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第24話 国王陛下と条件。

 





「お初にお目にかかります国王陛下。ぼ、私は北の村にて領主代理をしている、サカモト・チサノと申します。この度は拝謁の機会を与えて頂き誠に感謝いたします」



 こ、こんな感じかな? アニメやラノベで仕入れたエセ言葉だけどなんとか大丈夫??

 片膝をつきながら(こうべ)を垂れるようにして発言する。



「よい。面を上げよ」


「はっ」


「御主、変わった名をしているがどこの出身だ」


「はっ。ここよりずっと東の辺境の地よりやって参りました。……ただあまり記憶が無く、東の地よりこの地へやってきたことや、ある程度のことしか覚えていないのです……」



 初老と思われる白い髭を蓄えた老人——国王と会話をする。


 記憶が無いといったが、もし国王様が東の国について深い知識がある場合追求されても答えられる自信がないからだ。

 ちなみにこの場には国王様とその側近や衛兵達がいる。相対しているのは俺だけだ。ダンテとアルフは部屋の外で待機している。



「ほう。それは大変だったであろう。御主、名は、チサノ、で合っていたか?」


「はい。家名がサカモト。名がチサノでございます」


「そうか……チサノか。では早速御主の用件を聞こう」



「はっ。ありがとうございます! それでは、単刀直入にいわせて頂きます」



 今回の目的はいくつかあるがまずは一つずつだ。



「私を正式に領主として村に置いて頂きたく思います」



 一瞬だけ周りが響めく。



「ほう。昔どのような立場におったかは知らぬが、今の御主はただの平民。それなのに領主という立場を求めるというのか」


「左様でございます。これからの発言おこがましいものでありますがどうかお許しください」


「よい。言うてみよ」


「では。失礼ながら現在この王都周辺の村にはここ数年の間、領主不在と聞いております。そして、食糧不足による飢餓。飢餓による村人の死。現在の王国ではこれを防ぐ手立てがないとお見受けします」



「貴様! この王国をバカにしているのか!!」



 国王の側近が憤りを表す。

 そりゃそうだ。自国の悪口……に近いことを言われて黙っているはずがない。……大丈夫かな俺……。



「下がれ。……よい。続けよ」


「お心遣い感謝いたします」



 側近を一歩下がらせ続きを促してくれる。

 それでも馬鹿にするような言葉を受け止めてくれる国王に感謝を述べる。



「では続きになりますが、率直にいいますと、私にはそれらの村を救う手立だてがございます」


「なんだと? それは真か?」


「はい。国王陛下は北の村……私達の村が今どのような状態かご存知でしょうか?」


「……儂が知っているのは飢餓に苦しみ、日を追うごとに死者が絶えない……ということだ」



 国王は驚いた面持ちで、しかし目を少し輝かせ、そしてまた瞳の光が弱くなる。


 しかし、俺たちの村のことが知られていなかったは意外だった。

 さすがに1年間あれやこれやしていたのに……それほどまでに村の人々は見限られたということか……。



「わかりました。それでは今の村の現状を説明いたします。現在私のいる北の村は、最盛期で約2000名いました。これについては国王陛下もご存知でしょう」


「もちろんだ」


「そして私が村に来た時、その数は約500名まで減少していました」


「500……」



 反応をみるからにこの情報さえ知らなかったのだろう。

 一体この王様は何をしているんだか……。



「しかし現在は1000名ほどまで増えました」


「何だと!?」



 目を見開き国王が驚く。



「私が村に来たのは約1年前です。もちろん1年間で500人もの子どもを出産させたわけではございません。勝手ながら、私達の村より東の村の500名を移民させ増やしたのです」


「なんと……だがそんなことをしたら食糧が足りないのではないのか?!」



 最もな疑問だ。



「いえ。私は痩せた土地でも育つ作物を憶えていました。恐らく故郷に存在する物だったのでしょう。それらを育て、村を立て直すことに成功しました」


「……作物?」


「はい。本日、献上の品としてご用意してあります。ぜひこちらをご確認ください」



 俺は背後に準備してある荷物を促し、衛兵達が荷物を国王の元へと運んだ。



「……なんだこの丸く茶色いものは……」


「これは『じゃがいも』です。この国にも『いも』はありますが、それよりも大きく栄養価は遥かに高いはずです。それに収穫量がとても多く、そして『美味しい(・・・・)』」


