第五章 少年期・学園生活編:魔術指南
<Side:アルト>
食事を終えたアルトたちは場所を変え、
その姿は…学園内にある演習場の一つにあった。
演習場は武術や魔術での鍛錬を目的とし、
耐衝撃用の結界などの設備を備えた訓練用施設である。
主には実戦形式の授業などで利用されるが、
演習場に限らず、学園内の施設・設備は基本的に申請さえすれば…
学園関係者であるなら、誰でも利用することが出来る。
「空いててよかったわね!
待たずに入れてラッキーだわ!」
「あはは、そうだね…」
グレアのそんな言葉に…
アルトは頷く。
混雑具合などによっては…
待ち時間が発生することもしばしばあるのだが、
今の時間帯は空いていたらしく…
今回は…比較的、すんなりと利用することが出来ていた。
「でも、なんでこんなに空いてるんだ?…」
「多分、時間帯の問題とかなんじゃないかな?…
おそらく…ほとんどの人は今頃、お昼時だろうし。」
ディエスの零した疑問に…
フィリアはそう返す。
先ほどまでのアルトたちのように…
多くの者は昼食を摂っている時間帯であり、
演習場を利用する者は疎らだった。
だが、なぜ…アルトたちがそんな場所にいるのか。
それは…言わずもがな、フェイトにアルトの自作魔術を教えるためである。
「(やっぱり、百聞は一見に如かず…って言うもんね。)」
アルトはかつて、フィリアに魔術を教えていた時にもそうしていたように…
口頭だけで教えるよりも実際に手本を見せつつ教えた方が良いだろう。…と、考え…
そうするのに適した場所へと移ったのだ。
「じゃあ、フェイト…
とりあえず、見てて。」
「あ、ああ…」
アルトは手本として見せるために魔術を構築していき…
ポン。
その手元ではそんな音と共に…ごく小規模の爆発が起きた。
「な、なんだよ…今の…
さすがに…ショボすぎだろ!…」
発動した魔術のあまりのショボさに…
ディエスは腹を抱えて笑い…
「な、なんでよ!?…
前、使ってた時…こんなにショボくなかったじゃない!?」
グレアはどこかガッカリした様子でアルトに言い募る。
「いや、こんなところで…
いきなり、あんなのを使ったら…
他の人がビックリしちゃうだろうし…
出力控え目にデチューンしたんだよ。」
「でちゅーん?…
なにそれ?」
聞き覚えのない単語に…
グレアは首を傾げる。
「あー…その…
なんていうか…
敢えて、弱くした…いや、性能を抑えたって感じかな?」
「つまり…手加減したってこと?」
「うーん…手加減とはまたちょっと違うんだけど…
まあ、目的としては…似たようなもんかな。」
アルトが行ったのは…意図的なダウングレード。
アルトは万が一のことも考慮しており…
もし、仮に…魔術の発動に失敗し、誤爆したとしても…
術士本人やその周囲に被害が及ばないように…
練習用の魔術として、調整していた。
「ふーん、なるほどね…」
アルトのそんな説明にグレアは頷いたが…
「って、ちょっと待って。
さっき、アルトは…敢えて、弱くしたって言ってたわよね?…
なら、その逆で…強くも出来るってこと?
少なくとも、前の時のは今のより強かったはずだし…」
ふと、アルトが口にした言葉の違和感に気づき…尋ねる。
「出来るか、出来ないかで言えば…出来るね。」
「やっぱり!
なら…前の時のはどのくらいの強さのやつだったの?」
強くも弱くも出来るなら…
当然、浮き上がるであろう疑問。
「んー…強さって言われると難しいけど、
威力だけなら…だいたい、一・二割ぐらいかな?…」
「あ、あれでそれくらいなの!?…
あんなに派手だったのに!?」
グレアはアルトの回答に…目を見開く。
「そもそも、あの時のは攻撃用だったわけじゃなかったからね…
見た目だけは派手だったけど、
結構、見掛け倒しで…言ってみれば、花火みたいなもんだよ。」
あくまで、威圧・牽制を目的とした魔術であり…
直接、当てでもしない限り…威力はそれほどでもない。
そういった旨のことを伝えると…
「じゃ、じゃあ…本気のやつを見せてよ!」
なぜか、グレアは目を輝かせて…
そんな要望を口にする。
「ええー…ヤだよ、危ないもん。
それに今はフェイトに魔術を教えるためにここに来てるんだし…」
「別に今じゃなくても、また今度でもいいから!…」
「わかったわかった…まあ、考えとくよ…」
「言ったからね!」
「はいはい…それで、フェイト…」
妙にせがんでくるグレアを適当にあしらいつつ…
アルトが振り返ると…
「…」
フェイトは目を丸くしていた。
「魔術を作っただとか…魔法陣に書いてあることがわかるだとか…
とんでもないこと言ってたし、
見たこともないような魔法陣になっていても…
もう、そこまで驚きはしないよ…だけどさ…」
「だけど?…」
「何!?…今の構築速度!?
