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第3話 新しい家族

我が家も建ってから数年が過ぎ、花壇や植木で庭が賑わうようになったが、それでも庭の中心はクンクンであった。庭のことなら家族の中ではクンクンが一番知っていると思う。犬小屋だけでなく木陰、縁台、あらゆる場所がクンクンの領域だった。トイレもいたるところでするし、時には花壇に入っていたずらをしていたり。夏の暑い日は木陰で少し土を掘ったその上にいる。この少し土を掘るというのがミソで、僕もやってみてわかったのだが、熱くなっている表面とは違い、掘った中の土はひんやりとしているのだ。特に誰かが教えたわけではない。さすがの智恵である。でもあっちこっち掘り散らかすものだから、掘られては父が埋め直す、の繰り返しだったのが滑稽だった。

冬の寒い日は日当たりのいい縁台で時々あくびなんかしながら寝そべっている。

以外と犬小屋にいないので、なんでかなと思ったのだが、実は犬小屋は夏は暑く、冬は寒いのだ。

夏は熱がこもり、冬は冷気が入り込み、夏は暖房、冬は冷房という冷暖房完備の犬小屋になってしまっていた。なんとかしてあげようと家族であれこれ考え、まず夏は犬小屋の横の壁を外して熱がこもらないようにした。蚊が犬小屋に入るので蚊取り線香をたくようにもした。冬は犬小屋の中には毛布を敷き、入り口はカーテンを付けて冷気が入らないようにした。ちなみに横の壁は冬は打ち付けている。もう至れり尽くせり。それ以来、犬小屋によくいるようになったがある時、クンクンの姿が見えなくなってしまった。犬小屋にはいないし、庭を探し回ったところ、なんと縁台の下にいた。しかも様子がおかしかった。声をかけて覗こうとすると、牙を剥いて

「ウー」

と低い声をだすのだ。何が起きたのかがわからない。僕なんかクンクンのその様子にビックリしてしまった。

「子犬がいるよ。」そう叫んだのは姉だった。よくみるとクンクン後ろに隠れるようにして子犬がいた。その数5匹。ある日突然5匹もの子犬が庭の縁台の下にいるのを見てびっくりしない人はいないだろう。家族は大騒ぎだった。

生まれて間もないころは子犬は母であるクンクンの後ろに隠れ、覗こうとしても母犬が文字通り睨みをきかせているので、子犬を見ることはあまりできなった。

それにしても縁台の下とはよく考えたものである。縁台の下というと狭いように思うが、クンクンは準備よく下の土を掘り下げていたので意外と空間があった。またさらに縁台が屋根のように覆ってくれていて、中を伺う人達から守れる様になっていた。

それでも子犬が歩き回るようになるとクンクンも以前の穏やかな顔に戻った。僕たちが子犬を抱き上げたりしても、側で目を細めて見ていた。もちろん、子犬同士がケンカしたり、いたずらをしたりすると、側に行って言い聞かせるような仕種を見せるところは母親の姿だった。

動物(人間も含めて)の子供というのは本当に可愛いものである。子犬がじゃれあっているシーンなどは本当に可愛い。今その光景が目の前にあるのだ。僕はこの子犬を手放したくないと思った。でもそうはいかないのが現実だった。親子合わせて6匹の犬を飼うのは我が家では無理だった。子犬にはもう相当愛着があった。

「飼おうよ。みんなで世話すれば大丈夫だよ。」

僕は子供心に勝手なことを言っていたのだが、結局、飼ってくれる人を探そうということになった。かわいがってくれる家にもらってもらおうと、家族は奔走した。友人知人に頼んだり、姉は飼い主募集の貼紙を作ったり。もともとクンクンとの出会いは拾ってきたところから始まるのだ。だから捨てるなんてありえない。これは家族みんなの思いだった。

家族総出で手を尽くし、幸いにも親戚、僕の同級生、父の会社の同僚・・・5匹とも新しい飼い主のところに引き取られた。

僕の同級生に引き取られた子犬は、同じ町内に住んでいることもあって散歩の折りによく会った。母に会えるうれしさか子犬の方はいつもおおはしゃぎだった。

父の同僚が引き取ってくれた雌の子犬は大きくなって子供を産んだ。生まれた子犬は飼ってくれる人を探してみんな引き取ってもらったそうである。そこの家では動物の子が生まれるところを家族に見せて体験させたいから、とあえて雌を引き取ってくれたのだという。子犬が生まれることが体験できるのは素晴らしいことだと思う。

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