「なんと……このような物が……。……こちらの鮮やかで赤く丸いやつはなんだ……?」


「そちらは『トマト』という野菜です。国王陛下、もしよろしければそのまま食べてみてください。毒味は衛兵の方にして頂きましたので問題ないはずです」


「こ、このままか……?」



 この国には野菜を生で食べるという文化がまだ根付いておらず、少し不安げだった。


 確か昔のヨーロッパもルネサンス時代までは生野菜を食べる文化はなかったらしいし。



「もしご不安でしたら私が先に食べてみましょう。よろしいでしょうか?」


「あ、ああ」



『トマト』の入った荷物へ近づき1つ取り出し、食べる。



「もぐもぐ。ああ、やっぱり『トマト』は最高だなぁ」



 ハンカチを取り出し口元を拭い、一応垂れないようにする。

 国王様いるのにトマトの汁なんて垂らしちゃいけないよな……。



「いかがでしょうか?」


「ああ、大丈夫なようだな。では頂くとしよう」



 ゴクリと喉元を鳴らし、それを口へと近づけ、齧る。



「っ!! こ、これはなんという……! う、うまいぞ! 甘みと酸味が混じり合い、そして瑞々しい!」



 子どものように齧りつきあっという間に『トマト』を1個平らげた。

 蓄えられた白い髭が少し朱に染まっているが。



「いかがでしょうか? 『トマト』は『じゃがいも』ほどの収穫量はありませんが、栄養価も高くとても美味しいです」


「ああ! これは実にうまい! しかしまだこの箱一杯にこれがあるなんて!! この『じゃがいも』も食べてみたいぞ! これはどうやって食べるのだ??」


「これは生では食べられません。しばらくの間茹でれば食べることができます。茹でて、『塩』を少し振りかけて食べればきっとご満足いただけるでしょう」



 そう伝えると国王は衛兵にすぐに調理に取りかかるように命を下した。



「なるほど……これらのおかげで村を立て直すということが出来たというのか……」


「そうです。他にも様々な種類がありますが、季節に左右されますし、土地も必要です。ですから、今後作物を育てる上で正式に領主として認めて頂きたく参りました」


「そういうことだったのか……。そのような理由があるのなら……しかも実績は申し分ないと……」


「ありがとうございます」


「御主が今後もこれらを育て、村の民達を支えてくれるというのならば領主の位を与えても良い。だが、領主になる以上作物を献上してもらわねばみなに示しがつかぬがそれでも良いのか?」


「もちろんです。なんなら一番収穫量が多く腹持ちも良い『じゃがいも』の育て方もお教えいたします」


「なんと……」


「ですがそれに伴い、国王陛下にお願いがございます」


「なんだ、申してみよ」


「はっ。現在の村の状況ですと作物を献上し続けるのは困難になります。先程も私が進言いたしました通り、これらを育てる為には広大な『土地』と『人手』が必要になります。ですのでそこをなんとかして頂きたいのです」


「なるほど……。して、具体的にはどうして欲しいのだ?」


「お願いは3つあります。まず土地を広げ住居を増やす為に、建築士を貸して頂きたく思っております。それに伴い建築材料などの支援をお願いしたいのです」


「ほう。物資の支援と建築士の派遣か。最後の一つは?」


「最後の1つは、土地と住居が増えてからで構いませんが…………他の村の人々、もしくは貧困街の人々を私の村へ移民させていただきたいです」


「!! さらに移民させるというのか……」


「そうです。仮に作物を大量に作ることが出来たとして他の村に支援を送ることは可能でしょう。ですがそれでは根本的な解決にはなりません。民達が自ら作物についての知識と経験を培わなければ、いつか今と同じような状況に陥るでしょう。教えるにしても私の身体は1つしかありません。ですので、我々の村に来てもらい様々なことを培ってほしいのです」



 本当は作物について詳しくなった人達を派遣すればある程度何とかなるけど、やっぱり近くにいてくれた方が教えやすいし、対応できなくなっちゃうからね。

 あと育てるのは作物だけじゃないし。もちろん万が一俺が死んじゃったりしても自分達で行きて行けるようになってほしいし。これ本当。



「なるほどな……。…………………………………………」



 国王は顎に蓄えられた白い髭を触りながらしばらくの間、思考を加速させていた。




「………………わかった。御主の願い全て叶えよう。だが条件がある」


「なんでしょうか?」


「御主の村に弊害が出ない程度で良いが、しばらくの間出来る限り作物を分けてはくれまいか?」


「……といいますと?」


「移民させるのはまずは他の村人からだ。王都に比べ飢えに苦しむ者が比較にならないのでな。そしてゆくゆくは王都の貧困街の人々も移民させよう。だが移民までの間、飢え死にする者を出来るだけ抑えたい。だからそのもの達の分を分けてほしいということだ」


「そういうことでしたらわかりました。……ただ貧困街とこの国の村人全員分はさすがに難しいかと……」



 詳しい人数は知らないけど、この国の村の数はあと4つほどあったはずだ。小さい集落とかがもしあるのならもっとあるのかもしれないけど……。

 さすがに村4つ分と貧困街全員分は不可能だろう。



「いや、全員分はいらぬ。南に2つ村があるのだが、そこには儂の方から食糧を援助しておる。……本来ならば他の村にも送るべきなのだが、王都にもそれだけの余裕はない……。だから出来る範囲でだがやっていたのだ」



 なるほど。確かにそれならまだなんとかなるかもしれない。

 少ない食糧を分散させても、単純に足りなくなったり取り合いになったりするだろう。それよりかは取捨選択……じゃないけど集中させて救える命を救う方を優先させたのだろう。

 とても最善……とは言い難いけど、まあ正しい選択だろうな……。

 あっ。だから俺の村のことは知らなかったのか。理解。



「わかりました! そういうことでしたらお任せください。出来る限り作物の用意を致します。……そのかわり私のお願い、よろしくお願い申し上げます」


「わかっておる。すぐに建築士と材料等を手配しよう。移民は村が出来上がったら、でいいんだな?」


「はい。ありがとうございます。それでは私もこれから村へ帰り、準備をします」


「ああ、わかった。では次は作物を頼んだぞ」


「かしこまりました、国王陛下」




 俺に出来る限りの丁寧な言葉で挨拶し、謁見の間を後にした。





 

 はぁ……やっぱめちゃめちゃ緊張するやん……しんど…………。

 

 ああ、あと『種』の出どころ聞かれなくて良かった…………。


 一応言い分は考えてはあったけど、なるべく言いたくはないからなぁ……。






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