第五章 少年期・学園生活編:フェイトの才能
<Side:フェイト>
昼からの授業もあり…
アルトたちは一旦、解散した。
その後、アルトとフェイトは…
同じ授業を取り…
並んで、授業を受けていた。
「さっき、ふと思いついたんだけどさ…」
アルトは隣に座るフェイトに…
小声で話しかける。
「うん。」
「魔導具を使うってのはどうかな?…
魔導具なら、すぐ魔術を発動できるし…
合図としても使えて、護身用とかにも使えるかなぁ…って、思うんだけど…」
魔導具…
それは刻み込まれた魔法陣によって、様々な魔術的効果を発揮する道具の総称。
詠唱と対をなす、魔術の発動方法である…刻印魔術。
その代表的な例の一つである。
「たしかに魔導具なら…
すぐには発動できるだろうけど…」
「けど?…」
アルトの言うように、魔導具は魔法陣全体に魔力が行き渡りさえすれば…
魔術が発動するので、
魔術の発動速度だけで言えば…かなり優れてはいる。
しかし、魔導具には…いくつかの大きな欠点が存在する。
まず、一つ目の欠点が…
刻まれた魔法陣によって、効果の決まる魔導具は…
一つにつき、一つの魔術しか発揮できないこと。
次に、二つ目の欠点が…
上記の理由により、何種類もの魔術を使用するとなると…
いくつもの魔導具を携行することになるため、
嵩張り…取り回しが悪いこと。
最後に、三つ目の欠点が…
一度、使用すると…
しばらくの間、魔法陣が焼き切れ…連続しての使用が出来ないこと。
フェイトがそれらの欠点を挙げると…
「あ…いや、たしかにそっか…」
アルトは頷き…
少し、ガッカリしたような顔をした。
そもそも、魔導具というのは…
かつて、とある魔術士が…
魔術を扱えない者も含め、
全ての者が魔術の恩恵を享受できるように…
という理念のもとに生み出したもの。
詠唱による魔術発動が可能な魔術士にとって、
魔導具は…嵩張り、利便性が悪いだけのものでしかない。
「で、でも…嵩張るっていう部分に関しては…
コンパクトで持ち運びのしやすいサイズの…
それこそ、指輪とかにしたら…なんとかなるんじゃない?」
アルトは苦し紛れに…そんなことを口にする。
「いくらなんでも…それは無茶だって。
初級魔術でも…魔法陣は手の平より大きいんだよ?
指輪なんて、小さなものには…魔法陣は刻めない。
最低限、魔法陣を刻めるくらいの大きさは必要だよ。」
至極当然、何を当たり前のことを…と、言わんばかりに…
フェイトは返すが…
「?…魔法陣は圧縮して、小さくすればいいんじゃないの?」
「魔法陣を圧縮?…
何を言って…」
フェイトはそこまで口にし…悟った。
「もしかして…出来るの?」
「?…うん。」
「はぁ…」
魔法陣を圧縮するなんて…
見たことも聞いたこともない。
それを平気で出来ると宣う…
相変わらず、常識外れな友人に…フェイトは呆れていた。
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一時間後、授業を終えたアルトたちは…
次に取る予定だった授業をキャンセルし、
とある施設・設備の利用申請をした。
アルトたちが申請した施設・設備…
それは芸術科に併設された工房…
そこにある魔導具作りの道具一式である。
アルトたちは圧縮した魔法陣を用いた魔導具を…
試しに作ってみることにしたのだ。
魔導具作りは…
物体に魔法陣を彫り、魔力の溶け込んだ刻印魔術用の特殊なインク…
『魔術塗料』を刻みこむことで行われる。
だが、それは…
必ずしも、魔術士にしか出来ないというわけではない。
むしろ、始まりこそ…魔術士によるものであったが…
今では、ほとんどが…魔術を扱えない工芸職人の手によって、行われている。
そのため、魔導具作りの授業に関しては…
魔術科と芸術科…複数の学科の講師が協力して行われるという…
なんとも、奇妙なことになっているのだが…
今はそのことはいいだろう。
「さて…とりあえず、やってみようか。」
購買部で…
まあまあな値段のする『魔術塗料』と無骨な安物の金属製のリングを用意し…
アルトたちはさっそく、魔導具作りに取り掛かる。
二人は…何度か、魔導具作りの授業を取っており…
その作り方は心得ていた。
圧縮した魔法陣(安全を考慮し…一旦、初級水魔術にした)を羊皮紙へと書き写し…
それを見本にして、魔法陣を刻もうとする。
だが…
「無理!…
こんな小さいもんにどうやったら、魔法陣なんか刻めんだよ!?
言い出した奴…絶対、馬鹿だろ!?」
「言い出したのは…アルトなんだけどね…」
手に持っていた指輪を放り出し、
アルトはお手上げだ…と、言わんばかりに天を仰ぐ。
魔法陣をどれだけ圧縮し、小さくしようとも…
それを指輪のような小さな物体に刻み込むのは…
当然、至難の業だった。
「でも、あんなに器用に魔術を使うのに…
アルトって…案外、手先の方は不器用なんだね。」
「いや…フェイトもやったなら、わかるだろ!?
