後日談・夏「弟分」
久しぶりに大牙熊の討伐依頼が出ている。Cランクに到達したし、この依頼が来るのをずっと待ってた!
例年なら春先に出るはずだった依頼は今年はぐんと少なくて、挑戦したくても出来なかったし。
「熊を倒してからこそ一人前」という辺境冒険者ギルドの慣習もあり、今年こそはと思っていた。辺境で言う熊はただの熊ではなくて大牙熊を指す。
なんたって辺境には魔王がいるからな。それも二人。バルドレムさんとリシアンさん……この二人の目を掻い潜って依頼の受注をすることからまず難易度が高い。
ギルドにいつもより冒険者の数が少ないのは、すでに熊を狩ったことのある者が二人を足止めに行っているからだろう。
受付にいそいそと聞きに行くと、すでに同じ依頼の説明を聞いている人がいた。
「げっ……」
ルカさんだ。この人もまたヤバいんだよなぁー。隣国から来たと思えば、淡々とソロで難易度の高い依頼も受けている。……超カッコいいから、何ならこの人のが見た目でいうと魔王っぽいかも。ここまで出来過ぎてるとなんかなぁ、違う生き物っぽさがある。
「君たちも同じ依頼にするんだ?頑張ってね」
去り際にこちらをちらりと見ただけで、依頼内容を把握している。ちょっと笑っただけで破壊力がエグい。
分かりたくないけど、酒場でも街の店でも……キャーキャー言われるのを完全に理解した。
「スピナシアさんたちは初めてですね!それでは説明を」
まずはスピナシアはパーティー名ではない事を説明する事になる俺たちとは大した違いだよなぁ!
薬店はまだ開いているか、バタバタと準備をする。火傷薬は必須だなんてと思いながら財布の中を確認する……ギリギリいけるか!
いつもより混み合っているのはリシアンさんを止めるためだろう。
「リシアンさん、火傷薬をください!」
雑談に付き合わされてげんなりという顔をしているリシアンさんが……俺らを見てニヤリと笑った。……ヤバい、あの顔はよくない。
「あぁ、そういう事ね」
期限が近いからと割り引かれた薬を受け取るも、この人がわざわざそんな事をするなんておかしい。
「スピナシアの……バカっ!」
「魔王が勘付いた、急げ!!」
バタバタと冒険者たちが薬店を出て行く中、ポツンと一人だけ残っている。
「リシアン、朝の仕事は終わり?そろそろ行こっか」
「そうだな、たぶんこいつらで終わりと思うしギルドに寄ったらすぐ行く」
雑に釣り銭を渡して立ち上がるリシアンさん。
「共同依頼で受付は終わらせてるから大丈夫だよ?」
「マジで?超助かる」と笑いながら話している二人に完全にやられたと思った。魔王に参謀がついた瞬間とは誰が言っただろうか。
振り向いたリシアンさんが口パクで何か告げるのを放心して見ていたけど、すぐさま動かないとマズい!
誰かこの二人を……止められるわけがないよなぁ?!と思って全力で森まで走ることになる。
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「リシアン、あの子たちを随分と気に入ってるんだね」
そう言われて立ち止まる。……あの子たち?
「からかいすぎはよくないよ、かわいいのは分かるけど」
分かっているよという顔はやめてくれ。まさかあいつらか?スピナシアがかわいいだって?
