43、もこぴーを呼び出し
霊界警察本部の建物内には、二つの監視室がある。ひとつは、あいにゃんの居る総合的な監視室。そして、もう一つが、桃井もこおよび時田まことが使う、霊界刑務所を監視する部屋である。
総合的な監視室の方に、桃井もこは呼び出されていた。いつものように、刑務所で自ら率先して働いていたもこぴーのところに、あいにゃんからの呼び出しの放送が入って、もこぴーは「何でしょうかねー」と微妙に嬉しそうに駆けつけたのだった。
「もこぴー。何で呼び出されたか、わかってるわよね」
「へ? わかんないです」
突然のことで、桃井もこはわけがわからない様子でキョトンとした。
すると、あいにゃんは、怒りよりも呆れの色を込めたような溜息を吐いて、
「霊界の出入り口、教えたでしょ。誰かに」
桃井もこはしばし考え込み、そういえば、と思いつく。
「でも、梢さんは、そういうの秘密にしてくれる良い人ですよ?」
「じゃあ何で侵入者があるんだろうね」
あいにゃんは、もこぴーをジトっとした目で見つめたまま、数多並ぶモニタの一つを指差した。そこには柊あんじぇらと共に旅館風建築物の廊下をコソコソしながら歩く江夏なつみが居た。
「もこぴーのせいですか?」
「それ以外の誰のせいか! 馬鹿か!」
「あいにゃん、興奮しすぎだよ」
「もこぴー、根絶計画を何だと思ってるの。現世に情報を横流ししたら私がもみ消さなきゃ上の連中にバレて……そんなことになったら大変なことになるんだよ」
「上の連中って何ですか? 大変て何がですか?」
「教えたよねぇ、以前」
「ぜんぜん憶えてないです」
「上ってのは、ここ一階の上、二階に住んでる霊界の支配者のことよ。大変なことってのは、下手すると大穴に落とされるってこと」
「大穴って、橋渡ってすぐのところにある、底の見えないでっかい穴のことですか。あそこに落とされるとどうなるんでしょう?」
「ここより酷い地獄行きだよ」
「わあ、実在したんですか。地獄って」
「もこぴーみたいなダメな子が地獄行きにならないってどうかしてるけどね」
「どうやって地獄に行くとか行かないとか決めるんです?」
「上の一存」
「ほほう、霊界の支配者ですね。悪いやつなんですね」
「そうね。もこぴーをのさばらせておくような悪いやつだとは思うけど、私が上にもこぴーが最悪だってありのまま報告すれば、たぶん地獄におちるよ」
「へへっ、地獄は嫌です」
「何でへらへらしてられるの。こっちは怒ってんのよ?」
「でも冗談じゃなくて、本当に気になるんですけど、一体何をやったら地獄行きになるんですか?」
「うーん、それは、もこぴーに教えると、色んな人にしゃべるから教えたくない」
「でも、ほら、どうすれば地獄行きになるかっていう明確な基準を設ければ、脅しみたいな感じになるんじゃないですか。そうすれば、きっと悪いことする人も減って……」
「いや、余程のことをしない限り地獄行きにならないとなれば、小さな悪事とか、もこぴーやまこたんみたいに言うこと聞かないやつらが高速増殖しちゃうでしょ」
「そうなんですか?」
「そうなのよ」
「もこぴー、地獄には行きたくないです」
「そりゃね。誰だってね」
「とにかく、私たちは人助けをする存在であって人を苦しめてはならないってこと。そもそも根絶計画というのは救うことが目的なの。人々を救って救って、救い続けること。永遠にね。それが根絶計画」
「なるほど、そうだったんですね!」
「少なくとも、私とまいぬーは、そう思って取り組んでる。救い続けることが救いだってね。だから、あんたみたいな何もわかろうとしない馬鹿は、ちょっとむかつくわけ」
「……もこぴー、馬鹿なんでしょうか」
「大馬鹿だよ!」
「でも、友達同士でバカバカって言い合うのって、仲良くてほほえましいじゃれあいって感じですよね」
「どこまでポジティヴなんだよ!」
「あいにゃん、ハッスルしすぎだよー」
「とにかく、責任はもこぴーにあるわけ。取り返してきなさい」
「取り返す……というと、今からまいぬーを連れて現世に行って、梢さんの記憶を消して来いということでしょうか。それはお断りです!」
「何から何まで間違ってるよ! 馬鹿かよ! いい加減にしろ!」
「うん? 違うなら、何が言いたいんでしょうか」
「梢ありっさの記憶を消すなんて返り討ちに遭うから不可能だって前にも言ったし。そのことはもう仕方ないから、侵入者を現世に追い返して、収容所から脱走した柊あんじぇらを連れ戻すこと。あんたがやることはそれだけでいい」
「そんなにいっぱい一気に言われても、わかんないですよ」
あいにゃんは、もこぴーをドスンとどついた。
「あうっ、あいにゃんこわい……」
「くたばれ!」
「もう半分くらいくたばってますけど……」
「そうだけど、ああもう。何だろうねぇ、とにかく、もこぴーは、あの侵入者を捕まえなさい!」
「はい! やってみます!」
桃井もこは、画面いっぱいの監視室を出た。




