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反転術師は成長とともに  作者: ルーザー
1章 反転する運命

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39話 覚悟

「はぁ……はぁ……!」


俺は荒い息を吐きながら、ノアと向かい合っていた。

何度も剣を振った、何度も攻撃を仕掛けた。

それなのに、ノアにはほとんど傷ひとつつけられていない。


「……そろそろ終わりにしよう。」


ノアが静かに告げる。


「まだ……終わってねぇよ…。」


俺は剣を握り直した。実は、俺には一つ作戦があった。

俺はノアの攻撃に合わせて、ユニークスキル《反転》を発動させる。

この力は、物事の性質や状態を反転させることができる。

そして、俺が考えた使い方は二つ。

一つは、自分の身体に反転を使って傷ついた状態を回復させること。

もう一つは、相手の攻撃を反転させ、一瞬の隙を作ることだ。

まずは自分の身体を立て直す。


「【反転(リヴァース)】!」


身体の奥で魔力が巡る。

痛みが少しずつ和らぎ、疲労で重くなっていた身体に力が戻ってくる。


「……何?」


ノアが初めて不思議そうな顔をした。俺はその隙を逃さず、地面を蹴った。


「これで決める!」


剣を振り下ろす。

――キィン!

ノアは剣で受け止めた。だが、俺はすぐに次の動きへ移る。


「【反転(リヴァース)】!」


ノアの攻撃の性質を反転させ、剣を押し返す。その一瞬、ノアの体勢が崩れた。

いける!そう思った瞬間だった。


「……なるほど。」


ノアの声が聞こえた。


「それがお前の能力か」

「っ!」


ノアは一歩後ろへ下がる。

そして、今まで見せたことのない動きをした。


「仕方ないな」


ノアが片手を前に出す。その手の周囲に、冷たい空気が集まり始めた。


「……何だ?」


空気が凍りつくような感覚。地面に霜が広がり、周囲の温度が一気に下がっていく。


「【氷結(フリーズ)】。」

「まさか……!」


ノアの足元から、鋭い氷の柱が飛び出した。俺は咄嗟に横へ飛び退く。


「危ねぇ……!」

「…よく避けたな。」


ノアは淡々と言った。


「だが、次はどうだ?」


空中に複数の氷の槍が現れる。


「【氷槍(アイスランス)】」

「うおっ!」


氷槍が一斉に飛んできた。俺は剣で弾き、避けながら距離を詰めようとする。

しかし、ノアは手を動かした。


「凍れ」


足元が一瞬で凍りつく。


「しまっ……!」


動きが止まった俺に、氷の塊が迫る。


「ぐああっ!」


身体が大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「がはっ……!」


剣が手から離れ、少し離れた場所へ転がっていく。


「リヒト!」


リアの声が聞こえた。俺は何とか身体を起こそうとした。

だが、今度はさっきのようにすぐに立ち上がれない。くそ……。反転で回復したのに……

ノアは静かにこちらを見下ろしていた。


「自分の身体まで回復させるとはな。厄介な能力だ。」

「……だったら、もっと厄介だと思わせてやるよ。」

「もういい。終わりにしよう。」


ノアの手に、再び冷気が集まる。俺は剣のある場所を確認した。

遠い。今の状態で取りに行くのは難しい。


(どうする……?)


◇◇◇◇◇


――森の中。


「おらあっ!」


ガルドの拳がレオンに迫る。

レオンは剣で受け止め、そのままガルドの腕を狙って斬り払った。

――ザンッ!


