第19話 幸福と後悔。そして回想。②
俺はフィアとヘラの2人に挟まれ、『こたつ』の中に入っていた。
……この状況をくれた神様に感謝いたします……あと心友のダンテとアルフ……ありがとう。
配置はこうだ。
俺の隣にフィアとヘラ。
目の前にはシル。
そして左右にはそれぞれダンテとアルフが座っている。
両手に華というのはこのことだ。
途中ダンテとアルフが参入したことにより6人で鍋をつついている」
「このお鍋凄く美味しい! なんかいつもと少し味違う!」
「よくわかったなフィア。これには『醤油』が入ってるんだ」
「『しょうゆ』?」
「ああ。まだ完成してないんだけど、使えないこともないから使ったんだ。まだ完成するのは先だけど、できたら皆にも分けてあげるよ。」
みんな嬉しそうにしている。
ただ6人で一つの鍋は流石に足りないな……。
すぐになくなってしまう。
「ちょっと次の鍋つくってくるから待っててくれ」
「チサノ、俺も手伝うぜェ。猪肉も切らなきゃいけねぇしな」
「そうか、助かる。じゃあみんな待っててくれ」
そう言い残し2人で厨房に向かう。
鍋に材料をいれ火にかけているとダンテがある提案をしてきた。
「なあチサノ。こんなに皆が集まることあんまねぇんだし、『あれ』も飲みたくないか?」
「なるほど……『あれ』、か」
「ま、チサノが良ければだがなァ」
「いや……良い考えだ。飲もう!」
あれと言うのは『ビール』のことだ。
たまにダンテとアルフとは一緒に飲んでいた。
最初は「にがっ!」とかなんとか言ってたけど、慣れて好きになったのか今ではよくせびってくる。
「っしゃァ! さすが領主様だぜ! どうやって作ってんのかは知らねェが、一日の終わりに飲むとうめぇんだよなァ!」
「じゃあ先に『鍋』を持って行ってくれ。俺は準備して持ってくよ」
「おう! 待ってるぜェ」
ダンテが部屋に戻って行ったのを確認し、言葉を紡ぐ。
「オープンステータス。【園芸用品創造】」
そのまま《酒類》から『ビール』、そしてついでにもう一つ創り出す。
「そういえば、あの3人には飲ませたことないな……ていうか飲んでいいのか……?」
フィア、シル、ヘラの3人のことだ。
日本では飲酒は20歳になってから。未成年の飲酒はダメ、ゼッタイだった。
だけどこの国の法律なんて知らないし……俺、神公認の領主だし!
「ま、大丈夫だろ。一応度数低めのも持ってっとくか」
『ビール』以外にも、『サワー』各種もいくつか準備し部屋へと向かった。
「おまたせ」
「チ、チサノさん遅いです! 早くこっち来てください!
「そうよ! チサノも早く『こたつ』に入って!」
おぉ……なんて幸せなんだろう……。こんな可愛い2人自ら、私めをお誘いしてくれるなんて……。
「わ、わかったわかった」
「チサノ様、手に持ってるそれはなんですか?」
「これな、『酒』だ。シルは飲んだことあるか?」
「お酒ですか? 聞いたことはありますが、飲んだことはなくて……」
「私も!」
「わ、私もです……」
どうやら3人とも知ってはいるが、飲んだことはないらしい。
まあ、「嗜好品だから俺らみたいなただの村人にはありつけねぇ代物だァ」ってダンテが言ってたし当たり前か。
「3人も飲んでみるか?」
とりあえず勧めてみる。
「飲む!」
真っ先にフィアが応答する。
尻尾をぶんぶんしているがそんなに飲んでみたいのだろうか。
でも俺の隣ではヘラも尻尾をぱたぱたさせている。
シルも目を輝かせている。
「そ、そうか。じゃあ飲もうか」
女の子だしいきなり『ビール』飲ませて不味いという意識を植え付けるのは避けたいので、度数弱めの『カシスオレンジ』を3人に渡す。
俺はそこまで好きではないけど、初めて飲むにはいいとこじゃあないだろうか。
「不思議な入れ物……チサノさんどうやって開けるんですか?」
3人は受け取ると、物珍しい目でそれを見ている。
「ん、それはなー」
と言いながら『ビール』をダンテとアルフに手渡し、『プシュッ』と慣れた手つきでプルタブを開ける。
「こんな感じだ」
ダンテとアルフの手つきを真似して3人がプルタブを押し開ける。
「お、おお。すごい……」
フィアが目をぱちくりさせながら驚いている。
シルとヘラも驚きを隠せないようだ。
