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6、コンゼツ根絶計画  作者: 黒十二色
第二章 自殺者根絶計画
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31、霊界警察のはいりかた

 あい。名字は無い。それがあいにゃんの本名である。

 かつて、まいぬーがまだ生きていた頃に自殺者根絶計画を担当していた。その頃には既に半霊体だったあいにゃん。そのあいにゃんの失敗によって、まいぬーが霊界入りすることになった。

 つまり遥か昔に、あいにゃんも自殺しようとする人を助けようという地獄のような仕事をしたことがあったということ。しかし、当時未熟だったあいにゃんは半霊体の体を上手くコントロールできず、たとえば掴もうとした腕は虚しく透けて、対象は地上十五メートルくらいの屋根の上から落ちていった。松の根元で、その生を終えてしまう、なんてことがあったりもした。打ち所が悪ければ、死んでしまうものだ。まして子供なら尚更。いろいろな事情があるにせよ、自分が説得を試みながら死への跳躍をさせてしまったことが、あいにゃんを苦しめた。

 それでも、誰か一人を救うまで気が晴れない。この世に自分が居る意味がない。ノルマは果たせない。

 やがて、あいにゃんは自分ひとりに責任があるような気がして、それが嫌で、協力者を探した。見つけた。それが、まいぬーだった。もう遥か昔。人々が刀で戦う戦国時代。

 夫に先立たれ、暇をもてあましていた現代で言うところの十五歳くらいの女。江戸原まい。まいぬーの本名である。

 子供も居らず若いこともあって、散々だまされて土地などの夫が遺した財産を手放してしまった江戸原まい。

 実家の農家を手伝っていた彼女に目をつけたあいにゃんは、自分に協力してくれるよう頼んだ。よくわからないながらも引き受けた江戸原まいは、自殺者の説得をするようになる。

 当時で言えば、自殺者というのは切腹が多かった。

 江戸原まいは運が悪かった。いや、その当時から半霊体という体ながら意識を持ってこられたのだから、逆にラッキーであるという見方もできなくはないけれど、やはり大きな痛みを浴びたのだから運が悪いのではないかと思う。

 とある武士の切腹を、力づくで止めようとした江戸原まい。

 しかし、畳の上、「武士の切腹を邪魔するな」と、腹を切るはずだった小刀で刺されてしまった。

 ゴミのようにして、介錯人の手によって外に投げられた。

 あいは、庭の上、慌ててまいを助けようと、一旦、魂を霊界へと移送しようとした。体が滅んでも、魂だけでも守ろうと。無理矢理引き剥がした。しかし、剥がしている途中に命を落とし、遺体はそのへんの山に埋められた。これで帰る場所を失った半霊体の完成である。

 霊体というのは、もう実体を伴っていない魂のカタマリであるが、半霊体の場合は、肉体の形状を留め、現世にいつでも再現可能になり、さらに霊界にも行ける。ただ、半霊体であると死後の世界にはどんなに頑張っても行くことができない。霊界と呼ばれている領域どまりである。

 なお、柊あんじぇらが霊界で暮らしているが、あんじぇらの場合は霊でも半霊体でもない。もともとの肉体を持ったまま霊界に居るのだ。ところで、余談ではあるが、あんじぇらが霊界の食べ物を口にした場合、半霊体になってしまうため、あんじぇらが食べるのはすべて現世のものである。現世と霊界は隣り合わせで存在しているので、物質の横断は不可能ではないのだ。日本の最高学府の赤門に似ている特別な門を通り抜ける必要があり、半霊体になって根絶計画を執行する者なば、皆、その門を自在に呼び出したり開閉したりする力が備わっている。

 何故そんなことができるのかと言えば、そういう風に世界をカスタマイズした者が居るからとしか言いようがない。霊界は本来生身で居られる場所ではなく、死後の世界との中間に位置する場所。霊界自体が、二つの世を架ける橋のような境界空間であり、元は何もなかったその場所に、ひとつの街のような世界を築いて根絶計画なんてものを執り行う者が生まれ、その者たちが生身の肉体を持った者でも霊界に入れる入り口を作ったということである。

