第4話 散歩道
クンクンは散歩が大好きである。毎日、散歩をさせるのが家族の日課で、誰かが散歩に連れていくのだ。一番散歩をさせているのは母であろう。飼い始める時に散歩をさせると言っていた僕たち子供は実際のところはあまりさせていなかった。よく母からはそのことを言われていて、その度に僕は
「お姉ちゃんよりたくさんさせてるよ。」
などと五十歩百歩な言い訳を繰り返していた。
大きくなったクンクンの力は強く、散歩をさせているというよりはクンクンに引っ張られて散歩をさせられているみたいだった。散歩に行くのはいつもクンクンの気分しだいだった。長く歩き回る時もあるし、早く帰宅したがる時もある。クンクンは雨が嫌いで、雨が降っていると散歩には行こうとしない。散歩に誘っても
「なんでこんな雨の日に散歩なの。」
という顔をして、ぷいと顔を背けて小屋にこもってしまう。散歩の途中で雨が降り出そうものなら家へ急いで帰ろうとする。よく家の方向を覚えてるな、と思うのだが、自ら家の方向に向かっていく。逆に雨が続いた後の晴れた日なんか、ここぞとばかりに歩き回ろうとする。こっちがいい加減に疲れて家まで帰ろうものなら、我が家の前まで来てるのに
「この家は我が家じゃないよ。」
という顔をして通り過ぎてさらに歩き回ろうとするのだ。そして散々歩いた後、自ら向かう先は先程知らん顔をしたあの我が家であった。
クンクンは年に一回、市が行う予防接種を受けている。何箇所かの会場で行われており、我が町内のはずれにある公園もその会場になっている。でも、クンクンは注射が嫌いである。連れていく時は散歩だと言って誘うのだが、感のいいクンクンは行きたくないと駄々をこねる。結局は無理矢理引っ張って連れていく。
でも力のある犬が行くのを嫌がっているを引っ張るのは大変なことだ。さらに会場に着いても獣医を前にして暴れて抵抗する。いくら予防接種はクンクンのためだと言い聞かせてもだめで、クンクンはただ注射を嫌がるのみである。毎年なんとか苦労の末に予防接種を終えている。
注射といえば、動物病院に連れていくのも一苦労である。具合が悪くなると動物病院に連れていくのだが、だいたい注射を打たれることになるので行くのをいやがるのだ。ある時、クンクンの様子がおかしいことに気付き、側に行って身体を撫でてやったところ、
「キャン!」
とクンクンが悲鳴をあげた。足を触ると痛がることがわかり、これは足の骨でも折ったかと車に乗せて母と動物病院に向かった。この時ばかりはクンクンはおとなしかった。診察する先生のことを不安げに見つめていると、おもむろに先生がこう言ったのである。「これは神経痛ですね。」
その診察結果に待合室にいた他の人たちからも驚きの声があがった。
「犬に神経痛なんてあるんですか。」
犬には似つかわしくない病名だったことに驚いてしまった。と同時に深刻な状態でないことがわかりホッとした。
「しばらくすれば直ります。」
先生の言葉通り、無事直った。それにしても犬が神経痛とは。




