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第20話 二日酔いとグレープフルーツ。

 





「——きてくれ。もう朝だぞ」



 聞き慣れた心地の良い声で犬人(シアンロイテ)の少女が目を覚ます。



「う……ん……チサ……ノ……?」


「おはよう。大丈夫か?」


「う、うん。だいじょう……う、頭痛い……」



 フィアが身体を起こし、片方の手で目を擦り、もう片方の手で頭を押さえている。

 どうやらフィアも例外なく二日酔いのようだ。



「あれ……みんなは……?」


「ダンテとアルフは広間で休んでる。シルはなぜか俺の部屋で寝ている。で、ヘラはそこだ」



 フィアは隣に横たわる狐人(ソーロ)の少女の姿を確認する。



「わっ。ヘラ大丈夫なの……」


「まあ今は寝ているけど、起きたら辛いだろうな」


「だよね……。お酒飲んだからこんなに頭痛いんだよね……?」


「そうだよ。まさか皆潰れるまで飲むとはな……俺も人のこと言えないけど……」



 チサノは苦笑いをしながら片手で顔を覆う。



「今は、朝……だよね……。昨日は一体……あっ!!」



 突然何かを思い出したような表情をする。

 そしてみるみるうちに耳の先までを含め、トマトのように顔を真っ赤に染めあげていく。



「お、おいフィア。大丈夫か? 熱でもでたか?」


「だ、だだ大丈夫! それよりチサノは昨日のこと……覚えてるの……?」


「あ、いやそれが全然覚えがなくてな……昨日何かあったか聞きたくて起こしたんだけど……覚えてるか?」



 チサノの本命はそこだ。

 昨日何か不祥事を起こしていないか。何があったのかを知りたかったのだ。



「お、覚えてない!! 私も全然覚えてない!!」


「そ、そうかそれなら仕方ないな……。あ〜なんかもやもやするなぁ」


「そ、そうね……もやもやするね……」



 あきらかにフィアは動揺しているようだ。

 しかしフィアの身を案じて広間に行くように促す。



「フィア、広間に行って水でも飲んで休んでくると良い。辛いだろ」


「う、うん! そうする! またあとでねっ!」



 逃げるように部屋から出てダンテとアルフのいる広間に向かっていった。


 チサノは残るヘラを起こす。



「ヘラ、起きて。起きてくれ……」



 呼びかけるが中々起きない。

 眠りが深いようだ。



「ヘラ、ヘラ起きて!」


「ん……う……」



 気だる気な表情をしながら目を覚ます。

 ついでに狐耳と尻尾も気だるそうに床に垂れている。



「おはようヘラ。大丈夫か?」


「あ……おはようございます……だ、大丈夫です……」


「起きれるか?」


「お、起こしてください……」



 少し頬を赤らめながらチサノに頼む。



「え?! そんな辛い?! ……しょうがないな……」



 とかいいながら抱き起こすチサノは満足げな表情をしていた。

 きっと初めてのお酒での初めての二日酔いだから身体が追いつかないのだろうか。



「なあヘラ。昨日のこと覚えてるか?」


「昨日のこと……覚えてます……けどそれが、どうかしましたか……?」


「え?! ほんと! 昨日何があったのか皆も覚えてなくて……何かあった?」



 何があったのか本当に覚えていないからこそ、真摯に問う。

 するとヘラは少し俯く。



「お、覚えてないんですね……そっか、覚えてないんですね……」


「え?! 俺なんかした?! なんかしてたなら謝るから! だからお願い教えてぇ!」


「だ、だめです! わ、私の口からは恥ずかしくて言えません……っ」


「は、恥ずかしい?! そ、そんな……ヘラに恥ずかしいと思うことをやったっていうのか?!」


「い、いえ……やったっていうか言ったというか……」


「言った?! セ、セクハラ発言的な?! ごめんごめんごめん何を言ったのか分からないけどごめん!!」



 チサノは自らの過ちを本気で謝罪した。何を言ったのかは覚えていないのだが。



「せくはら? というのが何かは分かりませんが、い、嫌なことじゃなかったですよ? ……むしろ嬉しいというかなんというか……」


「??! い、今の発言はあまりよろしくないかと……『M』だと言うことを世間様に暴露してるぞ?!」


「『M』……というのも何か分かりませんが、謝らなくて大丈夫です。……責任さえとって頂ければ……っ」


「責任?! 責任って何?! もう全然わからない……ごめん……今の俺には何も出来ない……」



 チサノは膝をつきその場に崩れ落ちる。



「だ、大丈夫ですから! それはいずれで大丈夫なので……思い出したらまた言ってください……」


「え、それでいいのならありがたいが……分かった……」


「じゃあこの話はこれでおしまいですね!」


「ああ、ありがとう」


「じゃあヘラも皆の所に戻って飲み物でも飲んで休んできたらどうだ? 気持ち悪いだろ」


「はい! チサノさんはどうするんですか?」


「ああ、俺の部屋にいるやつを起こしに行ってくる」



 そう伝えヘラと一旦分かれ、自室へと向かう。






「おーいシルおきろー」


