大事件であったために、関わる顛末は多くのゲームメディアが取り上げている。
その中には、皇国が負けて、皇王が死んだことを告げるものも複数あった。
けれど、皇妹……クラウディアが無事であることも書かれている。
そのことについて、エリザベスは『ラインハルトを今死んだことにしたか、あるいはロードマップで寿命が尽きた後に何らかの保険で生きながらえた』と考えた。
彼女の親友は、大事なことをギリギリまで言わずに自分だけで抱え込む。【邪神】関連の情報もそうだった。
ただ、それも確実じゃない。
本当は既に死んでいて、クラウディアが無事というニュースが誤報か欺瞞であることもありうる。
そうなれば、もうあちらに行っても親友とは再会できない。
残るのは、戦いに敗れ、親友の最期の望みを叶えられなかった自分だけだ。
それが怖くて、デスペナルティが明ける時間が迫っても動けずにいる。
あるいは、信頼できる相手から確かな情報を得ればいいという考えもある。
だが、彼女がリアルで連絡を取り合うような仲間はほとんどいない。
彼女と同じくクラウディアラインハルトの友であるジュバですら、リアルの彼女の連絡先を知らない。
唯一、VRチャットで連絡を取っていたのがフランクリンとローガンだ。
しかし、結局ベヘモットは二人を信じられなかった。
きっと今も信じられていない。
自分同様に、フラッグを守れなかったこともあるだろうが……。
「…………」
結果として、何も能動的に動けないまま、ベヘモットは時を過ごしている。
このままデスペナルティが明けたとき、ログインする勇気があるのかどうかも……彼女には分からない。
纏まらず、彷徨う思考。
その中で時折、クラウディア以外のことも脳裏に浮かぶ。
それは、デスペナルティになる直前に見た、シュウの素顔。
父と同じ役を演じた子役、シューイチ・ムクドリの面影がある青年の顔。
無論、偶々似ただけと考えるのが自然だ。
けれど、シュウの「これが俺だ」という言葉と共に、その顔は彼女の脳裏に焼きついている。
それも含めて、彼女はベッドの上で思考を彷徨わせているのだ。
「……そうだ」
どちらにせよ、デスペナルティが明けるまで数時間あり、その間の彼女にできることはない。
なら、暫くはできていなかったことをしようと考え……彼女はシャワーを浴びてから外出のための服に着替えた。
◇◆◇
エリザベスの住む街の郊外に、その墓地はある。
広く清潔で、キチンと整備されている墓地だ。
個別に管理のための金銭は掛かるが、死者も遺族も安心して眠れる土地。
この墓地に、エリザベスの父は埋葬されている。
「…………」
途中で買った花束を携え、エリザベスは父の墓へと歩いていく。
人影はまばらで、人混みが嫌いなエリザベスにとってはありがたい。
「……?」
そうして歩いていくと、父の墓が見えてきたが……。
その墓の前に――誰かが立っている。
(珍しい)
かつて、人気俳優だった父の墓は多くのファンが献花に訪れていた。
人と会いたくないからエリザベス自身が墓参りすることを避けていたほどだ。
それでも時が経つにつれてその頻度も減り、最近では花が置かれているのを見ることも稀になった。
しかし今日は、墓の前に新しい花束が置かれ、その花を手向けたであろう人物が手を合わせている。
その仕草から、アジア圏の人間だろうと分かった。
父はヒーロー映画で活躍した俳優だったので、ファンは世界中にいる。
(……仕方ないね)
エリザベスは人と会うのを好まない。
そのため、他に人が来ているなら墓参りを止めて帰ろうかと考え……。
「……、……?」
しかし、ふと気づく。
墓の前に立つ人物の顔に、見覚えがあったのだ。
ほんの一日前に……向こうで見たばかりの顔。
それは……。
「……シュウ?」
「ん?」
エリザベスの方を向いた彼の顔は、彼女がデンドロで最期に見た顔と同じだった。
