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続・片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww〜辺境伯編〜  作者: 康成


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春編21話「至急」

「火乃、リピニャアのとこに帰るー!」

「まあまあ、そう言わずに。ほら、こっちもお食べ?」

 何がどうしてこうなった。ここは国王陛下の執務室で間違いないはず。陛下が手ずからリシアンの契約精霊だという火属性の精霊様にお菓子を与えている。

「餌付け」という単語が不意に頭を過ぎったが忘れよう。あまりにも精霊様に失礼過ぎるが……この食べっぷりはリシアンに似ていて苦笑した。

 なぜ事態はこうなったのかを思い出しつつ、最早何も感じない胃のあたりへと無意識に手が伸びた。


 

 ◇──◇──◇──◇──◇


 セイラン様の執務室に帰国早々、ギンケイ様が突撃してきたのは分かる。なぜかモンテディオス王国の第二王女殿下を連れ帰っていたことには驚いたけれど。

 その王女殿下を休ませる手配を先にしたあたり、この方もきっと成長されたのだろうと己の上司かつ王族を生暖かい目で見る。

「兄貴に報告へ行くけど、セイたんも一緒に来て!思ったより大変なことになってる」

 

 ギンケイ様をもって大変とは国家非常事態じゃないだろうか。一伯爵家の僕が聞いたらまずいはずだ。

 その場を辞そうとしたところで、ぽん!と小さく火花を舞い散らせながらリシアンの契約精霊がやって来た。

王様(オーサマ)のとこ行くの?火乃も行くー!リピニャアが王様に伝えなきゃって言ってた!」

 ドヤ顔をする精霊様こと火乃くん。こちらの言葉を喋る精霊に……この場にいる三人の王族ですら固まった。


 いち早く立ち直ったのは、やっぱりギンケイ様だった。

「うわ、めっちゃ喋ってる!すごいねぇ、えらいねぇ。じゃあおじたんと一緒に王様のとこへ行こうねぇ」

「「待て」」

 そしてその甥っ子二人もまた早かった。

「叔父上、まさかそのまま連れて行くおつもりですか?」

「その精霊はどこの何……」

 あたりまで言ったところでバッと同時に二人の顔がこちらを向く。

「……弟の契約精霊にございます」

 咄嗟に、いつも以上にかしこまった口調になったのは仕方がない。


 ギンケイ様が火乃くんに夢中になっている間に、ルイシン様にもかい(つま)んで事情を説明する。

「辺境の異変か……私たちの報告と合わせるべき案件です」

 辺境の異変と隣国から帰ってきたルイシン様。なぜか連れて帰ったという第二王女。国家機密に巻き込まれそうになっている気がする。

「私はそろそろ失礼します。派遣する医官の選定を……」

「いやっ!」

 小さな手で火乃くんが僕にぴったりと張り付いてくる。うん?君はさっきまでギンケイ様とお話していたよね?


「リピニャアがいつも兄上はすごいって言ってる。火乃、すごい兄上と一緒に王様のとこ行く!」

 とんでもない主張をしてきたな、この子。

 どうしようと頼りになりそうな王太子殿下と第二王子殿下に助けを求めようとする。ギンケイ様はダメだ。あの人は面白がって「いーじゃん!レオナリスくんも行こうよ」と軽いノリで誘ってくる。国王陛下の執務室へと気軽に誘わないでほしいものである。

「レオナリス……」

 ルイシン様が目を合わせてくれない。

「諦めろ」

 続くセイラン様にそう言われて僕は諦めることにした。


 国王陛下の執務室には宰相と騎士団長がすでに揃っていた。

 場違い感がすごくある。

「やっと来たか、ギンケイ。報告を」

 陛下がそう告げると勢いよく火乃くんが飛び出していった。止める間もなかった。

 ここに来るまでに、いきなり話したり出てきたらいけませんとは言い聞かせておいたのに。やはり契約主でもないと精霊様は止められない。

 

王様(オーサマ)至急(シキュー)ようせぇです!辺境(ヘンキョー)魔獣(マジュー)の騎士団ください!」


 空振った手が力なく落ちる。

 リシアンへ。お兄ちゃんは今、とても困っています。緊急派遣要請ですが、お兄ちゃんこそ今ここに君を派遣してもらいたい気持ちでいっぱいです。

 あぁ……魔力枯渇を心配してたけど、きっと元気なんだろうなとは思って落ち着きました。

 僕が現実逃避をしている間に、それぞれぎこちなく動き始めた。各トップともなると立ち直りは早い。


「兄貴、この火乃ちゃんはリシアンの契約精霊でちょっと俺たちの報告とも関係あるんだけど辺境とモンテディオス王国について新たに分かったことが」

 一息で早口にまくしたてるギンケイ様に陛下がストップをかけた。さすが前世ネット民……こういう時に僕は納得するけれど、周りは困惑するよね。

 一つずつ説明しなさいと言われていた。


 モンテディオス王国で魔獣改造実験が行われており、国境でもある辺境大森林で人為的集団魔獣暴走(スタンピード)を引き起こそうとしていること。

 森の民という特殊な能力を持つ少数民族の母を持つ第二王女は、この事実を突き止めてグラティア王国へ亡命しようとしていたこと。

「火乃ちゃーん、森の民って知ってる?」

 喋る精霊様にギンケイ様はデレデレだ。真面目な話をしているんだから、もうちょっとしゃんとしてほしい。

「森の民ぃ知らない!森の仔しか知らない。火乃、王様に報告したから帰るー」

「まあまあ、これでも食べて」

 懐からお菓子を取り出すと、火乃くんはピタッと止まった。そしておいしそうに食べ始める。


 その様子を見て、陛下が何か合図をすることしばし……机の上に山積みでお菓子が現れた。陛下、影の使い方ってそれであっているのでしょうか?

「森の仔。魔獣とお喋りするよ」

 第二王女もその特殊な能力についてはまだ口を(つぐ)んでいたらしいが、思わぬところから情報が来た。


 その様子を見て宰相と騎士団長もお菓子を手にじわじわと距離を詰めている。分かりますよ、情報収集したいんですね。分かりますが……絵面がすごいです。

 そしてその結果、火乃くんは陛下に懐いた。決め手は陛下が選んだショコラだった。それはそうとしてリシアンのところへ帰ろうとしていたが……満腹になったのだろう。そのまま眠ってしまった。


「陛下、決してその精霊様を明日まで……いや出来る限り長く帰さないでください!」

「そうです、我々も聞きたいことは多いのですよ」

 そのためにも、この非常事態を早急に収めねばと張り切っている。

 騎士団長は随分と名残惜しそうに第二と第三騎士団混合部隊の編成のために出て行った。

 宰相も外交の一大事、関係各所への調整へと忙しく手が動き始める。これは、下手したら戦争が始まる。


「ほら、レオナリスくん。俺たちも医官部の編成にかかるよ」

 はい、と返事をして振り返ると陛下の(てのひら)の上。満足気に昼寝をしている火乃くんだけが平和だった。

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