 一体、その者たちは何者で、いつどのようにして生まれたのか。それは、大半の半霊体が知らないことである。

 なお、桃井もこはどのようにして半霊体になってしまったのかというと、今度はまいぬーのせいである。実は、まいぬーの自殺者根絶計画は、二度目であり、一度目に桃井もこを半霊体にしてしまうという失敗をしている。

 いつしか、あいにゃんの常套手段になったのは、「大事な相手に消滅の呪いをかけますよ」と脅して、対象が大事に思っている人を霊界にある現世人も住める場所へと誘拐して戒めるというもの。その常套手段が固まっていない頃のことである。

 病院に入院していた男は、いつも明るく振舞う桃井もこのことを本当に大事に思っていた。恋というやつである。

 桃井もこは、そんなことには全く気付かなかったし、気付いたところで、桃井の病はもう治るものでもなくて、ただ死を待つ身だった。

 桃井の病が治らないことを知った信心深い男は、「神様、どうか、私めが死ぬかわりに、桃井さんを助けてやってください」などと呟き、生贄気取りで死のうとしていた。

 そこに駆けつけたのが、まいぬーであり、まいぬーは「そんなことしても無駄なんだよ。馬鹿なことはよせ」と言ってピシャリと殴りつけてやりたかったものの、事前にあいにゃんから「試したいことがあるから、協力して欲しい」と言われており、その通りに行動する。対象の桃井もこを霊界に誘拐する申請を、当時すでに監視人となっていたあいにゃんに出していた。

 まいぬーが、「お前が自殺しようってんなら、お前の大事な人を消すぞ」と脅しているのと同時進行で、あいにゃんは消滅の呪いをかけて、桃井を霊界へと招き入れようと赤い門を開く。桃井もこは体ごとその場所を抜けようとする最中だった。桃井もこは、消滅のために体が透け始めたそのときに、十七歳という若すぎる寿命を迎えた。

 消滅の呪いというのは、まず人間一人という存在をぶっこ抜いて霊と肉体を分解。そして、別々のまま門を通して霊界で再構成するという手法をとる。その工程はほんの刹那だが、その僅かな瞬間に肉体が欠損してしまった時に、半霊体が出来上がるのだ。

 桃井もこは消滅しかけたところで消えたので、体の形を留めたまま生ける屍として現世に残った。どちらかと言うと、門の中ごろ現世寄りだったので、体が現世に残ってしまったのである。ちなみに時田まことの場合は、同じ消滅しかけでも少し違っていて、体の大半が霊界側に行っていた時に死の瞬間を迎えたため、より現世での存在が希薄になりやすく、霊体化よりも実体化の方が難しいのだという。

 そして、男は「いとしの桃井もこちゃんが消されてはたまらない」と自殺を思い留まり、自殺阻止が成功。以後この手法があいにゃんの手によってマニュアル化されることになる。

 ともあれ、こうして実験の果てに桃井もこは死んで半霊体となったのに死んでないことにされ、病院のベッドの上でずっと老いないままで眠っていた。

 その間、あいまいコンビは、自殺者根絶が成功したことの解放感に浮かれていたこともあり、桃井もこが死んだとは夢にも思わずに放置。やがて、あいにゃんが異常なログに気付いて桃井もこを迎えに行くのだが、それまで何年も放置し続けてしまった。

 ようやく桃井もこの体を迎えに行き、桃井の周囲の人間どもの記憶を消し、桃井は霊界にて根絶計画の任についた。

 というわけで半霊体になる条件というのは、一つ目、体から魂を引き剥がされている途中で肉体の命を失う。二つ目、霊界へと連れて行かれる門の途中に差し掛かった時――この時、肉体は半透明になる――に命を失う。三つ目、生身の人間が霊界の食べ物を口にする。この三つが大半である。

 消えかけの肉体で命を失い、年齢を固定されて永遠に生き続ける存在になる。それが、霊界警察入りの資格なのである。



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