こんなの絶対、出来るわけな…!?…」
いくら、アルトが魔力操作に長けていようと…
手先の器用さとはイコールではない。
少しばかり、ムッ…としたアルトは言い返そうとし…
思わず、絶句した。
「たしかに…細かくて、ちょっと難しくはあったけど…
絶対、無理ってほどではなかったかな。
魔力を操作するよりは…よっぽど、直感的に出来たし…」
フェイトの掌の上に載っている指輪…
そこには小さな魔法陣が刻まれていた。
「マ、マジ?…」
「まあ、ちゃんと魔術が発動するかどうかは…
試してみないとわからないけどね。」
フェイトはかなり手先が器用であり…
秘めらた魔導具作りの才能が開花していた。
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今度は二人だけではあったが…
アルトたちは再び、演習場を訪れ…
「わ!…ホントに発動した…」
「お、ちゃんと発動するみたいだね…」
作成した魔導具の指輪に…
実際に魔力を流してみたところ…しっかり、魔術は発動した。
「でも、ちょっと待って?…これ、ホントに初級魔術?…
まるで、攻撃魔術みたいな勢いだったんだけど…」
フェイトは発動した魔術の…
あまりの勢いに…そう、呟く。
「一応、初級魔術ではあるよ。
勢いが凄かったのは…
圧縮したことで…密度が上がり、結果的に出力も上がってたからだね。」
「そうなの!?…
じゃあ、どんな魔術でも圧縮すればいいんじゃ…」
圧縮すると、出力が上がるのであれば…
全ての魔術を圧縮すればいいのでは?…と、フェイトは感じたのだが…
「うーん、あんまり圧縮し過ぎると…
暴発したりするリスクが…って、どうしたの?」
「いや!…そんな危険なもの作らせないでよ!」
フェイトは魔導具から慌てて距離を取り…
暴発のリスクについて、一言も説明しなかったアルトに…
恨みがましい視線を向ける。
「この程度なら…まだ全然、大丈夫だって。
別に暴発なんてしないよ。」
「だとしても…」
平然と言うアルトに…
フェイトは言い募ろうとするが…
「もし、仮に暴発しても…所詮は初級魔術だし、
威力はたかが知れてるよ。」
「え?…
もしかして…暴発させたことあるの?」
アルトのその言葉に…
思わず、尋ねる。
「ん?…あるよ?…
まあ、あの時は圧縮の限界を調べる目的で…
意図して、暴発させてたから…
暴発という表現が正しいのかはわかんないけど…
実際に使うにはちゃんとそのへんも調べておく必要があったから…って、フェイト?」
「はぁ…」
ここ数日で…
もう何度、零したかも覚えていない溜め息を…
フェイトは零す。
「(単に…アルトは魔術の技量が高いだけじゃない。
魔術の意図的な暴発なんて…
普通、そんなこと…
出来たとしても、やろうとも思わない。)」
実現が可能なこととそれを実際に行うことは…
必ずしも、イコールではない。
「(アルトの強みは…
誰も思いつかないような…突飛な発想が思いつく発想力。
思いついたとして…それを実際に行動に移す行動力。
そして、一番は…その、留まることを知らない飽くなき探究心。)」
フェイトはアルトの強さの秘訣…
その片鱗を垣間見た。
「(でも、だからこそかな…
そんなアルトとなら…
もっと、凄いことが出来そうな気がしてくる…)」
フェイトは広がる可能性に…
胸を高鳴らせていた。
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<Side:アルト>
「まだ試作段階だけど…
とりあえず、この魔導具に名前を付けたいんだけど…どうかな?」
「うーん…名付けをするのは賛成だけど…
僕はあんまり、ネーミングセンスがある方じゃないからなぁ…」
フェイトの提案に賛同はしつつも、
自身のネーミングセンスにそれほど自信がなく…
アルトは少々、名付けに後ろ向きだった。
「じゃあ、グレア…ちゃん?…に付けてもらう?」
「いや、なんで…もっとセンスないやつに名付けさせようとするんだよ!?」
アルトはその提案を…食い気味に否定する。
「僕はグレア…ちゃん?…のネーミングセンスは知らないし…
なんか、名付けたがってたっぽいから…
丁度いいかなって思ってたんだけど…」
「少なくとも、グレアに任せるくらいなら…
僕は自分で決めるかな。」
「そ、そんなにヒドイんだ…」
哀れ、グレア。
その場にいなくとも…
散々な言われようである。
「じゃあ、どうしよう?…
僕も特にいいのは思いつかないんだけど…」
「うーん、そうだね…」
アルトは…しばらく、考え込む。
「(魔術…指輪…)」
アルトの脳内では連想ゲームが行われ…
ふと、とある名が思いついた。
「『ソロモンの指輪』とか…どう?」
「『ソロモンの指輪』?…
響きはいいけど…
でも、ソロモンってなんだい?…」
「あー…ええと、物語に出てくる…
偉大な魔術士の名前だよ。」
フェイトに尋ねられ…
アルトは咄嗟にそう返す。
「なるほど、良いね。
それにしよう…
というか、アルト…
ネーミングセンスないとか言ったわりに…全然、あるじゃないか。」
「あはは…」
フェイトはそう褒めるが…
アルトは苦笑する。
ソロモン。
それは…前世において、有名だった魔術士の名の一つ。
アルトとしては、ただ前世の有名な人物に準えただけでしかなく…
褒められるのは…少々、複雑な気分だった。
「ちゃんと発動すことは確認できたし…
次は他のも作ってみたいね…
アルト、どれくらいで暴発するのかはわからないけど…
暴発しない程度に圧縮した魔法陣は…
いくつか、用意出来るかい?」
「え?…あ、ああ…用意出来るよ!
じゃあ、とりあえず…工房に戻ろうか!」
フェイトの問いかけに…
アルトはそう答える。
アルトたちが作り出した…
指輪型魔導具『ソロモンの指輪』。
まだ試作段階ではあったものの…
後に、それは…世界で最も小型化に成功した魔導具と呼ばれることとなる。
因みに、魔導具は魔石を嵌める構造を作らなくていいので…
魔力を流すタイプの方が相対的に値段は安いです。




