第一九二話 Result Final
(=ↀωↀ=)<今週は風邪で寝込んでたけど
(=ↀωↀ=)<何とか間に合った……
(=ↀωↀ=)<あと漫画版最新話も更新されてます
(σロ-ロ)<私が凄いことになってます
□椋鳥玲二
デスペナルティの宣告と共に、俺の意識はリアルに戻った。
斧の試練などでは数えるのもバカらしくなるほど死んでいたが、あちらの肉体アバターが死ぬのは久しぶりだ。
久しぶりな気がする自室には、外から春の暖かな日差しが差し込んでいる。
「……ああ、まだ朝なんだな」
あちらで三日間を戦ったというのに、リアルではまだ二時間程度しか経っていない。
デンドロの時間加速はとんでもないと、つくづく思う。
個人的な感覚としては、むしろ何年も経ったようにすら思えるのに。
「っと……」
端末を見るとクランや友人のみんなからメッセージが届いていた。
後で返信しなければならないだろう。
今は……先に確かめることがある。
どう切り出したものかと考えながら、俺は玄関のドアを開く。
「あ」
「あら」
俺がドアを開けたタイミングで、隣の部屋のドアも開いた。
思わずそこから出てきた人……フランチェスカさんと見つめ合う。
「「…………」」
俺達の間に奇妙な沈黙があった。
気のせいでなければ、何かを探るような視線すらも感じる。
「ムクドリ・サン。ちょっとお散歩、しませんか?」
数秒の間を置いて、彼女はそんなことを言ってきた。
「いいですよ」
その唐突な申し出に俺も応じた。
そうして俺達は並んで歩いていく。
その間、俺の中では『やっぱりか』という確信が生まれていた。
◇
マンションをエレベーターで降りた後、数分歩いて辿り着いたのはマンションの近くにある大きめの公園だ。
曜日感覚も忘れそうになっていたが今は日曜日の昼前、ゴールデンウィークの最終日だ。
そのためか、家族連れで来ている人や犬の散歩をしている人が多い。
フランチェスカさんは先にベンチに座り、俺に隣に座るように促す。
そうして……。
「――私の敗因は何だと思い、ます?」
前振りもなく、そう聞いてきた。
それを俺に聞きたくて、すぐに聞きたくて、誘ったのだと言うように。
「俺を完封することに熱心になりすぎて、俺を殺す手札が欠けていた。あとは、単純に他の<マスター>との連携不足。前のギデオンのときはもっと上手く仲間と他人を使ってた」
問われた俺もフランチェスカさん……フランクリンにそう返した。
「フフフ……」
俺の答えに驚くこともなく、フランクリンは笑っている。
それは《舞踏会》でのそれと似ているけれど、どこか違う様子だった。
「そちらは、いつ分かりましたか?」
「最後の戦いのときになんとなく。さっきのドア前の雰囲気で確信した」
物理的な証拠は何もない。
翻訳機能のないリアルだから、言葉遣いなんかも違っている。
けれど、最後の瞬間のフランクリンと眼前に立った彼女の雰囲気が、完全に重なっていた。
だから、なんとなくだ。
「私はこの前、お茶したとき。名前で気づいちゃい、ました」
「ああ……」
あのとき、何だか怒っている様子だったのは俺がレイだと気づいたからか。
扶桑先輩の時といい、やっぱりアバターのネームが安直すぎるのかな……。
「それで、敗因には納得したのか?」
「返す言葉もありません、ね。まぁ、私としては望む形に持っていった上で負けてしまったのです、けど」
「邪魔が入らないように舞台を整えて俺を負かす?」
「はい。だから……完敗、ですね」
彼女はそう言って、「ディランがロストしなかったことだけは良かった、ですね。パンデモニウムも墜落前だからそんなに壊れてない、でしょうし」とどこか穏やかな口調で続けた。
怨嗟も執着も、其処には見えない。
「悔しい、ですよ?」
しかし不意に、俺の心を読んだかのようにそう言った。
あるいは、訝しむ俺の視線からそう判断したのか。
「悔しいけれど、何でしょうね……見たかったものは……『もしも』は見れた……そんな気分なんです」
誰の、どんな『もしも』を見たかったのか。
それは、俺には分からない。
「結局、私と貴方は違い、ます。けれど、違うからこそ私では見えないものが見えたの、ですね」
「……人の人生を鏡扱いすんなよ」