「ないない!あいつらバカだしちょっと目を離すとすぐ金欠でさぁ」
あと何よりバカだし……今も後ろから着いてきてんのバレバレなんだよ!もうちょっと潜め、尾行するんなら真面目にやれ。多少は冒険者として使えるようになってきたけど、どうにも危なっかしい。
「そういう事にしといてあげる」
……ルカも中々いい性格になってきたよな。
シルフィーがいち早く足を止めたから俺たちもそれに倣って止まる。地面の匂いを少し嗅いでそこからは迷わずに進んでくれる。犬のおまわりさんか……いや、回ってない。相変わらず意味のない単語ばかりを思い出す。せっかくならもう少し役立つ事を思い出したい。最近は何となくギンさんに負けた気がして悔しい。
だらだらと考え事をするのはここまで。シルフィーが勢いよく駆けていく、かっけぇ。かなりの体格差はあるけれど熊をきっちり追走してこちらに誘導をしてくれている。
さてと……と思ったら、三馬鹿が飛び出す。
「リシアンさん、お先です!」
「誘導あざっす!」
……馬鹿なのかな?ソウだけはゴルディにあっさり捕まっ……待て、飴で懐柔するな。ゴルディもそんなやつから貰ったものを気軽に食べたらダメだって!と慌てているうちに逃げ出しやがった。
ルカはルカで……何ゆったりと眺めてんの?
「ちょっとルカ、あいつら止めなくていいの」
「ん?たまには他の冒険者がどんな感じか見たいなと思って」
お前ってやつは。本当にパーティーの冒険者が物珍しいんだろうな。シルフィーも気が付けばルカの横に控えているし、完全に手を引いたな。仕方ないから俺もスピナシアVS熊の観戦をする。
連携もとれてるし悪くはない。けれど、いかんせん間合いが悪いし完全に牙の方にしか目がいってない。
爪の色が変わったのにあいつら気が付いてんのかな?あれは魔法の発動の兆候で……と見ているだけのが気が休まらないんだけど。とりあえずそっと土魔法で熊の足元に小さな穴を作る。よし、体勢を崩して空振った。ルカはそんな俺を見て笑っている。
「……もういいよな?あいつらに任せてたら終わんないし」
「そういう事にしとこうね、元は俺たちの獲物だし」
どういう事にするつもりかちょっと後で詳しく。とりあえず邪魔なスピナシアはゴルディにどかしてもらう。……強めにふっ飛ばされたな。安い飴で懐柔するからゴルディもお怒りだよ。
「ちょっと!何で邪魔っ」
「もうっ……ちょいで俺たちだって!」
こんくらいで息も上がってんだからジリ貧だろ、分かれよ。ルカがあっさりと闇魔法で熊を絡め取り捕獲。完全に動きを止めてくれてるから今回はめっちゃ狙いやすいな。いつもの射出機でそのまま仕留める。
「もうちょいで何だって?」
「「「すみませんでした」」」
分かればいいんだよ。
「リシアン、その射出機ちょっと見たい!」
完全にスピナシアも熊も眼中にないルカが嬉々としてこちらにやって来た。外して渡すと構造を見ようとすっかり夢中。楽しそうでいいね、ちょっとまだ熊の運搬とかあるけど、俺とゴルディと精霊たちしか働いてないよ?
帰路もずっと射出機を見て「どこで作ったの?素材は?」と質問が止まらない。
「そんなテンション上がってんのも珍しいね?」
「……職業病」
にやっと笑って言うあたり本当に……突っ込みづらいからやめてほしい。王家の影を輩出している家柄だから冗談に聞こえねぇ。後ろでスピナシアがさっきから「ヤバい」以外の言葉を忘れたのかってくらいそれだけで会話してる。
冒険者ギルドで、依頼完遂の届けをしながらスピナシアをちょいちょいと手招く。
「あ、俺らも戦ったし合同?」
「マジか?!さすがリシアンさん!」
無視してギルド長にこいつらをまとめて渡す。
「ギルド長、こいつら熊のことよく覚えてないみたいだから補習よろしく。このままだとヤバい」
あんまりヤバいヤバい言うからこっちにも感染ってんじゃねぇか。まだギャーギャー騒ぐのを置いてそのまま出て行く。
「あれがリシアンの弟分ねぇ……」
ギルドを出たルカがぽつりと呟く。
「どれが何だって?」
やめてほしい。いらない、あんな弟分……。
「まぁ素直そうだしいいんじゃない?リシアンは年下をからかう癖があるから気を付けなね」
そう笑って言うルカだって人の事は言えねぇだろ……。最近知ったけど、ルカは俺より一つ年上だ。