「……ああ、ベヘモットか。思ったより小さいな。ちゃんと食ってるか?」
問いかける声でエリザベスが誰か気づいたのか、シュウはそう述べた。
「何で……ここに……?」
「ここ、献花したいファンの間では有名だったからな。検索したらすぐに出たぞ」
携帯端末を見せながら、シュウは答える
「そうじゃ、なくて……」
「……ま、いつかこの国に来ることがあったら墓参りするつもりではあったんだよ。俺も無縁じゃないからな」
「……お父さんのこと、知ってたんだ」
「俺と同じ役を演じた人だからな」
そう言う修一の言葉には、過去への思いが微かに滲んでいた。
「で、お前とのことがあったし、しばらく時間も空いたからな。ちょっと飛んできた」
「……ふふ」
修一の言い方が、まるでヒーローみたいで、少しだけツボに入った。
「そっちはデスペナ明ける前に日課の墓参りってとこか?」
「日課ってほどじゃないよ……。今日は偶々……」
そう言って、父の墓を見る。
久方ぶりの父の墓には今、彼の供えた花がある。
まるで、父がエリザベスと彼を引き合わせてくれたようだった。
「今日は、気持ちの整理をつけたくて……来ただけ」
「そうか。ま、色々あったからな。戦争だの、果し合いだの、皇王が表向き死んだだの、またサイボーグ化しただの、な」
「……………………そう、だね」
不安視していた親友の安否が想定しないところから出てきたので、エリザベスはそう言葉を返すしかなかった。
なお、もちろんその情報は秘匿事項なのだが、ログインしたままだったルーク(とタルラー)が察し、リアルの方で修一や玲二に報告したのである。
結果として、エリザベスは求めていた答えが得られたし安堵もしたのに、心の中はより混乱することとなった。ジュバとお揃いである。
「……ふふ」
ともあれ、良かったとは言える。
だから、この混乱も一旦棚上げして、目の前の相手に向かい合う。
向こうでは幾度も接し、殺し合い、こうして互いのリアルの素性までも知った相手。
そんな彼に、どんな言葉を交わすべきかを悩んでいると……。
「折角だ。墓参りが済んだら一緒に飯でも食いながら話すか」
修一の方から、あっさりとそう言ってきた。
「え?」
「デンドロ出てから機内食くらいしか食ってなくて腹減ったんだよ。ベヘモットは?」
問われて、エリザベスはお腹を押さえる。
「わたしも……お腹空いた、かな」
昨日の夜からなにも食べていない。
彼の前で腹の音が鳴らなくて良かったというところだ。
「そっか。なら、金は俺が出すからどこか良い店案内してくれ。ベヘモット」
「わたしもあまり詳しくないけど……知ってるお店はある、かな」
昔、父がまだ生きていた頃に家族でよく食べに行ったダイナーがある。
まだ経営しているかもエリザベスには分からないが……今日はそこで食べたいと思った。
「よし、じゃあ早速行こうぜ、ベヘモット」
「う、うん。……あ、でも、ちょっと待って」
「どうした?」
「ベヘモットって呼ばれ続けるのは、困るかも」
他の人が聞けば『何であの男は女の子を聖書の怪物の名前で呼んでいるのか?』となる。
悪目立ちにも程がある。
だから……。
「だから、その……ベティって呼んで」
今はもう、誰も呼ぶことがなくなっていたかつての愛称を、エリザベスは求めた。
「了解だ、ベティ」
「……うん」
そう呼ばれることに、エリザベス……ベティは少し恥ずかしそうにして、けれど嬉しそうに笑った。
◇◆
墓参りの後、一組の男女は墓地を後にした。
並んで歩く姿は、身長差のせいか……どこか親子のようで。
彼女が失った時間を再体験するような、そんな光景だった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<Resultだけど後回しにしたのは
(=ↀωↀ=)<クラウディアの生存情報をこの中に入れるかどうかで悩んで入れることにしたからです