皆が準備を終えるのを確認し、俺も『ビール』のふたを開ける。
「よし! せっかく皆集まったんだし今日は楽しもう! 乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
皆一斉に『酒』を口の中へと流し込む。
「っはァ〜! やっぱ『ビール』はうめェなァ!」
「っくー! チサノさんはこれをいつでも飲めて羨ましいです!!」
ダンテとアルフは『ビール』の美味しさを知っているのでそれぞれ良い飲みっぷりを発揮している。
「なにこれ! 美味しい! チサノこれ『みかん』の味がする!」
「美味しいか? それはまあ『みかん』味のお酒だからな」
「チサノ様美味しいです! 甘さの中に不思議な苦みがありますが、これはこれで!」
「そうか、シルも飲めるか」
「チ、チサノさん……もう一本飲みたいです……」
「え?! もう飲んだの?!」
ヘラの缶を確認するが、すでに空っぽだ。
おいおい、いくらなんでも初めて酒飲むやつが一気飲みなんて普通しないだろ。
新入生にそんな鬼畜なことすんのは一体どこのサークルだよ。……そうだな『俺サー』とでも名付けるか。俺の為の俺の為による俺だけの幸せを追求するサークル。
3人は強制加入だ。男は加入不可にしよう。今回は特別だ。
なんてバカなことを考えてる場合じゃない!!
「お、おいヘラ。大丈夫か? なんかふらふらしたり気持ち悪くないか?」
「? 大丈夫ですよチサノさん? 美味しかったから早く次のほしいです」
大丈夫といいながら少し俺に体重がかかってきている気がする。
でも大丈夫っていってるし、まだ大丈夫か……。
「いいけど、あんまり飲みすぎちゃダメだぞ?」
「はい!」
そしていつもよりものをはっきり言っている気がする。
そんなこんなで『大人の鍋パーティ』が開催される。
わりと飲むペースは皆早めのようだ。
でも皆楽しそうで良かった。俺も2人の美少女を両隣に従えているし。
「おいチサノ! 飲んでるのか?! 全然減ってねぇぞ! ほら! くいッと!」
「おぉおおおやめろってこぼれるだろ! わかった飲むから! 待てって!」
こいつはサークル長にしてはいけないやつ。
「あれ〜チサノさん。まだまだ足りてないんじゃないですかぁ? ほら、くいっといっちゃってください!」
アルフも同じく。
……でもまあ楽しければよしだ。
「おいダンテ、アルフこれも飲んでみないか」
厨房で準備したもう一つのお酒を取り出す。
「『日本酒』ってやつなんだけどな、俺のイチオシだ」
「お! そりゃあ初めてだなァ! 飲ませてくれ!」
「僕も頂きます! チサノさんのイチオシとあれば相当なものなんでしょう」
『日本酒』を開け、コップ——ほんとはおちょこが欲しかったが——に注ぎ渡す。
「あんまり一気に飲むなよ。けっこう強めだからな」
一応注意しておき、飲ませてみせる。
「っく〜! なんっつーか喉にくるなァ! でも悪かねぇ! 『鍋』に合うなァ」
「ああ、『鍋』とこれは相性いいからな」
「チサノさん、もう一杯いただきたいです!」
「おいおい、アルフあけるの早いな。置いとくから好きに飲んでいいぞ」
そういうと「ありがとうございますっ」と言いながら自分のコップに注いでいる。
「チサノ様、私もそれ飲んでみたいです!」
「シルも飲んでみるか。ほら」
コップに注いで渡す。
「あ、美味しい……」
どうやら気に入ったようだ。
飲んでは注ぎ、飲んでは注ぎを繰り返している。
「ほらぁ! チサノももっと飲んで!」
「え? ちょっとフィア、大丈夫?」
「なぁに言ってるの! 大丈夫に決まってるじゃなーい! ほらほら!」
あかん、酔ってきてるこれ。でも注がれた酒を飲まない訳にはいかない。
そう言い聞かせ『日本酒』を呷る。
「はー! うまし!」
なんだかんだ『日本酒』が一番好きだからつい飲んでしまう。
ちなみに俺の好きな銘柄は『梵』という。いつかまた飲みたいなぁ。
あれやこれやと飲んでいるうちに、床には『空き缶』が屍のように無数に横たわっている。
「……あれ、もぉ空っぽですよぉ……チサノ様おかわり欲しいです〜っ」
シルがこたつの中で脚を絡ませてきながらお酒をねだる。
脚を絡ませるのは卑怯だ! いや、これこそが俺の計画だったんだけども!
