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第22話 検問と王都。

 




 馬が地面を駆ける音が響いている。



「なあダンテ、王都まではどのくらいで着くんだ?」


「そうだなァ。3時間くらいってとこだなァ」



 うん。わかっていたけどまあまあ遠いな。いつもなら移動に3時間あったら寝るか漫画かアニメかラノベだったから、娯楽のない今はちょっと辛い……。

 ちなみに馬の手綱はアルフが握っている。



「なぁチサノ。王都がどんなとこか知ってんのかァ?」


「知ってるよ……って言ってもちょっとだけだけど」



 以前村長達に聞いたことがあった。



 王都といっても、裕福なのは一部の層のみ。

 王都の中心に近くなるほど繁栄していき、都の外郭には貧困街がある。

 貧民街を抜けると一般の民達が暮らしている中層域があり、そこから生活水準はかなり上がる。

 そして貧困街の人々は働き口も少なく、死ぬまではいかない——チサノが来る前の村のように——がその日を生きるのに精一杯な生活を送っているということ。働いていたとしても低賃金での労働を強いられることもあるとのことだ。

 建築物や生産についての技術はかなり発展しているらしいが、富裕層が食べるものでも『食』のレベルは決して高くはなく、『美味しい』といえるものは少ないらしい。



 俺の知っているのはだいたいこれくらいだ。



「——ってところかな」


「そうだなァ。だいたいあってるぜェ。国王陛下については何か知ってんのかァ?」


「いや、国王様についてはあまり知らないんだ。何かあるのか?」



 そういえば王都についての情報はいくらか聞いたけれど、王様のことは何も聞いていなかった。

 情報というものは何よりも力になる。もちろん武力で圧倒されたらおしまいだが。



「なにかあるッつうわけじゃあないが、今の代の国王陛下は争いごとは好まない穏健派らしいぜェ」


「おお」



 嬉しい誤算である。



「穏健派だがァ武力がない訳ではないらしい。国力は相当なものがあるらしく、隣国達はそれを恐れて『平和協定』を結んだって話だ。ただ、現国王陛下は優しいが為に今の状況を生み出してるといっても過言じゃァないけどな」



 今の状況というのは貧困層の人々や、俺たちの村のことだろう。領主を置く余裕さえなく、食ベ物を行き渡らせることができていないのがいい証拠だ。

 今守ることの出来る中の民を守る。それもきっと一つの在り方なのだろう。



 しかしこの情報は思ってもみなかった吉報だ。

 今回の『謁見』において大切な交渉材料になるだろう。



「なるほどなぁ。だから今の状況が成り立ってるってことか」


「恐らくなァ。まァ国王陛下も今の国の状況は芳しく思っていないって噂だけどなァ」



 俺が村に来てから約一年。

 隣村の移民を受け入れて約半年。

 領主がいないとはいえ、これだけの期間に俺たちの情報が流れていないと思えない。



「そうか。さすがダンテだ。いい情報を聞くことが出来たよ。ありがとう」


「これくれェは朝飯前だぜェ」



 ダンテは生活に必要な物を購入する為に、たまに王都へ出向いていたらしくその時に様々な噂を耳にするそうだ。


 なんか酒場みたいなところがあってそこに情報屋とかいるのかな……。ちょっと憧れる……。あ、でもお酒は稀少なんだっけか。




 なんやかんや話をしていたらいつの間にか王都が見えてきた。




「おお……かなりでかいんだな……」


「そりゃァそうだ。この国の都だからなァ」



 そりゃそうだよな。王都なんて実際は見たことも行ったこともないからその大きさにはビビるわ。なんてったってひたすら城壁が続いているんだからな。

 いや、もちろん東京の高層ビルやスカ◯ツリーとかに比べると高さは負けるけど、なんというか重厚な感じが漂ってるんだよなぁ。かっこいいなぁ。



「2人とも、もう着くので降りる準備をしてくださいね。一度検問がありますから。まあ普通は簡単に通れますけどね」


「ああ、分かった」



 アルフが検問に備えるよう促してくれる。

 そして馬車が動きを止める。



「お前達、馬車から降りてこい!」


「今降りる!」



 検問兵と思わしき人物が声をかけてくる。

 一応装いを整え3人とも降りるが、小声でアルフが話しかけてきた。


「チサノさんはどんと構えているだけで大丈夫です。話は僕に任せてください」


「お、おう?」


「領主様なんですから、あんまりへこへこしてるのは良くないですからね」


「そ、そうだな。じゃあ頼む」


「はい」



 なんかアルフが頼もしく見えるぞ。

 頼んだよ。



「お前達、どこから来た。何用だ」


「この度、北の村から参りました。こちらは現在私達の村の領主代理をやっているサカモト・チサノ様です。本日は国王陛下に謁見を願いたく馳せ参じました。こちらに書状も準備してございます」


「……なるほど。分かった。だが後ろの積み荷はなんだ? 確認させてもらうぞ」


「もちろんです。どうぞご確認ください」



 アルフは積み荷へ案内し、布を捲り上げる。



「な、なんだこれは。食べ物……だな」


「はい。これらは私達の村で収穫した『野菜』や『果物』です。国王陛下に謁見させていただくからには献上の品がないのも失礼かと思いまして」


「これがお前達の村で獲れたというのか……。ううむ……とてもじゃないが信じがたい……」



 検問兵が怪訝な表情を浮かべている。

 そりゃそうだろう。積み荷一杯に大量に食べ物が詰められているのだ。

 王都以外の見捨てられた村で穫れるなんて思わないだろう。



「これらが村で獲れたことを証明するには一度村に来ていただかない限り難しいでしょう。ですが献上品としては申し分ないと自負しております。もし毒などを懸念されるのであれば一度食べて頂いても構いません」


「い、いや大丈夫だ。献上品を検問兵である俺が手を付けるなんてできない。謁見が叶うでのあれば城の方で毒味をするであろう。……分かった。通っていいぞ」


「ありがとうございます」



 アルフが饒舌に言葉を操り、不安を全く感じさせずに検問を突破してみせた。


 こんなに簡単に行くもんなのな……もしかしてアルフは商談だったりそっち系が得意なの?


 検問兵の許可を得、ようやく王都へと足を踏み入れる。



「おいアルフ、お前結構やるじゃん」


「いえいえ、これくらいなら朝飯前です。それに検問くらいよほどのことがない限り誰でも通れますからね」


「そ、そうか? でもまあ頼もしい限りだよ。これからも頼むな」


「はい。任せてください」



 結局俺とダンテは一言も言葉を発することなく王都に足を踏み入れることに成功した。



 だが踏み込んだ場所から見えるは、



「——ここが王都か……そんで貧困街ってわけか……」





 とても王都の景観とは思えない、雑多な町並みが広がっていた——。







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