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6、コンゼツ根絶計画  作者: 黒十二色
第三章 根絶計画を根絶計画
44/54

44、霊界刑務所の監視室で再会

 柊あんじぇらは、立ち止まった。

「ここが監視室みたい」

「たしかに、わかりやす過ぎるくらいに監視室って書いてあるね」

 江夏なつみが見上げた四角く茶色い扉には、男らしく荒々しい墨の文字で、『監視室』という巨大な三文字が踊る。

 旅館風の建物を出てから、黒い鳥居を抜けて、曲がりくねった雪降る草原を抜けて、二階建ての建物――屋上に多種多様なアンテナが大量に群がっている――に入った。六角形の扉を押し開け、石臼がある広場も無人だったので通り抜け、あんじぇらは桃井もこぴーから聞かされた分かりづらい説明を思い出しつつ、江夏なつみを導き、そしてこの霊界刑務所監視室に到着したのである。

 タイムリミットが設定されているため時間が惜しいと考えた江夏なつみは、心の中で少しだけ躊躇った後、どうにでもなれの心境でドアを叩いた。侵入者らしくドアを蹴破るという発想は、江夏には無かったらしい。

「もこぴーさん、どうだったですか」

 そんな声と共に扉が開く。中から見慣れた制服少女が顔を出した。聞き覚えのある、少し舌足らずな高い声。

「また、あいにゃんさんに、しぼられ――」

 時田まことは、そう言いかけ、息を飲み込み、言葉を失った。目の前に、居るはずのない人間が居たからだ。

「え……」

 監視室と言っても、あいにゃんが管理する総合監視室ではなく、ここは霊界刑務所で働く人たちの働きぶりや、脱獄の兆候を見張るところである。

 そこに時田まことが居て、江夏なつみは図らずも憎き女との再会を果たしたというわけだ。

「どうして……」

「最近、よく会うわね。仕事をやめさせてくれたこと、許したわけじゃないから、もう一発殴っていい?」

 そして柊あんじぇらも、時田まことに文句を言いたい一人だった。

「時田まことさん。話が違うじゃないですか。秋川くんが更生して、すぐに戻れるからって話だったのに」

「……お二人には、いくら頭を下げたところでどうにもならないですが、ごめんなさい」

 深々と。

 江夏は、まぁ反省してるんだったら良いかと思えるくらいには落ち着いていたし、そもそも仕事をやめさせられたことによって捗ったこともあるくらいだ。憎しみが無くなったとは到底言えないが、道端で時田まことを殴ったときのような激しい怒りは抱いていなかった。

 ――それに、今はそれよりも目的を果たさないといけない。

「これから、あたしたちは現世に戻るんだけど、一人、連れ帰らなきゃいけない人が居るの。そこの中に桃井もこぴーって人、いない?」

「え……もこぴーさんを現世に連れて行くということですか? 今、もこぴーさんは現世に出るの禁止されているですけど……」

「そうなんだ。まぁ禁止されてようが何だろうが、あたしにはそんなの関係ないし。要するに攫いに来たって話よ。居るの? もこぴーは」

「いえ、今は居ないです。ちょうど、あいにゃんさんに呼び出されて、監視室に……」

「え、監視室って、ここじゃないの?」

「ここも監視室ですけど、あいにゃんさんの画面いっぱいの方の監視室があるんです」

「そっか、じゃあさっさと誰かに見つかる前に、桃井もこぴーを連れ去るわよ!」

「誰かに見つかる前にって、すでに私に見つかってるです」

「うっさいなぁ。今は時田まことにかまってる暇は無いの。それじゃあね」

 江夏なつみが手を振って、柊あんじぇらが「今まで、ありがとう、さよなら」と、この現実とは違った世界で何不自由なく暮らせたことに対する感謝の呟きを見せつつ頭を下げた、その時であった。