……という冷静な判断を下す思考回路はもうチサノには残っていなかった。
もともとそんなに強くないのについ飲み過ぎてしまっていたようだ。
「お〜う! もう空けたのかぁ! シルは可愛いやつだなぁ! もっと飲め飲め!」
そう言いながらこたつの中で『ウィンドウ』を操作してお酒を創る。
両隣にはフィアとヘラがいるが、この2人もどうやらいってしまっている。
もちろん酒を創っていても気づかない。
チサノはぽんこつな頭ながら理性が働いているのか、一応隠しながら創っていた。
「へへへ〜チサノの隣〜。良い匂いする〜!」
フィアが俺に抱きつきすりすりしてくる。
まさしく犬のような行動だ。
酔うと本能が出てしまうのだろうか。
「だめですよぉ〜! チサノさんはわたしのなんですからぁ〜」
ヘラもとろみのついた表情で俺に抱きついてくる。
「全く2人ろも俺のことがそんらに好きなろらぁ? 俺も大好きだあーーー!」
「チサノ様ぁ! 私はぁ?!」
「おー、もしろんシルも大好きらろ〜! 3人とも結婚したいくらいなあ!」
「私はいいわよぉ!」
「私もです〜!」
「私もぉ!!」
3人の少女がそれぞれの答えを述べていた。
しかしチサノは既に考える力を失っている。
「はっはっ〜そうかそうかぁ! ま〜飲め飲め〜」
チサノは3人に酒を勧め、3人は酒を呷る。
ダンテとアルフはお互いに酌をしながら笑って飲み続けている。
もちろんこの2人も例外なくいってしまっている。
一体どれだけ飲み続けたのだろうか。
夢のように楽しい一時を過ごしながら、認識する前に意識の糸が切れ暗闇に身を委ねた——。
※※※※※※※※※※
「——うーむ……皆で酒を飲んでたのは覚えてるんだが……ほぼほぼ覚えてないぞ……」
何をどう頑張っても思い出せない……。
や、やばい……俺なにかやらかしてない……かな?
「お、おい! ダンテ! 起きろ! おい!!」
すぐさまダンテを揺さぶり起こしにかかる。
「ん……ぁあ……チサノじゃねぇか……どうしたんだ……ていうか俺はなにしてんだ……うぇっぷ、気持ちわりぃ……」
どうやらこいつもグロッキー状態だ。そりゃあ真冬に外でおねんねするやつなんてイかれてるに決まっている。
しかし今はそんなものどうでもいい。
「お、おいダンテ、昨日俺がなにしてたか覚えているか?!」
「ん、あー……昨日は皆で飲んでて…………わりぃ思い出せねェ……」
「ま、まじか……」
こうなれば残る希望はただ一人。
ダンテを後にし3人のいる部屋へと足を早める。
「お、おいアルフ起きろ! おい!」
アルフの身体を揺さぶりながら、フィアとヘラを起こさないように小声で叫ぶ。
「んにゃむ……あれ、チサノさん、どうしたんですか…………うぇっぷ気持ち悪い……」
どうやらこいつも状態異常を引き起こしているようだ。
まあ座りながら寝るなんてどこかの武士かイかれてるやつしかやらない。
「おい、あんまり大きな声をださないでくれ。アルフ、昨日のことなにか覚えてるか?」
「え? 昨日のことですか? そんなの覚えてるにきまって…………あれ、どうなったんでしたっけ? 飲んでたのはなんとなく覚えているんですけど……」
「……」
終わった……。
こうなったら自爆覚悟で3人に聞くしかないのか…………。
アルフを広間で休むように言い、俺は腹を括る。
犬人と狐人2人の少女の身体を優しく揺さぶりながら、起こす。
「2人とも、起きてくれ。もう朝だぞ——」