無詠唱でそんな速度…普通、ありえな…
いや、まあ…うん。
今更、アルトに普通を説くこと自体が間違ってるか。」
通常、無詠唱で魔術を発動する際には…
詠唱する際のおよそ一.五~二倍ほどの時間を要するものであり、
たとえ、初級魔術であったとしても…発動までに約十数秒はかかる。
だが、アルトが魔術を発動するまでにかかったのは…三.三四秒。
アルトはこれまでも暴行犯たちを【睡眠霧】で制圧したりはしていたが…
フェイトに見せるように魔術を構築し、発動していたわけではなかったため…
フェイトはアルトがそれほどの速度で魔術を発動できるとは知らなかった。
しかし、常人の倍以上のその構築速度に度肝を抜かれつつも…
もはや、今更か…と、途中で落ち着きを取り戻し、フェイトはあっさり受け入れていた。
「そ、そんな…人を非常識の塊みたいに…」
フェイトのあんまりな言いぐさに…アルトは抗弁しようとする。
「「「…非常識の塊ではある(よ) (だろ)(でしょ)!」」」
だが、他の三人からも総ツッコミを受け…
「…シクシク」
アルトは泣いた。
「口でシクシクって言う人、初めて見たよ…」
「じゃあ、およよ…」
「じゃあってなんだよ…じゃあって…
嘘泣きにしても、下手過ぎだろ…」
あまりに下手…
というより、嘘であることをまるで隠す気のないアルトの泣きの小芝居に…
フィリアとディエスは若干、呆れつつ…そう、呟く。
「と、とにかく!…
どう?…フェイト、出来そう?」
「うーん…
とりあえず…もう一回、見せてくれる?
今度は…もうちょっとゆっくりめで…」
二人の呟きは聞こえないふりをし、
アルトはフェイトへの魔術指南を再開した。
…
魔術指南はマンツーマンで行われ、
フェイトは何度かアルトの自作魔術の発動に挑戦した。
しかし…
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫?…ちょっと、休もう…」
「いや、もういいよ…」
その結果は芳しくなく…
何度かの挑戦の後、フェイトは音を上げた。
「実のところ、僕は無詠唱魔術が苦手でさ…
やる前から正直、出来ないだろうな…とは思ってたんだ…」
そもそも、フェイトは無詠唱魔術自体が不得手だったらしく…
無詠唱魔術が前提となるアルトの自作魔術とは相性が悪かった。
「一応、やるだけやってみたけど…
やっぱり、出来なかった…
だから、僕には無理なんだよ。」
「わかるよ、その気持ち…
私もそうだったから…」
弱音を吐くフェイトに…同意したのはフィリア。
「私が教えてもらったのは別の魔術だったけど、
教えてもらってから出来るようになるまでは結構かかったし…
すぐには出来なくても、仕方ないよ…
だから、そんなに気を落とさないで?」
フィリアは気落ちしているフェイトを慰めようと、そんな言葉を口にし…
「え!?…フィリア、あれ出来るようになったの!?…
いつの間に?…」
その言葉に驚いたのは…アルトだった。
リオス村で暮らしていた頃…
アルトは一度だけ、フィリアにもとある自作魔術を教えようとしたことがあった。
しかし、当時のフィリアには難易度が高く…その試みは失敗に終わっていた。
「まあ、私だって…ただ遊んでたわけじゃないからね。」
フィリアにしては珍しく…どこか自慢げに微笑む。
「(別に遊んでたとかは思ってないんだけど…)」
かつて、アルトがフィリアに教えようとした自作魔術…その名は【泥球】。
いつぞや、フィリアがディエスらにイジメられていた際に…
アルトが彼らを撃退するために使用した魔術である。
「(あん時はたしか…
これさえ覚えとけば、イジメてくるやつは撃退できるぞ…
なんて言って、教えようとしたんだっけ?…懐かしいな…)」
アルトとしては、半ば冗談混じりで教えようとしただけであり…
それを覚えていたことも…時を経て、実際に習得していたことも…
全くの予想外だったのだ。
「いや、単に驚いたってだけさ。
教えたのはあのたった一回だけだったのに…ホント凄いよ。」
「で、でも…まだ、アルみたいに魔術を作ったりとかは出来ないんだけどね。」
アルトの素直な賛辞に頬を掻き…
フィリアは恥ずかしそうにそう返す。
「コツさえ掴めば…
多分、すぐ出来るようになると思うよ?…
フィリアは僕よりもきっと、才能あるし。」
「そ、そうかな?…
でも…いつか、アルに追いつけるように頑張るよ!」
フィリアはアルトに向け、そう宣言した。
「僕も…頑張るよ。
フィリア、ちゃん?…みたいに…アルトに追いつくとまでは言わないけどね。」
フィリアの宣言に感化されたのか…
フェイトもそんな言葉を口にする。
「じゃあ…二人はライバルってことね。」
話を聞いていたグレアがポツリと呟く。
「そ、そんな大層なもんじゃないよ…」
「そ、そうだよ!…グレアちゃん!」
「(二人がライバルか…)」
数多くの魔導書などを読み耽っており、知識量こそ豊富ではあるが…
魔術を学び始めてから比較的、まだ日も浅く…技量がそれに追いついていないフェイト。
対して、アルト式の魔術訓練法などにより、技量こそ高くなっていたが…
知識の偏ったアルトからしか魔術を学んでいなかったことで…知識量はそれほど多くないフィリア。
二人の間には奇妙なライバル関係が生まれ…
「(え?…ちょっと待って。
じゃあ、俺は?…)」
ナチュラルにハブられることになったアルトは…
少しだけ、悲しくなっていた。
「(いや、まあ…そんなことはいいか。
それより、どうすっかなぁ…
フェイトに魔術を習得してもらうのは…
フィリアの話を聞く限り、そんな今すぐにっていうわけにもいかなそうだし…
何か他にいいアイディアは…)」
アルトはしばらく考えこみ…
「(!…あ、そうだ!)」
ふと、あることを思いついた。