「ぐっ……!」


刃がガルドの腕を捉えた。


「これで終わりだ!」


刃がガルドの腕を捕らえた…はずだった。

瞬間ガルドの姿が揺らいだ。


「……何?」


ガルドの身体は煙のように消えてしまった。


「残念ですネ」


背後からクオンの声が聞こえた。レオンが振り返る。


「幻影……!」

「正解ですヨ。私が作り出した幻でス。」

「くっ……!」


その瞬間、横から強烈な衝撃が襲った。


「ぐあっ!」


レオンの身体が吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられる。


「どうですカ? 幻に気を取られたところを狙う。なかなか効果的でしょウ?」


クオンが笑みを浮かべる。その隣には、本物のガルドが立っていた。


「チッ。俺にも殴らせろよ。」

「もう十分でしょウ。あとは私に任せてくださいネ。」

「…好きにしろ。」


レオンは痛む身体を起こし、二人を睨んだ。


「お前たち……ただの犯罪者じゃないな。」

「ほウ?」

「戦い方も、行動も不自然だ。何か目的があるはずだ。」


クオンは少しだけ黙った。そして、いつもの笑みを浮かべる。


「鋭いですネ。」

「答えろ!」

「仕方ありませんネ。少しだけ教えてあげましょウ。」


クオンはレオンの前に立った。


「私たちは王国に仕える者でス。」

「王国……?」

「ええ。簡単に言えば王国のスパイですヨ。」


レオンの表情が険しくなる。


「スパイだと……?」

「今回の目的は、ある組織の手がかりを追うことでしタ。ノアも、その調査対象の一人だったんですけどネ。」

「なら、なぜあいつを止めなかった!」

「私たちには私たちの任務がありますからネ。あの場で正体を明かすわけにはいかなかったのでス。」

「だからといって、あいつが何をしてもいい理由にはならないだろ!」

「……それは否定しませんヨ。ワタシだってあんなことになるとは思いもしませんでしたからネ…。」


クオンはガルドへ視線を向けた。


「おしゃべりはここまででス、そろそろ行きましょうカ。」

「ああ」


ガルドがレオンの背後に回る。


「くっ、離せ!」


レオンは抵抗しようとしたが、身体に力が入らない。

ガルドは手早くロープを取り出し、レオンの両腕を縛った。


「おい、何をするつもりだ!」

「別に何もしませんヨ。」


クオンは淡々と答える。


「ここで大人しくしていてくださイ。私たちは先へ進みますかラ。」

「待て! リヒトたちはどうするつもりだ!」

「それはあなたが心配することではありません」


クオンは軽く頭を下げた。


「では、失礼しますネ」


二人はそのまま森の奥へと姿を消した。


「おい! 戻ってこい!」


レオンの声が森に響く。しかし、二人が戻ってくることはなかった。

木の根元に縛られたまま、レオンは悔しそうに拳を握る。


「……くそっ。リヒト、無事でいてくれよ」


◇◇◇◇◇


――ゴブリンの集落。


「はぁ……はぁ……。」


俺は地面に片膝をついていた。

目の前には、相変わらず涼しい顔をしたノアが立っている。


「もう立てないか?」

「……まだだ。」


俺は何とか顔を上げた。

ノアの手には、再び冷気が集まり始めている。

まずい……

《反転》を使って身体を回復させた。

それでも、ノアの氷結魔法には対応しきれない。剣も手元にない。

このままでは、本当に終わる。


「終わりだ」


ノアが手をこちらへ向ける。

……最終手段だ。もうやられっぱなしじゃ駄目だ。

……仕方ない

頭の中に、一つの選択肢が浮かぶ。けどリア達を守るにはこれしか思いつかなかった…。

できれば使いたくなかった。けれど、今はそんなことを言っていられない。これしかない……!

俺はゆっくりと顔を上げた。


「……ノア」

「何だ?」

「お前、俺のことを見誤っているぞ」


ノアがわずかに眉を動かす。


「まだ何かあるのか?」

「ああ。最後の切り札がな」


俺は心の中でスキルの名を唱えた。

反転術師のレベルが上がったことで手に入れた、もう一つの力。

自分の姿を反転させる能力。


「【性反転(アニマ・リヴァース)】」


その瞬間、俺の身体が淡い光に包まれた。


「……何だ?」


ノアが警戒し、一歩後ろへ下がる。

光は徐々に強くなり、俺の身体を覆い隠していく。

やがて光が消えた。

そこに立っていたのは、先ほどまでの少年ではなかった。

茶色の髪に、赤みを帯びた瞳。

女性の姿へと変わった俺は、ゆっくりと自分の手を握り、身体の感覚を確かめた。


「……ふぅ」


そして、目の前のノアを見据える。


「……誰だ?」


ノアの声に、初めて警戒の色が混じった。

アタシは小さく息を吐く。


「アタシは……エレナ・スカーレット。」


燃え盛る集落の中。

リヒトは最後の切り札を使い、エレナへと姿を変えた。


「貴方を今から殺す女の名前よ。」


……覚悟はできた。

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