「アナタは……、鏡になりませんよ。眩しすぎる不良品、です。その眩しさに、苛立って、そして……」
言葉の後半は、俺の耳には届かない。
きっと声にはならなくて、彼女の中だけに消えていくものだ。
「「…………」」
そうして、会話が途切れる。
公園で楽しげに遊ぶ子供や家族連れを見ながら、並んで座ったベンチで時間を過ごす。
「……俺からも聞いていいか?」
「どうぞ」
「何でアバターが男なんだ?」
俺が問うと、彼女は驚いたように少し目を見開き、それから吹き出した。
「そこ、そんなに気になること、ですか?」
「あっちとこっちで違いすぎて、お隣さんなのにさっきまで全く結びつかなかったからな」
最終決戦で彼女が素の自分を露呈していなければ、今も気づかないままだっただろう。
中身が女性というのは、前のギデオンの戦いでのユーゴーの言葉から何となく察してはいたが……そもそものキャラが違いすぎる。
「プライベートな話、ですけど……構いませんか?」
「そっちがいいなら」
「端的に言えば意趣返し、ですね」
「意趣返し?」
「女だから将来を狭められかけた、という部分もありますが……それ以上に母が良かれと思って、私を女優にしようとしていました、から」
そう言う彼女の容貌は、たしかにその道に在っても不思議ないものだ。
「だから、別の自分を演じるとしても女を演じるのは嫌だった。そんなところ、ですね」
「……そうか」
端的な説明の中に、隠しきれない確執が見えた。
なら、そこに踏み込むべきではないのだろう。
それを解決するにしても、しないにしても、当人同士でなければ意味がないことだ。
「私からもう一つ聞いてもいい、ですか?」
「ああ」
俺が頷くと、フランチェスカは俺の目を真っすぐ見ながら問いかけてくる。
「アナタ、どうして――私への敵意がないん、ですか?」
「?」
それは、変な質問だった。
◇◇◇
□フランチェスカ・ゴーティエ
「敵意?」
……ああ、やっぱり。
不思議そうな彼の顔を見て、私は一つの納得を得た。
やっぱり、推測通りだった。
「<超級殺し>や【女教皇】、【光王】みたいな前例はありました、けれど……」
彼を見続けた日々で知った、彼の歪さ。
それを、いま実感している。
「あの三人がどうしたんだ?」
「大した話ではない、ですよ。ところでムクドリ・サン。私がこれからナイフを持ってアナタやそこらの家族連れを襲い始めたら……どう、しますか?」
「――止めるに決まってんだろ」
ああ、やっと少し、敵意が向いたわ。
「フフ、冗談、ですよ。冗談」
「笑えねえのは冗談じゃねえよ……」
彼は「前に『地球でも同じことをやる』みたいなこと言ってたし……」とボヤいて。
そのときにはもう、僅かに立ち上がった彼の敵意は消えていた。
だから、『やっぱり』と思う。
彼にとって敵とは……現在だけなのね。
目の前で悲劇を生むもの、未来を阻む敵に対してしか、彼は敵意を抱けない。
過去に相手が自分に何をしていようと、現在が敵でないのなら受け入れてしまう。
自分自身の傷に頓着しない、あるいは目を向けていない。
復讐の<エンブリオ>を使いながら、自らの怨恨を動機に動かない。
ああ、そもそも……ネメシスは天罰や義憤の神であって、個人的感情の復讐とは本来違うものだったかしら。
「…………」
ただ、私は彼に限らず、彼の周囲やティアンに対しても被害を出した。
それについては、どう思っているのでしょうね。
「何だよ?」
「いいえ、何でも」
私を見る目と言葉遣いは、フランチェスカに対してのものではなく、フランクリンに対してのものだ。
けれどそこに、二度の直接対決ではあったはずの敵意が消えている。
清算されてしまったかのように、消えている。
私はもう、彼に敵とすら見られていない。
「……そう、何でも、ないんですよ」
リアルで私の誘いに乗ったのも、あるいは確認するためだったのかもしれない。
私が、私であるか。
私がまだ、彼にとっての敵であるか。
私がまだ、何かする心算ではないか。
それがなさそうだと悟った時点で、私はもう彼の敵から外れてしまった。
そのことに対して悔しいとも憎いとも思えない。
皮肉にも、私自身の中でも決着がついてしまっている。
勝つと宣言して、けれど負けて……。