「侵入者発見! もこぴー、突撃します!」

 桃井もこが、廊下をばたばたと走ってやって来た。

 が、侵入者の手前でべちゃりと転んで、「あうぅぅ、痛い……」と呟きながら起き上がり、膝をおさえて涙目になったりしていた。

 侵入者と脱走者が突然の展開に唖然としていると、今度は通路の向こうから騒ぎを聞きつけた半霊体の警備兵的な者が二名、近づいてくる。

「侵入者だと?」「どこだ、どこだ?」

 江夏なつみは、やばっ、と呟き梢ありっさの言葉を思い出す。

 ――そのサンダルひとつで、何とか戦ってちょうだい。

 かくして、あっさりと、本当にあっさりと、駆けつけた二人の半霊体の男は消滅した。

 繰り出された右足。サンダルを履いた足が触れた途端に、まるで体が煙になるようにして消滅した。

 悲鳴も、最後の言葉を残すことも、なにも出来ずに目の前から消えた。

 驚きを隠せない柊あんじぇらと、半霊体女二人。

 蹴飛ばした江夏自身も、まさかここまで簡単に相手が消えるなんて思っておらず、いくら身を守るためとはいえ存在を消してしまったことに戸惑っていた。頭ではわかっていても、どこかが納得できなかった。

「何、これ」

 そう言ったのは江夏なつみだ。

 江夏は、やはり何かの最期の瞬間には最期なりの輝きがあって然るべきだと考えているようだ。退場の瞬間にはドラマがあるべきだと。こんな、今までそこに誰も居なかったかのような消え方は納得いかなかった、ということだろう。しかし、それが無ければ警備の二人に何をされていたか知れたものではない。

「消え……ましたね、もしかして、私が現世から消えた時も、こういう感じだったのかな」

 そんな柊あんじぇらの言葉に、時田まことは考え込む表情のまま首を横に振った。

 と、そんなタイミングで、この微妙に辛気臭い雰囲気が嫌いそうな桃井が、こう言った。

「そういえば、二人の人が消えたの見て思い出したんですけど、あんじぇらさんのお姉さんが、いま霊界刑務所に服役中みたいなんですけど、会いますか? やっぱり、お姉さんには会いたいものだと思うんですが」

「え、お姉ちゃんが?」

「はい、楓まちるださんは、虚言女という罪状でインザプリズンです!」

「もこぴーさん、何でそんなにテンション高いですか?」

「なんと、まこぽん。それは節穴ですね。果たしてもこぴー、テンション高いでしょうか。これでも、あいにゃんにこっぴどく叱られたから元気ない日なんですよっ」

 その時ようやく江夏は気付いた。

「もこぴー? って、もしかして、桃井もこって、あなたのこと?」

 江夏は、ポケットから鉛筆書きの絵を取り出し、紙の上に描かれた女の子と目の前のテンション高い子を見比べる。確かに、似ているというか、本人にしか見えなかった。

 どうするべきなんだろうかと悩む江夏を尻目に、あんじぇら、まこと、桃井もこでの会話が続く。

「ていうか、お二人に質問なんですけど、刑務所って、どういうことですか?」

「それはですねー。まこぽん、お願いします」

「え? 私が説明するですか? まぁ、簡単に言えば、現世であまりに更生不能な酷いことになった人々を収容して強制労働させるところです」

「ほほう、そうだったんですか」

「って、もこぴー、知らないで監視監督とかしてたわけです?」

「はい! 恥ずかしながら!」

 ニコニコしていた。

 あんじぇらは振り返って、悩んだような表情をしている江夏を見つめ、

「あの、江夏さん」

 すると江夏は顔を上げ、「え、は、はい?」と戸惑ったような返事をする。

「姉も、連れ帰るっていうのは、ダメでしょうか?」

「うーん、いいんじゃないかな。あんじぇらのお姉さんなら、きっと良い人だろうし」

「じゃあ、皆で刑務所に行きましょう! レッツゴー!」

「何でもこぴーさんが仕切ってるですか?」

 時田まことはそう言って呆れた。



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