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第18話 幸福と後悔。そして回想。①

 







「うぅ……ぁ……っ痛ぅ……頭が……」



 なんでか知らないがめちゃくちゃ頭が痛い……。なんで……。

 頭の芯がズキズキ痛む。頭を動かしたくない。



 だが俺はこの痛みを知っている。

 …………『二日酔い』だ。



 それに妙に身体が暖かい……昨日皆で鍋を食べていたのは覚えているが……それなら『薪』が燃え尽きて部屋は寒いはずだ……。


 正確には暖かいふわふわした何かに包まれているような……。


 ……………………。


 …………。


 昨日?


 っ!!


 皆は!!



 頭が痛むのを我慢し、重たい瞼を開く。



 ————な、なんだこの状況は…………。


 俺は夢でも見ているのではないか。いや、頬を叩かなくても頭の痛みで夢じゃないことは分かっている。



 目の前には夢のような光景が広がっていた。




 先ほどの暖かなふわふわの正体は、『尻尾』だった——。



 そりゃあ暖かいだろうよ。ふわふわの尻尾が俺の横たわる身体に2本(・・)覆い被さっているのだから。




 な、なななんでフィア(・・・)ヘラ(・・)が俺に寄り添って寝ているのか!!



 かろうじて頭を少し浮かし見た光景がそれだった。



 ちなみに腕は動かない。俺の腕を自分の胸に引き寄せるように抱き眠っているからだ。2人とも。



 おかげでこの真冬の寒さでも暖かいわけだ。



 腕に全身の神経を集中させて『何か』を感じようとするが、もし動かして起きてしまったらどうしよう、という気持ちに抑制され動かせなかった。



 フィアとヘラについてはとりあえず眠っていて、かすかな寝息が聞こえるので安心した。



 ただ他のメンバーはどこへ行ったのだろうか。部屋を見渡さないと流石にわからないな……。



 ……流石に起きない訳にはいかないよなこの状況。


 記憶があってのこれなら、きゃっぽー! これこそハーレム! 異世界転生さいくー! ってなってただろうが、記憶が曖昧すぎてどちらかというと若干の怖さを感じている。



 とりあえず腕をこの天使の腕輪から外さないと……。ほんとは外したくないけど……。みんなが心配だから……。


 ミッションクリア条件はただ一つ。

 2人を起こさないこと。

 起こしてしまうとこの状況を説明できないし、もしかしたらもしかしてってこともあるかもしれない。俺だってまだ死にたくないからな。


 ……よし。


 まず左腕に抱きついているフィアからだ。


 右腕に使用していた神経領域を左腕だけに集中させる。


 幸い寝ているからか、力強く抱きつかれている訳ではないようだ。


 そーっと、そーーーーっとゆっくり引き抜くように腕を引く。


 …………。


 たまに腕が触れてしまう……。お前けっこう大きいんだな……。何がとはいわないが。許してくれフィア……不可抗力だ……。

 しかしながら意識しないようにしても意識してしまう。こればかりは健全な男の子だからしょうがないだろう。


 たまに「ん……んぅ……」とか小さく声が発せられる度にアストロンをかけられたばりに鉄のように固まる。


 そしてまた引き抜くということを繰り返した。

 何回目だろうか、と数える余裕なんて俺の思考領域には一ミリもなかった。



 だが——。


 な、なんとか抜いたぞ……。


 これは中々至難の業だ……。



 次はヘラだ。



 正直ヘラはもっと手強いだろう。

 なぜならば、見た目のイメージや身長からは想像出来ないくらいだいぶでかいのだ。何がとは言わないが。

 これがギャップというものだろう。



 ああ神よ、今こそ我に力を与えたまえ……もうとっくにスキルを頂いておりますが……。



 ああ、さっきより隙間が狭い気がする。



 こんなの難易度マックスのイライラ棒よりイライラする、いやムラムラなのではなかろうか。……ムラムラ棒か……いや忘れてくれ……。



 しかし今は左手はフリーだ。

 左手に体重をかけつつ様々な角度からじわりじわりと抜くことが出来る。


 そーーーーっとそーーーーーーーっと……。



 むにっ。


「あっ……ん……だ、め……」



 あーーーーーもう! 当たるって! 無理だってこんなの!! ていうか起きてないよね?! なんなのこれ! もういっそのこと一気に引き抜いてやろうか! 

 待て俺、冷静になれ。ここは冷静な判断が求められる場面だ。……よし。



 先ほどのフィアの時と同じように何度もじわりじわりと腕をスライドさせる。



 生き地獄とはこのことだ。だけど後少し……。



 っ!!!