不思議と、もうそのことが悔しくない。
今回こそは私自身のやれることを全てやった上での負けだったから。
唐突な裏切りじゃない。
不意の闇討ちじゃない。
戦力の不足じゃない。
慢心のツケじゃない。
自分で決めて、舞台を整えて、全力を打ち込んで、全霊で挑んだ。
リアルの彼をどうこうするという一番簡単な方法でなく、自分の望んだやり方で。
彼に勝つための試行錯誤に全てを賭した。
自由に生きて、自由に作って、自由に世界を楽しんだ。
その上での、敗北。
そんな敗北は人生で初めて。
けれど、不思議と悪い気分じゃない。
私自身の望みで私の人生が転落しようと、私はそれに納得できるもの。
全力を尽くしたからこそ、私の望んだ道が理不尽に阻まれたのではなく、私の望んだ道の先がこれだったのだと納得してしまった。
私は、彼に負けたことに、納得した。
負けたことは、悔しくも憎くもない。
けれど……もう敵とすら見られないことが寂しい。
「……あぁ」
私自身の納得と、彼の私を見る目が……私の中で繋がってしまった。
きっともう……彼の敵になる資格すら今の私にはないの。
レイ・スターリングの宿敵としてのMr.フランクリンは……完全敗北の末に死んだのね。
◇◇◇
□椋鳥玲二
言葉を交わした後、フランチェスカはなぜか少し寂しそうな顔をしていた。
さっきの話で、思うところが何かあったのだろうか?
「……この後、どうするんだ?」
そんな顔のフランチェスカの隣に黙って座り続けることもできず、そう尋ねた。
「リアルでは大学生活を続けます、よ。デンドロは……収監されるから半引退、ですね」
彼女は「クランのみんなには悪いですけど」と、少し寂しそうに笑った。
収監か。最後の戦いの前にもそんなことを言っていたな。
けど……。
「収監されなかったら?」
「ありえません、よ。国王殺害にギデオンのテロ、さらにパンデモニウム落としも追加。これで無罪放免にするほど、第一王女も愚かじゃない、でしょう?」
それは道理だ。
彼女がフランクリンとして王国に刻んだ傷はあまりにも大きい。
だけど……。
「だけど、講和会議のときにアズライトはお前と【魔将軍】の罪状をなくす取引を交わそうとしていたぞ」
けれど、王国は……アズライトはそれを呑み下そうとしていた。
あのときのアズライトは、国のために父の仇を許す決断をしようとしていた。
講和会議でそれを阻んだのは俺の気づきであったし、彼女以外の遺族が如何なる感情を向けるかも計り知ることはできない。
それでも、余地はあった。
「それにその時から今まで……今回の戦争でもお前はティアンを一人も殺してない」
怨念動力も、パンデモニウム落としも、ティアンは誰も死なずに終わった。
それは、ルークからのメッセージで伝えられている。
「……殺せなかったん、ですよ。誰かさんの、せいで」
彼女はそう言って、俺を見ながら苦笑した。
「兎に角、指名手配されず、収監もされなかったらどうする気だよ」
「され、ますよ。何でアナタの方がそんなにムキになってるん、ですか?」
何でもクソもあるか。
「俺が言いたいのはな、次やるときに他人とティアンを巻き込むなってことだよ」
俺がそう言うと、フランチェスカは理解できないという顔で俺を見つめ返した。
「…………次?」
「いや、何を不思議そうな顔してんだよ」
俺としては当然の要求しかしてないぞ。
「お前、これからも俺にあれこれちょっかい掛けてくるんだろうが。だったら、せめて無関係なところに迷惑は掛けんなよ。戦争終わってこれからは王国と皇国も仲間みたいになるんだし……」
何と言うかこう……女化生先輩してるときの扶桑先輩くらいの迷惑度に収まってくれないかなと切に祈る。
それでも大概だが。
「……アナタ、私がまたアナタに挑むと?」
「その気なんだろ? あんなにアップデートしまくれるモンスター用意してんだし……お前の執念深さは俺が一番知ってるんだよ」
次は何をされるのか。
……斧を封じる方向でなく結界内の反動ダメージ増大とかやってきそうだなぁ。
対策以外にやってきそうな嫌がらせでも胃が痛くなる。
ケモミミ第二弾とかしてきそうだなぁ。メガネと女装セットで。
…………やっぱり収監された方がいいんじゃないか?
