銃剣
赤黒い皮膚を持ち、両手足は巨大な筋肉が発達している。人のサイズを軽く超す大斧を右手に所持し、血走った眼をこちらへ向けてくる。想像していたよりも面白い顔をしている。ただ…………
「こりゃあ•••••思ったよりもデカイな。」
少年は目の前に対峙する猿の化け物を見上げながら呟く。
でかい。そんな単純な感想しか出てこない。
「マスター、どうするのじゃ?」
その傍らで掌ほどの大きさの妖精が空中を飛んでいる。少女の姿をしたなんとも可愛らしい妖精だ。ふわふわと浮いているのがまた何とも愛らしい、と感じると思う。第三者なら。
「まぁ、やるしかねぇだろ。」
薄闇の森林地帯の真っ只中で人と妖精対大猿の戦いはいきなりきっておとされた。
少年は腰に一丁の銃、そして一本の剣を携えている。
風が吹き、鳥が鳴く。
「リリ!」
そう叫ぶと妖精は了解じゃ!と返し、小さな手を交差させる。
「第一魔法陣••••••展開!」
その言葉が発せられた瞬間、少年の足元に幾何学模様の魔法陣が展開された。
光り輝く魔法陣は少年の身体へと吸い込まれていくように消えていく。
少年の体から金色の光の粒子が漏れ出ている。
「じゃあ•••••行くぜ。」
銃と剣を両方抜き、戦闘態勢を取る。どうやら二つの武器を同時に使用する戦闘スタイルらしい。
少年が人間とは思えない速度で移動する。これはあの謎の魔法陣の力のようだ。
いつも通り。体が軽い。敵が良く見える。
大猿は斧を振り回し、接近させないよう試みるが、あまりにも速さの次元が違うため、何の意味も為していない。人間としての一般的な速度ならば、間違いなく大斧で一刀両断されるだろう。だが、今の少年には弄ぶほどに遅い。スローモーションかと思うくらいに。
少年は軽々と大猿の体に飛び乗り、左手に所持する長剣で両眼を斬る。容易い。
花弁のように鮮やかな血飛沫が舞う。
グオオオオオオオ。苦悶に満ちた叫び声が日が暮れかけた森の中に響き渡る。
あまりにも流れるような動きだったため、大猿には何が何だかわからなかっただろう。
少し余裕を見せ過ぎたと少年は気を引き締める。
そう。命は一瞬だ。一瞬で無くなってしまう。さっきまで話していても、思っていても、それが大切な人でも。
少年は先ほどよりも鋭い視線を大猿へ向ける。
そして、動く。
瞬足で駆ける少年は大猿の四肢を動かせないように封じるため、銃で撃ち抜き、剣で斬り刻む。
正確無比な銃撃。何もかも一刀両断する剣撃。
ただただ素晴らしいの一言だ。
彼の使用している銃はただの銃ではない。
鈍く光る金属の弾丸ではなく青白い光の弾が発砲されている。
魔力を放出する魔法銃。少年の持つ銃は闇のように漆黒の銃身だった。一度見れば目に焼き付くほどの存在感を放っている。
魔法銃の威力は銃本体の魔力貯蔵量によって変わるため、魔力の貯蔵量が多ければ多いほど強い武器だといっていい。
そんな少年の魔力弾はとてつもない威力で一撃受けただけで大猿は痛みで暴れ回っている。
「そろそろ終わらせようか。」
剣の色が赤く発光する。
少年は駆けた。もう瀕死のダメージで動くのも困難な大猿の心臓目掛けて紅蓮の剣を突き刺す。
左胸に大穴が開き、心臓はあっという間に溶けた。燃え上がるわけでもなくその存在を消されたのだ。
残された身体が崩れ落ちる。全てが黒い炭と化す。
陽は沈み、漆黒の世界が訪れる。
「今回も上出来じゃったな、マスター。」
妖精が少年の傍らに飛んできた。
「ああ、この程度ならな。問題はもっと上だろ?」
「うむうむ。あやつらを倒すため、わしらは腕を磨いてきたのじゃからな。」
「ああ、そのために俺は強くなった。」
少年は決意に満ちた表情で星空を見上げた。銃と剣を握るその両手には自然と力が入っていた。