春編27話「騎士団到着」
王都へ第三騎士団の派遣要請をして二週間。着実に騎士団の受け入れ体制が整いつつある。
冒険者は騎士団と共闘する形になるだろうから、そのへんも詰めていかないとな。なるべく森から麓にかけて魔獣たちは堰き止め、街への被害を抑えたい。
ギルド長と仮編成を考えていた時だった。
「領主様!」
朝も早いのにクレメンテが……いつもきちんとしているのに、髪は乱れてクラバットもなしとはまたどうした?少しは辺境慣れしてラフな感じに仕上がってきたのか。嫌な予感がしてくだらないことを考える。
「大変です。騎士団が間もなく到着します……!」
うっそだろ、おい。王都から辺境まで二週間はかかるんだけど。
ジジイの見立てでも早くても三週間。一ヶ月は待つのを覚悟するようにとのことで……。誰を派遣させるかといった調整もいるし、辺境までの距離を考えるとそれでも早い方だからって。
「ギルド長、ちょっと姐さんにもう騎士団が着いたって伝えてきて!」
「あいつがどんだけ恐ろしい女か知っていて頼む口調がそれか?!」
知ってるから一番にそれを頼んでんだよ!騎士団の受け入れ予定地だしな?ギルド長だって自分の妻なんだから、何とかしてくれるだろう。
「俺は師匠にこの事を伝えてくるから!」
ギルド長の返事を待たずに冒険者ギルドを飛び出た。着替えがとは少しだけ頭を過ぎったが、薬師のローブは正装の時も使えるしこれさえあれば大丈夫だろう。
師匠は改造魔獣の一件からずっとこちらの、麓の薬店に常駐している。またジジイと暮らす羽目になるのかと思ったけれど、忙しさもあってそこまで気にならなかったしこんな時はめっちゃ助かる。
だけどまずは
「ジジイ!もう騎士団が到着するらしいんだけど?!あと一週間はかかるって言ったじゃん!」
一拍置いても、いつもの怒鳴り返す声がしないので「あれ?」と身構えていた手を下ろす。師匠も驚くことってあるんだなと思った。
慌ただしく師匠と準備が済んだ頃には街の入口には先頭が来ていた。セーフと思ったけれど、街の人々も気になってか大半が外に出てきている。
パレードさながら、多くの人々に見られながら麓までまた戻らなくてはならない。……馬車の中へと案内されたから見られないのはいいんだけど。
目の前に座っているのは今回の陣頭指揮を執るという騎士団長。間近で見るのは初めてだし、何とか着いてきてもらった師匠がいなければ一人で対応とか無理だったかもしんない。
まさか騎士団長が来るとは思ってなかった。そんだけの事態、国としての危機レベルなのかということを痛感する。
「ヴァルディリア辺境伯と話すのは初めてだな。息子から話は聞いているよ」
アグニスとよく似た赤色の髪によく響く声をしている。非常時とは思えない気さくな物言いだが、馬車の中だと少しうるせぇ。
「ご挨拶が遅れ申し訳ございません」
夜会では何やかんやギンさんに捕まることが多く、ほぼそのへんが出来ていない。師匠にもめちゃくちゃ怒られたのはそのへん……。
「アグニス……御子息とは仲良くさせていただき」
「そちらではないよ?イグナートから聞いている」
ん?イグナートってあの……セイラン様の護衛騎士の人!