 よぉーし! よぉーしよく頑張った俺!!

 あとはこの場を離脱して皆の様子を確認し記憶を呼び覚ますだけだ。



 俺はその場を立ち上がる。


 そこでふと考えてしまった。


(((今なら耳と尻尾……触れるんじゃないか……?)))


 普段なら絶対に触らせてくれないが、今なら……。



(((待つんだチサノ! 悪魔の囁きなんかきいちゃいけない!!)))


(((な、なんだ?! 俺の心の中に住まう天使か?!)))


(((今ここで触って起きたらどうするんだい! 全てを無駄にする気か!)))


(((そうだ! お前は引っ込んでろ!!!!)))



 悪魔に負けた。オレ、ヨワイ。



 フィアの尻尾を優しく触る。


 あぁ……めっちゃ毛並みが綺麗で滑らかな触り心地だ……。ずっと触っていたい……。



 しかし次はヘラだ。

 犬の耳や尻尾は日本にいた頃でも触ることが出来たからな。狐は触るどころか遭遇さえなかなかできない。



 同じく尻尾から優しく撫でる。


 ふぁ?! なんだこれは。滑らかなのはもちろんだが、ふわふわさと適度な反発力が調和しているっ!!

 あぁ……幸せ……。



 ——っ?!



 ふと視線のような何かを感じた。


 俺はそちらに目をやる。心臓がばくばくだ。見られたかもしれない……。


 そしてそこにはアルフがいた。


 いや正確には、壁にもたれかかるように座っている。

 右手を右膝の上に乗せてこちらを見ている……のか?


 しかしこちらに近寄るそぶりや立ち上がるそぶりがない。


 もしやと思い近づくと……ね、寝てる……? 目の前で手を上下に移動させ確認する。

 うん。反応なし。寝てるな。

 ちょっと半目だから見られていると錯覚しただけか……。はぁ……寿命縮んだぜ……。



 だがそれと引き換えに尻尾様に触れることが出来た。


 しかも2人を起こすことなく。



 もう俺の中の天使には頼ることはないだろう。アディオス。



 部屋の中を改めて見渡すとフィア、ヘラ、アルフの3人しかいない。

 他に目に映るのは散乱した『空き缶』と『瓶』である。




 じゃあシルとダンテはどこに?


 も、もしかして……。

 確か2人は昔から仲良しだったよな……でもダンテはお兄ちゃん的な存在だっていってたし……まさかな……。



 とりあえず家の中を探してみよう。



 忍び足で部屋をでて近くの部屋を恐る恐る開く。


 いないな。


 いくつか部屋を回ったがどこにもいない。


 後残っているのは、俺の寝室と広間と玄関か。

 よし、俺の部屋だ。



 自室へ向かい、そっと扉を開ける。



「……なんで俺のベッドで寝てるんだ……」



 そこにいたのはシルだ。シルただ一人。

 すやすやと寝息を立て、とても幸せそうな表情で寝ている。


 おれの布団を顎あたりまで引き上げ、なんか匂い嗅いでる風にも見える。



 ……まあ無事だったからよしとしようか。

 それに嫌な予想が外れていて良かった。

 自分ちで宅飲み開催したはいいものの、気がついたら酔っぱらった男女があれやこれやをしていた時の気分なんて味わいたくない。



 あとはダンテか……。


 とりあえず厨房に向かおう。可能性はあるよな。お腹空いたからなにか探しに行ったとか。



 ……いないな。



 あとは玄関の方だけか? でもそんなところにいるはずないよな……。



 俺は玄関へと急ぐ。



 だがやはりいなかった。



 ただ、一つ気になってしまった。


 玄関の扉の隙間(・・)が開いていることに……。



「まさか、な」



 半信半疑で扉を開けると、お日様の日差しが雪に反射し、一面キラキラとした銀世界が広がっていた。


 ただ、玄関の目の前にそいつはいた。


 いや変な体勢で寝ていたのだ。


 一瞬死んでる?! とかって思ってちゃんと呼吸しているので生きていた。

 狼人は寒さ耐性でもあるのだろうか。



 いつからここで寝ていたのかは知らないが外で長時間寝てたら流石にダンテといえども死ぬかもしれない。

 とりあえず中に運ぶか……。



 脇の下を持ち、脚を引きづりながらだがなんとか家の中に運ぶ。

 少し雑に扱ったのにもかかわらず全く起きる気配がない。


 まあ生きてたからよしとしようか。





「はぁ……昨夜は一体なにが起こったのか…………」



 そうして俺は記憶の底を掘り返そうとする——。







続きは本日8/6中に更新すると思います!

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