春編39話「報告」
「とっとと吐け!お前たちが何かやった事はもう分かってるんだ!」
目の前には師匠と騎士団長。そして扉の前は選りすぐりの騎士たちが固めている。
「また抜け出してきたのですか?!陛下がどれほどお嘆きになるのか分かっておいでか?」
尋問かな……助けを求めようにもギンさんはギンさんで怒られている。
「リシアンはこっちに集中!」
「はい!」
反射的に返事はするけど、どう説明すればいいのやら。
「あとさっきから何を隠している?」
さすがに手のひらサイズの白玉もちはポケットとフードとに押し込んだけど、どうにも目立つ。あと外に出たがるしでもう隠せない。ひょこっと顔を覗かせた玉を見て師匠が固まった。
「……それは?」
「こないだの仔蜘蛛です。立派な成体に育ちました」
無言でゲンコツが落ちた。正直に言ったのになぜ?
白玉もちが抗議するように俺の前に立っているし。あ、師匠が下がった。よくやった、お前ら。とりあえずこいつらを前にしとけば師匠は食い止められるかもしれない。
「……その、何だ?魔獣はそんなに急激に大きくなるものなの……か?」
うん、完全に興味の方向がこちらに向いたな。
「そのようですね」
「魔獣じゃないよ?白玉もちぃはー守護獣ー!」
しまった。こっちを止めないといけなかったか。
「火乃、ちょっと待て。ちょっと今は黙ってて?」
慌てて止めたけど、もう遅い。守護獣とはどういう事だと師匠から詰め寄られる。
「どうやって単独でここまでやって来たというのですか!」
ギンさんは黙りを決め込んでいるし、まずはそこからだよな……。俺も気になる。
「オジサンはぁ、お城の抜け道いーっぱい知ってるもんねぇ!だからね、それと魔法でビューンって!楽しかったぁ」
あ、騎士団長も黙った。ごめん、ギンさん……。
「そっかぁー?火乃くん楽しかったかー。今度はおじさんと一緒に他国までお出掛けするか?こっちには色々と武器もあってだな」
騎士団長がデレている。そして火乃の興味を引こうとしているのか色々と騎士団のアピールを始めた。
何これ。
「リピニャアがまたお城で迷子になっても大丈夫だからね!火乃、オジサンと色んなとこ行ったから火乃に任せてね!」
それはちょっと任せられない。やめてくれ、絶対それ王族しか使えない抜け道とかそんなんだよね?
ギンさん、ちょっと目を逸らすのやめてもらえませんか?うちの精霊に何てことしてくれたんだ、この人。
「火乃、城で覚えた道は忘れろ。俺も迷子にならないからな?」
「わかった!王様の内緒の道、忘れる!」
陛下も……?いや、まさかな。
「あー、もうっ!話が進まない。ルイシン殿下とレオナリスを呼べ!!」
堪らずと言った具合に師匠がブチ切れた。
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「リシアン……」
一先ず怪我はないようで、その姿を見て安心する。
「ごめんね……」
耳飾りを手渡して、そのまま手をぎゅっと握る……温かい。生きている。無事でよかった。
不思議な雰囲気の冒険者からリシアンは無事だと伝えられて、彼の妙な説得力に納得はしたけれど……実際に見るまでどうにも不安は拭いきれなかった。
「えーっと……何がです?すみません。兄上も何か思うとこ、あったんですよね?」
バツが悪そうにして、ちらちらとこちらの様子を見るなんて前世の弟ならまずしない。彼なら大して悪びれもせずに「何?機嫌が悪かったの?」と仏頂面をするはずで。僕は、今まで何を見ていたんだろうか。
「……ううん、ごめんね」
いよいよどうしていいか分からないというように、困った顔をするリシアン。
「信じてないとかじゃなくて、僕がずっと心配してただけ。何があってもリシアンは僕の大事な弟だからね。君の強さは僕もちゃんと知ってる」
しがみついてそう言う僕に、おずおずと背中に手を回すのは不器用で甘えるのがどうにも下手くそな僕の弟。
◇──◇──◇──◇──◇
「何をしてきたのか素直に言いなさい!」
感動の再会は、一瞬で終わった。何をやらかしたのか集団魔獣暴走は消え失せ……リシアンが捕縛してきたという隣国の隊長の取り調べの速報で「魔王が現れた。魔法が使えない」だって?
「いや、俺は何も……」
首を振っているが、そうはいかないからね!
「叔父上!何をしたのです?」
「いやー……俺は見てただけで」
「何を見たのかを言えって言ってんですよ!」
あちらでも同じような会話が繰り広げられている。
「リシアンの魔王ムーブで隣国撤退?」
「ちょっと、全部こっちのせいにすんのやめてもらえません?」
慌ててギンケイ様を止めようとし始めたので、やっぱりリシアンが何かを仕出かしたらしい。
「リシアン?これ以上、誤魔化すと怒るよ?」
しばらく逡巡してからやっとその重い口を開いたのはいいんだけど、どうにも信じ難い話だった。
ちょこちょこと「火乃くんの実況で見ていた」というギンケイ様の補足がなければ、誰も信じなかったと思う。
その補足せいで余計に、騎士団長とバルドレム先生とは呆気にとられていたけれど。僕は……僕とルイシン様だけは前回の事があるから「そうだろうな」と受け入れるのは早かった。
従魔の幻蚕と玄蜘蛛の群れを操り、更には精霊の力を借りて集団魔獣暴走を止めた。裁定にて隣国軍から魔法を簒奪してきたと……。しきりに「全員ではない、軽装のは無事だったからそれで撤退していって!」とアピールしているがそういう事でもない。
「取り込み中、失礼いたします。街道から侵攻してきたモンテディオス軍についての報告なのですが……」
記録官のアグニスくんがもたらした情報でさらに場は混乱する。そちらもほぼ同時刻、魔法簒奪の可能性……。
「やってない、そっちは違うから!」
「俺もそれは知らないよ?マジで!」
この期に及んで言い訳をするリシアンとギンケイ様に、僕たちの白い目が一斉に向いた。




