40、赤い門
ピラミッド型の丘だった。頂上部分は平たくなっている。平たいところの面積は、バスケットコートくらいあり、四方にはベンチがある。
かつて、秋川あきひとの目の前で女が消滅した場所であり、春木すばるあたりは、この丘の上で夕日を横顔に浴びながら何人の女の唇を奪ったことだろうか。
冬に見るときとは、全く違った姿を見せている丘。樹木が生い茂り、動物が駆け回っていたりもする。虫だって活動して、小鳥が休んだりもしている。夜だというのに体内時計が狂ったセミが、まさに狂ったように存在を叫びまくっていたりもする。
街灯が一つだけあるのみの広場。夜にはカップルがイチャついていることもある広場。
しかし、この日は誰も居なかった。
皆、先祖の霊を迎えているような日であり、墓参りをしたりする日でもあるし、あまりの蚊の多さにうんざりして夏場は誰も近づきたがらないないこともある。
ともかく、そこに梢ありっさと、春木、江夏の三人が立った。
四方に置かれているベンチがあり、占い師は、そうするのが落ち着くのか四方に銀色ライターの火を点した蝋燭を立てた。その怪しい行動に特にトリガーの役割があるわけでもなく何もしなくても良かったのだが、梢ありっさ的にはそうしたい気分だったのだろう。とにかく条件は満たされていた。
霊界への扉の開き方。
ライターの炎がもっとも大きくなる場所に立ち、そこで示されるヒントをもとに、門が隠されている場所に行く、行くだけで門が目に見える形で現れる。
東洋的な赤い門だった。日本人にとっては、非常に見慣れた形であり、よく寺などに行くと風神雷神像とかがあったりする門。
門からは、透明度の高い、青白い火の玉がいくつもユラユラと出入りしていた。出て来た火の玉は、空にゆっくりと小さな気球のように次々に舞い上がって行く。
「あれは、いきものの魂だね。今は夏で、そういう時期だから、子孫のもとに向かう魂たちさ」
「きれいだな、江夏」
「うん」
「でも、江夏だって負けてないぞ。江夏はいつだって……」
「はいそこ、ヒトの解説無視して口説かない」
「なに、ほんの冗談だ。ちょっと現実逃避したくてな」
春木すばるは肩をすくめてみせた。
「でも、本当に綺麗だね。人が死ぬと、ああなるの?」
「命あるものは、最終究極的に、あれになるね。実態の無い炎のように見えるもの。あれが霊体ってやつさ」
「じゃあ、霊体になれば、空飛べたり、壁すり抜けたりできるんだ」
「そうだけど、面白くないね。結局、私らからしたら次元が違うっていうのかな、みんな一様に同じような炎にしか見えないし、声も出せないから。その点、半霊体の桃井みたいな子は人間を色濃く残してるからね、ものによっちゃあ面白いのよ」
「なるほど」
「さ、そういうわけで、準備はいい? ごらんの通り、門は普段以上に開け放たれている。タイムリミットは二日後の夜。それを過ぎても、門が完全に閉じることはないけれど、それまでに、もう一度この門をくぐってこっちに戻ってこない場合、検問みたいのがはじまっちまう。そうなったら、あんじぇらも桃井も、こっちに戻って来れない可能性があるから注意するんだよ」
「わかった。できるだけ早く二人を連れて戻ってくればいいのね」
「そういうこと。私がやれることは、もうほぼ無いから。そのサンダルひとつで何とか戦ってちょうだい」
「うん。あんじぇらが戻れば秋川はちゃんとなるはずだから。何とか連れ帰ってみせるよ」
「やる気になってくれて嬉しいよ」
「それじゃ行ってきます。梢さん。ついでに春木くんも」
「いってらっしゃい」
「ついでって……ひでえなぁ。僕は世界で一番江夏を応援してるのに」
「あんがと。そいじゃね」
江夏なつみは火の玉をうっとうしそうに払いのけながら、あっさりと門を通り過ぎて行き、すぐに見えなくなった。
「さすがね、江夏なつみ」
「何がさすがなんだ、ありっさ」
「そうね、すばるにはわからないだろうけど、普通の人はあんな風にモロに大量の霊体に触れたら、唐辛子を傷口に塗りこまれたような激しい痛みに襲われて、それが二日間くらい続いたりするんだ。彼女の場合は、それがない」
「なるほど。つまり、それほどの……何て言ったらいいんだ? 特殊体質みたいなもんか?」
「そうとも言えるけど、単純に、霊界と縁が深いからでしょうね」
「それってのは……どういうことだ?」
「さぁ、占いでそういう感じの暗示が出ただけで、詳しいことは私にも、ね」