「ん……むにゃ……チサノ様の……ベッド……じゅる……」


「おーい頼むから涎だけは垂らさないでくれよ〜」


 ベッドに潜り、相変わらず布団を口元近くまであげている。

 そして口の端に涎跡がしっかりとついていた。……もう手遅れかもしれない。



「おーいおきろー。うりゃっ!」



 起きる気配があるようでないので、布団をめくり上げる。



「ひゃぁっ! さ、さむいよ〜!」



 布団を取り上げられたシルは寒そうに両腕で身体を抱え込む。



「やっとお目覚めか。 大丈夫か?」


「あ、チサノ様。おはようございます。どうかしたんですか?」


「どうかしたじゃないよ。……シル気持ち悪くないのか?」


「ん〜、ちょっと頭痛いですね。飲み過ぎはよくないですね!」



 どうやら飲み過ぎた自覚はあるらしい。



「ていうか何で俺のベッドで寝てるんだ?」


「え?! ここチサノ様のベッドなんですか?!」


「お前寝言で『チサノ様のベッド』って思い切り言ってたぞ」


「ばれましたか」



 コイツ、確信犯か……。



「でもわざとじゃなんです! 昨日トイレに行った帰りに急に眠気に襲われて……仕方なくベッドをお借りしただけのことで……」


「ほぼわざとやん!」


「でもすごくいい香りがします……毎日ここで寝たいくらいですよ?」



 一緒に寝よう。


 危うくそんな言葉が出るところだった。



「まあ怒ってないから、安心してくれ。それより昨日のこと覚えてるか?」


「正直記憶があまりなくて……ごめんなさい……」


「そうか……まあ仕方ないよな……。じゃあ広間に行こうか。皆起きてるからな」


「はい!」



 2人で広間に向かい全員が集合する。



「昨日は飲み過ぎたようだな……」



 皆反省した面持ちで顔を合わせている。



「すまねェ。俺としたことが調子にのっちまったみたいだァ……」


「僕もです。楽しくてつい飲み過ぎてしまいました……しかも僕ら記憶がありませんし」



 ダンテとアルフが謝罪を述べる。


 いや、多分これは誰も悪くないんだ……。

 なんならお酒を準備した俺が悪い……。



「わ、わたしも飲み過ぎて……しまいました……。チサノさんに飲み過ぎないように言われたのに関わらず飲んでしまって……」


「私もよ……。お酒、美味しかったし……チサノの隣に座れてうれしくてつい……」



 ヘラはちゃんと反省しているけど、フィアは何を言ってるんだ。嬉しいけども。



「私もです。チサノ様がせっかく用意してくれた場なのに、台無しにしてしまいました。ごめんなさい……」



 いいんだ。シルも悪くないんだ。

 悪いのは俺なんだ。



「みんな、逆にすまなかったな……。俺も楽しくなってついお酒をたくさん出してしまった……。しかも昨日のことはほとんど覚えていない。だからもし何かしてたなら皆言ってくれ」



 皆頷く。

 しかしきっと言ってはくれないだろう。……ヘラも教えてくれないし……。



 だがとりあえず二日酔いでみんな気持ち悪いだろうから、お詫びとしてあるものを準備した。



「皆、頭痛だったり気持ち悪かったりするだろ? それは『二日酔い』っていうんだけど、『これ』を食べれば少し緩和されると思う。俺からのお詫びだ、食べてくれ」



「なにこれ? 大きい、みかん?」



 フィアが疑問を抱く。



「これは『グレープフルーツ』って言う果物だ。ちょっと酸っぱいけど美味しいよ」



 半分に切って『グレープフルーツ』をスプーンと一緒にみんなに渡す。



「ちょっと酸っぱい。でもさっぱりしていて頭がすっきりする気がします……」



 ヘラが食べ、みんなも続いて食べている。



 ちなみに『グレープフルーツ』が二日酔いにいいというのはアルコールを分解してくれる効果を持つからだ。あとは胃の働きも良くしてくれる。

 予防にも効果があるから、『グレープフルーツサワー』とかを飲むようにすると次の日は楽になるかもね!




「とりあえず今日はもう帰った方がいい。家の人達も心配してるだろうしな。なんなら後で俺が挨拶に回ってもいい」



 みんなに帰宅を促し、今日は解散となった。




「はぁ〜なんか楽しかった気はするんだけどなぁ〜。覚えてるのはフィアとヘラに挟まれて座ってるところだけとは……我ながら情けない……」



 結局今回分かったのは2つだ。



 自分の欲望の為に行動しても結局いいことなんてないってこと。


 それとお酒はほどほどに、ってこと。



 なんでもほどほどが大切だよな〜。

 今回は『エロ』に少し寄せすぎたのかもしれない。


 次からは『微エロ』くらいに思いとどまった方がいいのかもな。


 あ、もちろんエロなことはしてないからね! 多分!

 あくまでも方向性の話だ!




 これからは、もう少し大人になろう。


 そして村の為に頑張ろう……最終的には税金ハーレムスローライフだけどね……。







ここで2章農業日常編が終わりになります!

時間経過は、春前に異世界にやってきてから今は冬すぎくらいなので約1年くらいになります!


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