17、車内にて
流れる車窓。
国産車は細い道から街道へと出たところだった。
「春木くん、おろして」
江夏なつみは、春木すばるの運転する車に乗っていた。
そもそも、連れ出してくれなんてお願いしたわけじゃなかった。無理矢理お姫様抱っこされて助手席に押し込まれたのだ。
しかし春木は、「ダメだ」という。
「…………」
江夏なつみは黙り込んだ。
「死のうかな、とか考えてる顔だ」
「そんなこと……」
まったく考えておらず、春木の考えすぎだった。
「しかしまぁ、何だって秋川は、あんなクズになって」
「……………………」
「なんだ、この期に及んで、まだ信じてるのか? 江夏とは何もしない、江夏の居ない間に女呼んで遊んでる。いくらなんでもクズすぎる」
「あ、部長、信号」
赤信号を見落として思い切り素通りしてしまった。クラクションが響いたが幸運にも激突することは無かった。事故らなかったから良かったものの、ひどいミスだった。
「おっと、しまった……あぶないとこだ」
「落ち着いてよ」
「ていうか、なんで江夏は落ち着いていられるんだ。何であいつのために江夏の大事な人生を……。そんなすごいやつなのか? あのバカが」
「……まぁ、そうだね。やさしいけど、あんま頭よくない人」
そして江夏は、流れる風景を見つめながら昔話をはじめる。
「昔、んと、中三くらいかな。あたしがカテキョの大学生と付き合ってる、なんて噂が流れた時に、ちょっと学校で立場なくしかけてたんだ。なんでか、みんなよそよそしくなっちゃって。汚いようなもんでも見るような目で。でも、秋川だけは、ちゃんと普通に接してくれたっていうかね……あいつ、昔っから遅刻魔でさ、朝の微妙な雰囲気とか読めないやつでさ、とにかくいい加減で、あの遅刻の数みたらわかるでしょ。自由なやつなのよ。それで、あたしを避ける微妙な空気の中、遅刻して来た秋川が、何て言ったと思う?」
信号が赤で、車が止まった。今度は見落とさなかった。
「…………さあ、見当もつかないな」
「『なんか江夏孤立してねぇ?』って言ったの。おっきな声で。何言うんだこのバカはって思ったけど、見たまんまを言っちゃう空気の読めなさがあってね、実際、あたしはそれですごい救われたんだけど、その時から、秋川のこと意識しはじめてさ、その日から秋川のこと蹴飛ばすようになって……うん、でも最近蹴ってないから、久々に蹴りたいなって思う。最後に蹴飛ばしたのは、高校時代だったかなぁ」
信号が、青になって、車が走り出した。
「本当に、好きなんだな」
「そう。だから、Uターンして。おねがいっ」
「ま、事情きいてからでも、遅くはないか」
「うんうん」
「だけどさ、江夏」
「なに、春木くん」
「さっき扉を蹴飛ばした時の蹴りよりも、だいぶ弱めた方がいいぞ。愛する人を失うことになりかねないから」
「それは、秋川次第かな」
「はは、なるほど」
車は、右に旋回する。
街道の反対車線に乗った。




