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6、コンゼツ根絶計画  作者: 黒十二色
第三章 根絶計画を根絶計画
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36、誰に似たんだか

 少しだけ自分の写真が増えた居間に招かれた江夏なつみは、出されたお茶や大好きな菓子に口をつける前に、あらためて謝罪を表明した。

 土下座である。

 畳に頭を押し付けて、くぐもった声を出す。

「ごめんなさい」

 母は、「顔を上げなさい」と言った。

「はいっ」

 娘はピッと背筋を伸ばした。

「手紙で送ってきたのは、大半が嘘よね」

「うん。ごめん」

「一緒に逃げた男とは?」

「一緒に暮らしてる」

「ちゃんと、ごはん食べてる?」

「うん。自炊できるようになった」

「仕事は?」

「んーと、クビになっちった」

「何の仕事してたの?」

「んと……えと……」

「そういう仕事ね。格好を見ればわかるわ。高いものばかり」

「え、そうかな? 地味にしてきたけど」

「はぁ……育て方、まちがったかしら」

「ううん、そんなことない!」

「それは、なつみが言うことじゃないのよ」

「でも、そうするしか、生きていく道なんて……」

「相手の人は、何の仕事してんの?」

「…………えーっとねぇ、アルバイ――」

「何もしてないのね。顔に書いてある」

「ごめん」

「それで、お金に困って、うちに来たわけ?」

「ちがう!」

「じゃあ何で」

「やっぱり、おかあさんに会って……きっと、認めてもらいたくて……」

「何を」

「あたしと、秋川のこと」

「秋川っていうのが、相手の男の名前ね。でも、認めるも何も、どうして相手の男はここに居ないの」

「骨折して入院してる」

「骨折……。あんたまさか、そういうヤクザなことに関わってるんじゃないでしょうね」

「ちがう。あたしが折ったの」

「ん?」

「蹴飛ばしたら、こう、背中から押入れのふすまに突っ込んでね、手をついた時に、ボキッって。ちゃんと食べさせてたつもりなんだけど、骨密度が低かったのかな」

「なつみ。あんた、変わらないのね」

「そう……かな。友達には、変わったって言われたけど……」

「ぜーんぜん。子供のまんま。なんか、心配してて損したけど、そんな子供っぽいんじゃ、またさらに心配だわ」

「えへへ」

「何で笑ってんのよ」

「心配してもらっちった」

「馬鹿じゃないの」

「ごめん、馬鹿で」

「まあ、元気そうで良かった。でも、これからどうするの? こっちに戻ってくる?」

 しかし、江夏は頭を振った。

「向こうで暮らすとしても、やっていけるの? 仕事ないんじゃ、難しいんじゃないの?」

「ううん。さすがに、秋川も、今回は、立ち上がってくれるはずだから」

「時代が時代だしねぇ、そう簡単にはいかないだろうし」

「あたしも、仕事探すし」

「次は変な仕事はやめなね。身を滅ぼすから」

「うん」

「どうせ口だけなんだろうけど」

「ううん。そんなことないよ。なんていうか、秋川次第っていうか……」

「どういうこと?」

「だからね、秋川が、働いてくれれば、私も普通のパートとかでも大丈夫かなぁって……」

「秋川って人は、大学は卒業してるの?」

「あー……えっとねぇ……」

「してないんだね」

「うん、中卒」

「中卒ゥ?」

「いや、だって、その……」

「なつみ。あんた、それ絶対後悔することになるから。できれば、その人とは別れて欲しいわ」

「…………」

「お見合いでもしない? 良い人探してくるよ?」

 江夏なつみは、頭をぶんぶん振って、

「好きなの。秋川が」

 母は、呆れて溜息を吐いた。

「まったく、誰に似たんだかねぇ。確か、あんたのお父さんの母親……つまり、私の姑さん。なつみから見ると、お祖母ちゃんだね。その人がね、そういう人だって話は聞いたことあるよ。しばらくお父さんのことを育てた後に行方不明になって、たぶん男と逃げたんだろうって話。その後は、どこぞで死んだんだか」

「ああ、それで、あんまりお祖母ちゃんの話、してくれなかったんだ」

「そりゃね、似ちゃったらヤバイとか思ったんだけどね、似ないように頑張ったけど似ちゃったね。まったく」

「ごめんなさい」

「なんか、私ばっかり損してる気がする。皆勝手気ままで、可愛いのはミユちゃんだけだね」

 ミユちゃん。メスの三毛猫である。この時、江夏の母と一人と一匹暮らしであった。

「ミユ、としとったね。いくつになる?」

「あんたが小学生の頃に拾ってきてから、もう十五、六年かな」

「そっか……それじゃあ、もう、だいぶいい年だよね」

「まーったく、拾ってきたのに、ほっぽらかしてどっか行くなんてねぇ。父親似なところもあるね」

「あー……」

「まぁ、あの世に行ったわけでもないから、あんま似てないか」

「お母さん」

「何よ」

「ごめんなさい」

「まったく、何度謝られても足りないし、どうせ『ごめん』とか言ったからって、私の言うとおりになんか絶対にしないんでしょ。もう知らないわよ。時々連絡よこせばいいから、勝手に生きてちょうだい」

「本当に、ごめんなさい。いままで、ありがとうございました」

「うん。でも、まぁ、部屋はそのままにしとくし、いつでも帰ってきていいからね。それから、秋川って人、怪我が治ったら一回だけでいいから連れて来なさいね」

「ん、あー、連れてきてもいいけど、あんまり叱らないであげてね。繊細な人だから」

「ところで、秋川って人の、親御さんは?」

「えっとね、ご両親が、いたはずなんだけど」

「けど?」

「いないことになったみたい」

「はぁ。何それ」

「あたしもよくわかんないけど、秋川の家、ずっと空き家でさぁ、たぶんなんだけど、家族みんな秋川のこと忘れちゃって、どっかに散ってったんじゃないかな」

「そりゃね、息子が女の子連れて逃げたとあっちゃあ、その家には居られないかもね」

「うん……」

「なつみ」

「なに。お母さん」

「今日一日くらい泊まっていくんでしょ?」

「ん、いいの?」

「まったく。別に、何泊だってしていいんだよ。ここはあんたの家でもあるんだから。まぁ、遺産はミユちゃんに相続しちゃうけどねー」

「うわ、あたし、猫以下?」

「そうよ。ずっと家に居なかったんだから。でも、ま、お金とか必要になったら、ちょっとくらいなら貸せるからね」

「わ、そっか。じゃあ本当に困ったら、遠慮なく頼るね」

「うん。まぁ、頑張りな」

「……ありがとう。お母さん」



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