でも、有能だから陣営的には同じ方が……これ女化生先輩とか【光王】枠だな。さっきの発言そういうことか?
「…………ねぇ、ムクドリ・サン」
「何だよ」
「私は、アナタの敵ですか?」
「フランクリンはレイのライバルだろうが」
今さら何言ってんだコイツ。
「……フフッ、アハハ、アハハハハハハハハハッ!!」
俺の返答の何が可笑しかったのか、彼女は口を開けて大笑いしていた。
あんまりにも大きく笑うものだから、周囲の人達も何だ何だと視線を向けてくる。
「おい」
「フフフ、ごめんなさい。そうですね、そうですよね。敵意があろうがなかろうが、それはきっと、ずっと、変わりません、ね」
笑い過ぎたのか目の端に涙を浮かべながら、フランチェスカはそう言った。
その表情から、さっきまでの寂しげな空気は消えている。
「あー、何だか、色々話してスッキリ、しました」
「そうかよ。俺は逆に意味不明でモヤモヤしてるが」
「じゃあ精々、モヤモヤしていて、ください」
「おい」
「分かって、ます。もしも収監されなかったら、次は、関係ない人に、迷惑は掛けません。……本拠地爆破くらいはするかもしれません、けど」
「あそこ借家だから伯爵に迷惑掛かるわ!?」
ていうか本拠地狙うのやめろよ!?
前も大変だったんだぞ!?
「冗談ですよ、冗談」
「だから笑えねえって……」
リアルとアバターで容姿も言葉遣いも違うのにさっきからフランクリンが重なるわ。
やっぱり中の人だコイツ。
「そうだ、ムクドリ・サン」
「今度は何だよ」
「シチュー、美味しかったですか?」
「美味かったよ。鍋は後で洗って返す」
アレはマジで美味かった。
フランクリン手製と思うといつぞやの薬を連想するが、特に何もなかったし。
……ん? あのときにはもう俺がレイだと気づいていたのに何で差し入れしたんだ?
「そう、良かった。今夜、何か食べたいもの、ありますか?」
「……ここまでの会話の後にリクエスト聞くのか」
「それはそれ、これはこれ、です」
まぁ……前も俺の正体知ってて何も入れてなかったし今回もないか。
「スパゲッティ・ミートソース」
「……お裾分けに向かないメニュー、選びますね。まぁ、いいでしょう」
そう言って、彼女はベンチから立ち上がる。
「じゃあ、お話はここまで。私はこれから買い物に行きます」
「そうかい。手伝うか?」
「遠慮、します。今は、独りで色々と、噛みしめたい、ので」
「ん? そうか?」
「ええ。だから、――また」
「ああ、――また」
そうして、フランチェスカは公園を後にした。
その背中を見送りながら、俺はふと思った。
最後の戦いと意気込んで、全力でぶつかった相手だけれど。
結局、アイツとの腐れ縁はまだまだ続くんだろうな、と。
そんな未来に、複雑な感情を込めて息を吐いた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<色々な納得の末に完全に燃え尽きかけてた
(=ↀωↀ=)<そんな心に燃料注いで複数箇所同時着火した奴がいるらしいですよ




