21、嶋ちゃんと桂さん
「やっと、見つけた」
ファミリーレストランの喧騒の中、メガネを持ち上げながら、嶋縞子が呟いた。
レンズ越しに見えるのは、かつて親友が居なくなった際に教室に来て、彼女を屋上に連れて行った女。当時はずいぶん大人びた人だと思った。同じ学年にあんな人がいるとは思えなかったので、不法侵入者だっただろうと考える。事実、時田まことが消えてから、視界の彼女ともう一人、胸が大きくて背が小さい女を見ることは無かった。
居なくなったはずの時田まことを学園内で見かけることもあったが、おそるおそる話しかけても逃げるように消えてしまい、メガネをはずして目をこすっても、彼女が再び現れることなく、かといって目の錯覚と言うには鮮明で、あたまがおかしくなりそうだった。
嶋縞子が時田まことの存在を知っている理由は、彼女の趣味と日課によるものだ。
縞子は、絵を描くのが好きで、暇さえあれば鉛筆を動かしている女だった。彼女は、時田まことに絵のモデルをお願いしていて実にそっくりな精緻な似顔絵を何枚も何枚も残していた。さらに日課にしているのは、日記である。縞子は学生時代、ものすごい病的なまでにマメな女で、一日の全記録を文章と絵で普通よりも詳細に記録していた。
縞子もそれなりに関わった人間であると考え、まいぬーが記憶を消したが、日記や絵画までは消さなかった。まいぬーの持つ能力では記憶は消せても記録は消せないので、残った。
その絵と日記を見て時田まことの存在を考え出した縞子は、調査を開始した。
物証があるならば焼却するのが霊界警察のルールである。よって、これはあいにゃん、まいぬー、もこぴーという三人組の単純ミスとも言えるだろう。
さて、嶋縞子が見つけた人物は、桂はんなというフリーターだった。ファミリーレストランでアルバイトを続ける一般人である。名札を見るまでは名前も知らなかったが、縞子の手元にある絵日記の一ページに殴り描かれた絵の面影が色濃く残っている。ほくろの位置も一致した。
縞子は、手元と遠くのテーブルで食器を下げる桂はんなを見比べて、自らが記憶のない期間に描いたのが彼女であると確信する。絶対に、時田まことへの手がかりがあると考える。
音符マークのついた注文ボタンを押す。
「はーい、只今うかがいまーす」
桂はんながそう言って、食器をすべて奥に運んだ後、やってくる。リモコンのような機械を取り出しながら、
「ご注文ですかー?」
縞子はメガネポジションを整えてから、こう言った。
「時田まことを、どうしたの?」
「へ?」
わけがわからないといった様子で首を傾げる桂はんなに向けて、もう一度、
「時田まこと、知ってるでしょ?」
桂はんなは、さすがに困惑して顔を歪めた。
縞子の目的は、仇討ちである。消えてしまった親友。周囲の記憶からも消えてしまって、周囲の人々に訴えても最初からクラスに居なかったと取り合えってもらえなかった日々。やがては時田まことが幽霊や悪霊や七不思議の類だと皆から思われてしまった。縞子には、それが許せなかった。
大好きな親友だった。いつも一緒に過ごしていた。ケンカした日もあったけど、そのたび絆が深まった。そういう記録が絵日記にあった。本当に楽しそうな筆致が多かった。でも、縞子の記憶の中にはそんな日々は残っていない。ごっそり抜け落ちているかのようだった。
数年前の十二月上旬。時田まことが消える直前に現れたのは、二人の女。片方は、大人っぽくてしっかりしてそうな女で、もう片方はオマケでついてきたような挙動不審の巨乳ロリ。二人ともスリッパを履いていたから不審に思ったと記録にある。
「時田まことのこと、憶えてないの?」
「溶き卵?」
「時田まことよ。腰くらいまでしか身長なくて、ちっちゃくて可愛い、目に入れても痛くないような私の親友。あんたたちが来てすぐに居なくなったってことは、あんたたちが何かしたってことでしょう?」
「すみません、お客様、何が何だか……」
「あんたが、殺したのか!」
「は?」