「目を離すなと言われているからな!お手柔らかに頼むよ?」
えーっと……あれか?以前、うっかり王城で迷って第三騎士団の演習場に行ったのを回収されたことか。はたまた一服盛られてハゲたおっさんに攫われた一件のことなのか。
どっちも俺を回収するためにいた気がする。ヤバいと思っていると
「冗談だよ!思っていたより随分と素直な子じゃないか」
からかわれただけと気が付いたけれど、顔に出ていることをやんわりと指摘される。怖くて師匠の方は見れない。麓に着くまでがこんなに長く感じたことはなかった。
やっとで到着したところで
「まだ受け入れ体制も整っていないだろう?我々は野営に慣れているので、その点は気にしないでくれ。場所だけを提供してもらえたら助かるのだが?殿下たち含む数人は何処かで受け入れてもらえたらそれでよい」
「いえ、旧領主館が麓にございます。現在は……別の者が管理している場所になりますが、内装は改修されております。場所も森に面しているのでそちらをご利用いただければと」
クレメンテはまだか。俺一人でこれ以上を乗り切るのは無理なんだけど。
「ふむ……領主館も建てずに薬店に住んでいると聞いていたが、本当なのだな」
いや、シンプルにいらなかったからです。意味なく広い領主館とか建てても、たぶん住まないし使わないし……?宿屋を改修した薬店はそれなりの広さもあるからそれで十分だったしな。
「ただ馬を休ませる場を整備している途中なのでこれが整い次第、ご案内してもよろしいでしょうか?」
これを言い訳に引き伸ばそうとしたらダメだった。
「この短時間でそこまで!後の整備は騎士団で引き受けよう。ぜひそこまで案内してくれ」
ガッツリ捕まった。というのも騎士団長も大の馬好きだった。騎士団の馬たちの受け入れの際は、基本的に牧場の一角を貸し出すものらしい。わざわざ新たに作らないんだってな。……いたく感激されている。
師匠も俺が馬の場所が〜とか言ってても「はいはい、またか」と雑にあしらうだけで特に必要がない事は教えてくれなかった。仮にいらないと言われても……「あった方がいいじゃん!」と作ったと思うから何ともいえない。
助けてクレメンス……と思いながら、クレメンテを探したら黙って首を横に振られた。
諦めろということなのか。
そうして到着した旧領主館こと現在は館と呼ばれるその場所へと着く。
「お待ちしておりました。この度はありがとうございます」
冒険者ギルド長夫妻が揃って頭を下げている。他の者はいない。
「辺境冒険者ギルド長とその妻であり……現在の館の主です」
そう紹介をする。とりあえず中まで案内するが、明るく清潔感のある館に騎士団長は感心している。旧領主館の雰囲気をそのままに、平民がしたとは思えないレベルの改装だからそういう反応になるよな。
「騎士団長様にお願いがございます。ここに務めている者は若い娘が多く住み込みでございます。宿屋では無粋な冒険者に絡まれないかと心配で……決して自室から出ることは許さないのでどうか」
……姐さん、すげぇな。騎士団長相手にそれやれるんだ。てか、直々に話し掛ける勇気がまずおかしい。くぐった修羅場の数が違うとはこういうことか。
「我々が後から来た身。そこまで遠慮しなくともよい。自室から出さないなどと言わず、自由に過ごしてもらって構わない」
姐さんはそれは綺麗に笑った。年齢を聞いたらびっくりするんだけど、とてもそんな年には見えねぇんだよな。
「ほら、皆!騎士様が許可をくれたわ。御礼に出てらっしゃい」
そう一声掛けると、奥から色とりどりに着飾った見目美しい女性たちが出て来た。全員揃うとまた壮観だなと思う。貴族令嬢に負けず劣らずって感じ。
「これはまたどこの御令嬢かと……貴女が宿屋を心配する気持ちもよく分かる。住み込みで勤めているというが、ここでは何を?」
ここにきて姐さんが鋭く俺に言えとばかりに、微笑をキープしたまま俺をガン見してくる。
何ならこの事を知る全員が俺の方を見て「とっとと言え」と圧をかけてきている。
「……娼館、です」
「…………」
永遠とも思える長い沈黙だった。師匠からはここまでくるといっそ「娼館の別の言い回しを教えていなかった俺の責任だ」と怒鳴られもしなかった。
動揺しているらしき騎士団長に師匠が
「すまん。旧領主館という森に面した広い土地……あまりにも立地と内装がよくて他の候補が霞んだんだよ!」
半ば自棄になったように、ほぼ怒鳴って説明していた。




